米カリフォルニア北部地区連邦地裁のノエル・ワイズ(Noël Wise)判事は2026年8月28日、米国憲法が保護する言論を理由に米国籍を持たない人のビザを取り消し、国外退去手続きを始める根拠として移民法の争点部分を適用することは、修正第1条と第5条に反すると判断した。判断は保護された言論への適用に限られ、ビザ取り消しや国外退去に関する政府の権限を全面的に無効としたものではない。

判決時点の原告は、スタンフォード大学の学生新聞「The Stanford Daily」を発行する法人と、F-1学生ビザで合法的に滞在する匿名学生1人である。匿名学生はスタンフォード大学や同紙とは関係がなく、本件で移民措置を受けた本人でもない。政府の発言や過去の執行を受け、親パレスチナの主張や米国の対イスラエル政策への批判を控えたとして提訴した。

争点──国外退去とビザ取り消しの二つの権限

裁判所が審査したのは、移民・国籍法(Immigration and Nationality Act、INA)の8 U.S.C. §§1182(a)(3)(C)(iii)、1227(a)(4)(C)(i)と、8 U.S.C. §1201(i)である。国外退去側の2条文は、国務長官が本人の滞在は重大な米国の外交政策上の利益を損なうと個人的に判断した場合、合法な信条、発言、団体との関わりを理由に国外退去の対象とする仕組みに関わる。ビザ取り消し条文は、国務長官や領事官にビザを裁量で取り消す権限を与える。

ワイズ判事は、発言の内容や立場を理由に不利益を与える適用は、言論内容に基づく制限に当たるとした。政府は、その制限が重大な利益を守るため十分に絞られていると立証しなかった。どの発言が「重大な外交政策上の利益」を損なうかを通常の人が予測できず、恣意的な執行を招くとして、修正第5条が禁じる不明確な規定にも当たると判断した。

学生新聞で取材辞退と原稿の撤回

AP通信が判決を基に報じたところでは、The Stanford Dailyの合法的に滞在する外国籍メンバーが、移民上の不利益を恐れて活動をやめ、原稿を保留し、取材を断り、掲載済みの記事の削除や匿名扱いを求めた。判決は、外国籍の寄稿者が減り、イスラエルとパレスチナを扱う論説の量と視点の幅が縮小したとの記録も認定した。

Reutersによると、トランプ政権は2025年3月から、大学で親パレスチナの活動に関わった外国籍の学生らについてビザを取り消し、拘束する措置を始めた。コロンビア大学大学院を修了したマフムード・ハリル(Mahmoud Khalil)氏の逮捕は初期の事例で、同氏の国外退去を巡る事件は本件とは別に進んでいる

本件は2025年8月6日に提起された。裁判所は2026年5月27日、当事者が合意した証拠記録を基に法廷で主張を聴き、8月28日に90ページの判決を出した。審理対象には一人の匿名F-1学生が含まれるが、すべての留学生の個別事情を判断した事件ではない。

4項目の違憲判断、恒久的な差し止めはなし

判決は、国外退去規定とビザ取り消し規定の争点部分について、保護された言論への適用が修正第1条に反し、規定が不明確で修正第5条にも反するとの計4項目の判断を示した。一方、裁判所は恒久的な差し止め命令を出さなかった。国外退去規定について原告が求めた形の差し止めは最高裁判所だけが認められる救済だとし、ビザ取り消し規定では、違憲判断を示した段階で原告に対する個別の差し止めを検討する必要はないとした。

このため、判決は全米の外国人留学生に一律の在留保障を与える命令ではない。The Stanford Dailyは、政権が第9巡回区連邦控訴裁判所へ上訴する可能性が高いと報じた。ただし、上訴したことを示す公的な記録は、本稿の執筆時点で確認できていない。AP通信によると、米司法省は8月29日時点で判決へのコメント要請に回答しなかった

日本からのF-1留学で変わらない条件

日本から米国へ留学する人にとっても、この判決はF-1ビザに伴う在学・滞在条件や、その他の移民法上の条件を免除するものではない。裁判所が線を引いたのは、米国憲法で保護される政治的言論を理由に、争点となった条文を使ってビザを取り消したり、国外退去手続きを始めたりする場面である。他の移民法違反や刑事行為は、この違憲判断の対象に含まれない。

日本の外務省や在米日本大使館が、本判決の日本人F-1留学生への影響を個別に説明した公表資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。匿名原告1人を含む地裁判決であり、個別の学生への適用は本人の移民記録と今後の訴訟手続きに左右される。

よくある質問

イスラエルを批判した留学生は、今後一切国外退去の対象にならないのか。
そうではない。判決は保護された言論を理由に争点条文を適用する場合を扱った。他の移民法違反、ビザ条件違反、刑事行為は対象外である。

日本人のF-1留学生にも自動的に同じ保障が及ぶのか。
全員に一律の在留保障を与える差し止め命令は出ていない。判決時点の原告は学生新聞の発行法人と匿名のF-1学生1人で、政府が上訴する可能性も残る。

判決は確定したのか。
地裁は判決を出して事件を閉じたが、政府には上訴の余地がある。第9巡回区連邦控訴裁判所への上訴が見込まれるとの報道はあるものの、本稿の執筆時点で上訴の公表は確認できていない。