横須賀に前方配備される米原子力空母ジョージ・ワシントン(USS George Washington)が、西太平洋を離れて中東へ向かっている。AP通信は、同艦が中東で長期展開中のエイブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln)と交代する見通しで、米空母が西太平洋にいない期間が生じると報じた。対イラン作戦への戦力集中が、日本を含むインド太平洋の態勢に空白をつくる形だ。

空母一隻の移動は、米軍全体の撤収を意味しない。それでも横須賀の空母は、有事への即応力に加え、米国の関与を目に見える形で示す役割を担ってきた。今回の移動は、限られた空母を中東とインド太平洋にどう割り振るかという米軍の制約を浮かび上がらせた。

横須賀の前方配備空母が西へ

海上自衛隊によると、ジョージ・ワシントンは2024年11月22日、9年ぶりに米海軍横須賀基地へ再配備された。米第7艦隊で唯一の前方配備空母として、西太平洋を定期的に哨戒してきた。

米海軍は7月30日、ジョージ・ワシントンと巡洋艦、駆逐艦が予定された寄港のためベトナム中部ダナンに到着したと発表し、同艦を第7艦隊の前方配備空母と説明していた。AP通信によると、同艦はその後ダナンを出港し、シンガポール海峡を通過したのちマラッカ海峡に入った。米海軍当局者は同艦がインド洋へ向かう航路上にあることを認めたが、作戦上の詳細を理由に匿名を条件とした。

リンカーンとの交代日や、ジョージ・ワシントンが横須賀へ戻る時期は公表されていない。別の空母が数カ月以内に展開すれば空白は短くなるとの見方はあるものの、米海軍が決定として発表した予定ではない。

リンカーン、展開260日超 補給にも支障

洋上を編隊航行する米海軍の艦艇(イメージ)

AP通信によると、リンカーンは2025年11月21日にサンディエゴを出港し、2026年1月に中東へ入った。展開全体は260日を超え、このうち寄港しない連続洋上期間は240日を超えて過去最長となった。当初は5月に帰還する予定だったが、対イラン作戦の支援で延長された。

米海軍は、中東の従来の補給拠点が戦闘行動で機能を損ない、艦内で物資不足と郵便物の滞留が起きたと認めた。補給は食料、衛生用品、郵便物の順で優先したと説明し、現在は清潔な水と健康に配慮した食事を確保しているとしている。

乗員のメンタルヘルスを巡っては、海軍は自殺念慮や自殺企図の増加を確認していないと説明した一方、作戦保全と患者のプライバシーを理由に集計を示さなかった。8月初旬には乗員一人が海中に転落し、救助後に艦内の医療部門で手当てを受け、その後の治療のため艦外へ移送された。海軍当局者は、自殺企図として扱っているかどうかを明らかにしていない。

ピート・ヘグセス国防長官は、艦内の状況を巡る報道は「完全に誤って伝えられている」と反論しつつ、乗員をできるだけ早く帰還させたいと述べた。民主党のリチャード・ブルーメンソール、ルーベン・ガレゴ両上院議員は調査や現地視察を求めている。健康状態の実数が示されない限り、海軍の説明と家族らの訴えの隔たりは残る。

日本周辺で重なる安全保障上の圧力

防衛省は2024年版防衛白書で、米太平洋艦隊のプレゼンスはインド太平洋の海洋安全と平和、安定に重要な役割を果たし、米空母はその能力の中核だと位置付けた。横須賀配備艦の移動は、この中核が一時的に別の戦域へ振り向けられることを意味する。

周辺海域では中国軍の活動も続く。防衛省は7月19日、沖ノ鳥島の南西約180キロにある日本の排他的経済水域で、中国海軍のミサイル駆逐艦が機関銃射撃を実施したと確認し、船舶の航行に危険を及ぼしうるとして中国側へ外交ルートで申し入れた

ハドソン研究所(Hudson Institute)のブライアン・クラークは、中国が空母不在を利用し、米国は西太平洋の主導的な力ではなくなったとの印象を日本やフィリピン、インドネシアへ広げようとする可能性をAP通信に指摘した。米戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies、CSIS)のグレッグ・ポーリング(Greg Poling)も、中東から手を引くという米政権の従来の目標と逆方向の配置だと批判した

いずれも専門家の評価であり、AP通信は、空母一隻の離脱を理由に中国の台湾侵攻を見込む専門家はいないと明記した。空母は抑止の象徴性が高い一方、水上艦、潜水艦、航空戦力、在日米軍基地を含む米軍態勢の一部である。空母の空白と、日米安全保障体制そのものの後退は分けて見る必要がある。

次の空母と不在期間は未定

AP通信によると、米海軍は現役空母11隻を保有し、通常は同時に2、3隻を展開する。別の空母を中東へ派遣するとの見方はクラークの分析で、海軍の公式決定ではない。今後さらに中東へ空母を集めれば、整備の先送りが別の地域での展開力を圧迫するとの懸念もある。

日本政府がジョージ・ワシントンの移動後に、在日米軍や自衛隊の具体的な運用計画を変更したことを示す公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。判断できるのは、横須賀の前方配備空母が中東へ向かい、西太平洋で後継の空母が公表されていないという現状までである。

よくある質問

西太平洋から米空母が完全にいなくなったのか
AP通信は、ジョージ・ワシントンの移動により米空母が西太平洋にいない期間が生じると報じた。ただし、艦艇の正確な位置は常に公表されるわけではなく、不在期間も決まっていない。

日本の防衛義務や日米同盟は変わるのか
今回の空母移動に伴い、米国の対日防衛義務が変更されたとの発表はない。空母の存在は抑止を目に見える形で示すが、日米同盟や在日米軍の態勢全体と同じものではない。

リンカーンの「240日超」と「260日超」は何が違うのか
240日超は寄港しない連続洋上期間、260日超は出港から数える展開全体を指す。AP通信は8月14日付の記事で、この区別が分かるよう記述を訂正した。