第55回太平洋諸島フォーラム(Pacific Islands Forum、PIF)と関連会合は、2026年8月30日から9月4日までパラオのコロールで開かれた。主催テーマは「B.E.L.A.U.(Building Economies: Life. Action. Unity.)」だった。

閉幕時に示された首脳コミュニケは、複数のメンバー上空を十分な通報なしに通過した大陸間弾道ミサイル(Intercontinental Ballistic Missile、ICBM)試験に懸念を記し、試験する全ての国に少なくとも24時間前の通報を求めた。中国の国名は書かれず、ナウルはこの段落に加わらなかった。

対象となったのは中国が7月に実施した試験だが、文書の主語は特定国ではなく「ICBM試験を行う全ての国」である。中国への全会一致の非難と、将来の試験に共通手順を求める多数国の合意は、分けて捉える必要がある。

「懸念」で止まった首脳文書

日本外務省の公式概要によると、PIFは16か国と仏領ポリネシア、ニューカレドニアの2地域で構成され、決定は全てコンセンサスに基づく。多数決で決める制度ではないため、外交・安全保障を巡る文言には各メンバーの立場の違いが直接表れる。

AP通信によると、ナウルはミサイル試験への懸念を記した段落に異議を示した。キリバスは首脳会議に高官を派遣したものの、その代表は9月3日の首脳リトリートに参加していなかった。したがって、最終文書に段落が入った事実から、18メンバーが同じ対中認識を共有したとは結論づけられない。

パラオとオーストラリアは会合前、より明確な対中批判を求めた。キリバスのタネティ・マーマウ大統領は、米国もマーシャル諸島周辺へミサイルを発射してきたとして、中国だけを批判する公平性に疑問を示した。オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、米国の試験には事前通報とマーシャル諸島との取り決めがあるとして違いを強調した。

7月の試験──争点は射程より通報

ABC Newsは、中国人民解放軍海軍の潜水艦が南シナ海から模擬弾頭を載せたミサイルを発射し、7000キロを超えて飛行した後、ツバルの排他的経済水域のすぐ外側に落下したと報じた。潜水艦発射弾道ミサイル(Submarine-Launched Ballistic Missile、SLBM)であり、PIF首脳文書はこの試験をICBM試験と記した。

SBS Newsは情報当局の分析として、飛行経路がフィリピン、パラオ、ミクロネシア連邦の空域を通ったと伝えた。オーストラリア側が受けた通報は発射の数時間前だったとされるが、通知を受けた全ての国と各時刻は公表されていない。首脳文書が求めた24時間という基準は、試験の是非そのものより、誤認や偶発的な緊張上昇を抑える手続きに焦点を当てる。

中国外務省の郭嘉昆報道官は、パラオが試験を誇張していると反発し、中国は軍事拡張を行っていないとの立場を示した。PIF文書は中国側の反論には言及せず、試験国を特定しない形で透明性と事前通報を求めた。

パラオのコロール島を写した衛星画像
本会合の開催地となったパラオ・コロール島の衛星画像。(Sentinel-2 cloudless 2016 by EOX IT Services GmbH、Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0)

日本ではどうなる

日本政府は中国の7月6日の発射翌日に立場を公表した。茂木敏充外相は7月7日の会見で、日本と地域の安全保障の観点から各会談で懸念を提起し、日米韓外相会合でも3か国が懸念を共有したと説明した。一方、外務省は外交上のやり取りの詳細を明らかにしておらず、飛行経路や国別の通知時刻を日本政府が独自に検証した公開資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

日本が参加する弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(Hague Code of Conduct against Ballistic Missile Proliferation、HCOC)は、弾道ミサイルや宇宙ロケットの事前発射通報を信頼醸成措置に含む。外務省は、HCOCを法的拘束力のない政治的合意と説明し、2026年6月時点の参加国を145か国としている。PIFが示した「少なくとも24時間」は首脳コミュニケの要求である。外務省のHCOC概要は事前通報を措置に挙げるが、通報期限を24時間とは記していない。

日本はPIF加盟国ではなく、1989年から域外国対話の相手として関わる。堀井巌外務副大臣は総理特使として9月1日の域外国対話に出席し、インフラ、気候変動、デジタル、経済・金融分野の協力を説明した上で、2027年夏に横浜市で開く第11回太平洋・島サミット(Pacific Islands Leaders Meeting、PALM11)への連携を働きかけた。日本の参加経路はPIFメンバーによる首脳文書の合意ではなく、この域外国対話とPALMの枠組みである。外務省の訪問結果にはミサイル問題への言及がなく、堀井副大臣が会合で24時間前通報を取り上げたかは確認できていない。

台湾の参加枠──日本とは別

日本外務省のPIF概要では、日本は域外国対話の相手、台湾は1993年からの開発パートナーである。いずれもPIFの18メンバーには含まれず、日本と台湾の参加枠も同じではない。

AP通信は、台湾の林佳竜外相がパラオでPIF開会行事に出席し、中国代表の銭波氏が台湾側の出席に反発したと報じた。パラオのウィップス大統領は、域外のパートナーは歓迎するが、地域の進路はPIFメンバーが決めるとの立場を示した。

台湾の代表が現地行事に出席したことと、首脳コミュニケの合意形成に参加したことは別である。ミサイル段落を台湾の外交上の成果とみなす根拠も、PIFの文書からは読み取れない。

文書を読む際の3つの線引き

第1に、中国の試験を受けた文言であっても、首脳コミュニケは中国を名指ししていない。第2に、ナウルの異議とキリバスのリトリート不参加があるため、18メンバーの全会一致とは扱えない。第3に、少なくとも24時間前という要求は今後の透明性を高める基準であり、中国や他の試験国が受け入れた合意ではない。

日本について確認済みなのは、政府が7月の発射に懸念を表明したこと、PIF域外国対話に総理特使を送ったこと、PALM11に向けた協力を働きかけたことまでだ。ミサイル試験の詳細な政府評価と、PIFでの日本側の具体的な発言は、今後の外務省公表資料で分けて確認する必要がある。

よくある質問

PIFは中国を非難したのか
首脳コミュニケはICBM試験に懸念を記したが、中国を名指しせず、「非難」という表現も使わなかった。ナウルは該当段落に加わっていない。

24時間前の通報は条約上の義務なのか
PIF首脳コミュニケが全てのICBM試験国に求めた基準である。日本外務省が説明するHCOCも事前発射通報を含むが、法的拘束力を持つ国際約束ではない。

日本はPIFの加盟国なのか
加盟国ではない。日本は1989年から域外国対話の相手として参加し、2026年会合には堀井巌外務副大臣が総理特使として出席した。

台湾はPIFの加盟メンバーなのか
加盟メンバーではない。日本外務省の整理では、台湾は1993年から開発パートナーであり、日本の域外国対話とは別の参加枠である。