BRICS財務相・中央銀行総裁会議は8月12〜13日、インド北西部ラジャスタン州の州都ジャイプールで開かれた。Asianet Newsableは、ニルマラ・シタラマン財務相とインド準備銀行(Reserve Bank of India、RBI)のサンジャイ・マルホトラ総裁が共同議長を務め、マルホトラ氏が物価と金融の安定を支える中央銀行協力を強調したと報じた。議題には越境決済、金融技術、情報セキュリティーをめぐる協力も含まれた。

同じ時期、BRICSが設立した新開発銀行をめぐり、イラン中央銀行総裁が加盟見通しを示した。イランはBRICS本体の加盟国だが、新開発銀行の加盟国ではない。ジンバブエも銀行側の承認後、正式加盟に必要な手続きを残す。BRICS本体と新開発銀行では加盟国も手続きも異なる。

越境決済──共通通貨ではなく既存網の接続

インドが前面に出すのは、各国が発行する中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、CBDC)や既存の即時決済網を相互に接続する案だ。単一の中央銀行が発行する「BRICS共通通貨」を設ける構想とは違う。Reutersは2026年1月、RBIが各国のCBDCをつなぐ案を同年のBRICS首脳会議の議題に加えるようインド政府に提案し、実現には相互運用技術、統治ルール、貿易不均衡の処理で合意が要ると報じた

接続が実現すれば、貿易や旅行の支払いで複数の仲介銀行を経る工程を減らし、取引によっては米ドルを橋渡し通貨として使わない決済が可能になる。ただし、ジャイプール会議後も技術仕様、参加国、試験運用の範囲、稼働時期は公表されていない。構想の段階と、実際に利用できる決済網の段階を分けて見る必要がある。

スマートフォンとデジタル決済画面(イメージ)
BRICSでは、各国の即時決済網と中央銀行デジタル通貨を越境取引向けに接続する案が検討されている。(Photo by Jonas Leupe on Unsplash)

NDBの資本──1000億ドルは貸出可能額ではない

新開発銀行(New Development Bank、NDB)は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが設立した多国間開発銀行だ。NDBの公式沿革は、2015年に発足し、新興国と開発途上国のインフラ、持続可能な開発事業へ資金を動員する機関だと説明している。本部は上海に置く。

資本の数字は三つに分ける必要がある。設立協定は当初授権資本を1000億ドルと定める一方、創設5カ国が当初引き受けたのは計500億ドルで、その内訳を払込資本100億ドルと請求払資本400億ドルとしている。授権資本は発行可能な資本の上限であり、1000億ドル全額が融資用の現金として積み上がっているという意味ではない。

議決権も全加盟国が同数ではない。協定は引受株数に応じて議決権を配分する。創設5カ国は当初、同額ずつ引き受けたため同じ票数で始まったが、加盟拡大後の比率は異なる。NDBの現行出資一覧では創設5カ国が各18.72%を持ち、アルジェリア、バングラデシュ、エジプト、アラブ首長国連邦、ウズベキスタンの比率は0.23〜2.24%となっている

イランは未掲載、ジンバブエは「加盟候補国」

Al-Monitorは、イラン中央銀行のアブドルナーセル・ヘンマティ総裁がジャイプール会議の期間中、イランは近くNDB加盟国になると述べた一方、NDBから承認時期の発表は出ていないと報じた。8月15日に確認したNDBの加盟国一覧には、イランの名前は正式加盟国にも加盟候補国にもない。現段階ではイラン側が示した見通しであり、加盟決定ではない。

ジンバブエの位置づけは一段進んでいる。NDBの公式一覧はジンバブエを「加盟候補国」に載せ、総務会の承認を受けた国でも加盟文書を寄託するまでは正式加盟国にならないと注記している。承認、加盟発効、個別融資の審査はそれぞれ別の段階だ。会員資格を得ても、資金が自動的に支払われるわけではない。

ドル依存は一度に置き換わらない

CBDCや即時決済網の接続は、特定の取引でドルを経由しない選択肢を増やしうるが、国際金融でのドルの役割全体とは規模が違う。国際通貨基金(International Monetary Fund、IMF)の2026年第1四半期統計では、世界の外貨準備に占める米ドルの比率は57.13%、人民元は1.99%だった。外貨準備の構成比と越境決済の利用比率は同じ指標ではないものの、ドルが準備通貨として大きな位置を占める状況は続く。

NDBもドル市場を使っている。NDBは2026年2月、20億ドルの米ドル建て債券を発行し、調達資金を持続可能な開発事業の融資に充てると発表した。BRICSの金融協力は、ドルを直ちに排除する仕組みではなく、現地通貨やデジタル決済を使う経路を増やす動きとして捉えるのが実態に近い。

日本の論点──ASEAN+3でも決済接続を検討

日本はBRICS加盟国ではないが、越境デジタル決済をめぐる制度課題は日本にも共通する。財務省は2026年のASEAN+3財務プロセスで越境デジタル決済の議論を立ち上げ、リテールとホールセールの接続性、CBDCやステーブルコインの利点と実用化上の課題、外貨建てデジタル通貨による通貨代替のリスクを検討している

日本側の議論は、決済時間や費用の削減と、金融安定や外貨への通貨代替のリスクを同時に扱う。これはBRICS案を見る際にも必要な切り口だ。本稿の執筆時点で、財務省や日本銀行がBRICSの接続構想への参加方針を示した資料や、日本企業への具体的な影響を試算した公表資料は確認できていない。現時点で日本企業が利用できる新たなBRICS決済網が発表されたわけではない。

よくある質問

新開発銀行とBRICSの加盟国は同じなのか
同じではない。BRICS本体に加盟するイランはNDBの加盟国一覧に載っておらず、BRICS非加盟国でも国連加盟国ならNDBへの加入を申請しうる。ジンバブエが加盟候補国に入るのはこのためだ。

イランは新開発銀行への加盟を終えたのか
終えていない。イラン中央銀行総裁は加盟が近いとの見通しを示したが、NDBは承認や発効時期を発表しておらず、公式一覧にも掲載していない。

CBDCの接続はBRICS共通通貨の創設を意味するのか
意味しない。各国が自国通貨建てで発行するCBDCや国内決済網を相互接続する案であり、単一通貨、共通中央銀行、統一金融政策を設ける案ではない。