一時保護資格(Temporary Protected Status、TPS)は、武力紛争や災害などを理由に、米国が特定国の出身者を一時的に送還せず、就労を認める制度だ。ハイチとシリアを対象とする保護は、米連邦最高裁が政府の終了判断に対する司法審査を大幅に制限した後に終わり、約35万人のハイチ人と約6000人のシリア人が影響を受けた。

最高裁判決──非憲法性の請求は審査対象外

米連邦最高裁は6月25日、Mullin v. DoeとTrump v. Miotを合わせて審理し、6対3で下級審の判断を破棄した。移民国籍法の規定は、国土安全保障長官によるTPSの指定、延長、終了に関する非憲法性の請求を司法審査から外すと判断した。ハイチの終了決定に対する人種差別の主張についても、原告側が勝訴する可能性は低いとした。

判決が扱ったのは、国単位のTPS指定を終える行政判断を裁判所がどこまで審査できるかという問題だ。個々の受給者が亡命申請、家族関係などを根拠に別の在留資格や救済を得られるかを一律に否定したものではない。

重ねられた旅券と移民手続きの書類(イメージ)
TPSが終わると、TPSだけを根拠とする送還からの保護と就労許可に影響が及ぶ。(イメージ/Photo by Kit on Unsplash)

ハイチは16年、シリアは14年続いた保護

ハイチへのTPS指定は2010年の大地震後に始まり、政権交代をまたいで延長と再指定が繰り返された。国土安全保障省の告示は、保護が約16年に及んだ経緯と、TPSに基づく就労許可証の区分がA12またはC19であることを示している。訴訟に伴う短期延長を経て、ハイチ向け就労許可は7月27日以降更新されなかった。

シリアは2012年3月にTPSの対象となった。国土安全保障省は2025年の終了告示で、承認済みの受給者を6132人、審査中の申請を833件と推計した。同省は、アサド政権崩壊後に暴力が全国規模の内戦から散発的なものへ変わったとの評価や、本人確認をめぐる安全保障上の懸念を終了理由に挙げた。これらは政府の評価であり、帰還の安全性をめぐる異論まで解消したわけではない。

米国生まれの子ども5万人との別離リスク

NPRが取材したプリンストン大学研究者の推計では、ハイチのTPS受給者を親に持つ米国生まれの子どもは約5万人に上る。親が送還対象となれば、子どもとハイチへ移るか、米国の親族や指定した保護者に預けるかという選択が現実の問題になる。米移民・税関捜査局(ICE)がどの程度の規模と速度で拘束や送還を進めるかは明らかになっていない。

同報道によると、ハイチでは2021年の大統領暗殺後、武装集団が領土やインフラ、経済活動の広い範囲を掌握し、住民の移動を制限している。TPS終了を決めた米政府の治安評価と、受給者や支援団体が訴える帰還後の危険には大きな隔たりがある。

メリーランド州東部、礼拝と地域活動が縮小

人のいない教会に並ぶ木製の長椅子(イメージ)
メリーランド州東部のハイチ人社会では、拘束への不安から教会や地域活動への参加が減った。(イメージ/Photo by Karl Raymund Catabas on Unsplash)

AP通信によると、メリーランド州ソールズベリーのWord of Life Centerでは、8月2日の礼拝出席者が通常の500人超から半分以下に減った。ブライダルシャワー、バーベキューを伴う慈善販売、英語教室も中止となった。住民が拘束や送還を恐れ、外出を控えたためだと教会側は説明している。

ソールズベリーは人口約3万3000人で、その約1割をハイチ人が占める。農場、介護、地域経済を支える鶏肉加工場で働く人が多い。TPSだけを根拠に働いていた人の就労許可が切れれば、本人の生活に加え、雇用主と地域の人手にも影響する。ただし、これはメリーランド州東部の一事例であり、全米で同じ規模の欠勤や事業への影響が起きたとは確認されていない。

米国の移民保護をめぐっては、国外退去当日の移動を理由にDACA終了を通知された女性の訴訟も続く。制度は異なるが、行政判断と個人が持つ別の権利を分けて見る必要がある。関連記事は「米、国外退去当日の移動理由にDACA終了意向通知」で詳報している。

よくある質問

TPSは永住資格なのか
TPSは対象国の状況を理由に送還を一時停止し、条件を満たす受給者に就労許可を認める制度だ。それ自体が永住権や市民権への移行を保証するものではない。

最高裁はTPSに関する訴訟をすべて禁じたのか
すべての移民訴訟を禁じたわけではない。今回の判決は、国土安全保障長官による国単位のTPS指定、延長、終了に関する非憲法性の請求を司法審査の対象外とした。ハイチの原告による平等保護の主張も退けた。

TPS終了後は全員が直ちに送還されるのか
一律に直ちに送還されるわけではない。TPS以外の在留資格や申請中の救済があるかは個人ごとに異なる。一方、TPSだけが送還からの保護と就労許可の根拠だった人は、それらを失う。