米軍のミサイル在庫は、対イラン作戦で防空と長距離攻撃の双方から圧力を受けている。米国防総省の資料によると、米中央軍は2026年2月28日に「Operation Epic Fury」を開始し、ペトリオット(Patriot)迎撃ミサイルと終末高高度防衛(Terminal High Altitude Area Defense、THAAD)を投入した

在庫の全容は機密であり、米政府は兵器別の残存数を公表していない。米戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies、CSIS)と米報道機関の調査から見えるのは、数週間から数カ月で使った兵器を同じ速さでは補えないという生産上の制約である。

主要3兵器、開戦前在庫の約半分を使用

CSISは7月31日、ペトリオット、THAAD、精密打撃ミサイル(Precision Strike Missile、PrSM)で開戦前在庫の約半分を使用し、統合空対地スタンドオフミサイル(Joint Air-to-Surface Standoff Missile、JASSM)、SM-2・3・6、トマホークで約3分の1を使ったと分析した。同時に、対イラン作戦で想定される範囲の任務にはなお足りるとし、主な危険は中国、ロシア、北朝鮮との将来の有事に備える在庫が薄くなる点だと位置付けた。

この比率は国防総省の公式集計ではない。兵器ごとの発射数や契約済みの補充分を含む計算方法も一様ではないため、「残り半分」を確定した実数として扱うのは適切でない。

インド太平洋向け迎撃弾も中東へ

軍事レーダーと防空拠点(イメージ)

CBS Newsは米軍・情報当局者の話として、国防総省がインド太平洋向けに事前集積していた迎撃弾の一部を中東へ移し、ほかの地域を担当する部隊の余裕が軍の計画より小さくなったと報じた。ペトリオットとTHAADの迎撃弾は産業界の補充速度を上回るペースで消費されているという。

一方、同じ報道で国防総省のショーン・パーネル報道官は、複数の地域で作戦を遂行しながら米国民と国益を守る十分な戦力を保つと説明した。ピート・ヘグセス国防長官も在庫危機を否定している。数量を伴わない政府説明と匿名当局者の証言は両立しない部分があり、移送元が日本や韓国の特定基地だったとの公的な裏付けもない。

補充の壁──契約から納入まで2〜4年

CSISによると、米国の航空宇宙・防衛分野の主要契約企業は冷戦後に51社から5社へ減った。生産設備は平時の効率を優先して組まれ、急増する需要を吸収する余力が乏しい。契約締結から弾薬の納入まで通常2〜4年を要し、資金を増やしても足元の不足が直ちに解消する構造ではない。

CBS Newsによると、米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官は4月、トマホークやJASSMなど高性能兵器の増産規模を広げるまで1〜2年かかるとの見通しを議会で示した。同記事はCSISの別の推計を基に、THAAD、SM-3、ペトリオットの生産には最長5年を要すると伝えている。兵器ごとに工程と供給網が異なるため、単一の「在庫回復年数」では示せない。

日本への影響、確認できる範囲

防衛省の2025年版防衛白書は、日本のスタンド・オフ防衛能力と統合防空ミサイル防衛能力を強化し、米国の能力と組み合わせて日本への侵攻やインド太平洋での一方的な現状変更を抑止する方針を示している。米軍の迎撃弾と長距離兵器の補充期間は、日本にとっても同盟の継戦能力を測る要素になる。

日本は在庫問題と無関係ではない。日本政府は2023年12月、国内でライセンス生産する自衛隊保有のペトリオットを米国へ移転し、米軍在庫を補完する方針を決めた。移転品を米国政府以外へさらに提供しないことも日米間で確認した。この決定を根拠に、日本から移した迎撃弾が今回の中東作戦で使われたとは判断できない。

日本政府が今回の中東への移送を受け、在日米軍や自衛隊の具体的な運用計画を変更したことを示す公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。現段階で言えるのは、米軍が複数地域で共有する希少な兵器の余裕が縮まり、補充には年単位の時間がかかるという点までである。

よくある質問

米軍の迎撃弾はあと何発あるのか
兵器別の残存数を網羅した米政府の公開資料はない。CSISは主要3兵器で開戦前在庫の約半分を使ったと分析したが、残数の公式発表ではない。

日本や韓国の配備分が中東へ移されたのか
CBS Newsが確認したのは、インド太平洋向けに事前集積された迎撃弾の移送である。日本や韓国の特定基地、数量、移送時期までは公表されていない。

在庫はいつ元に戻るのか
一律の時期は示せない。CSISは契約から納入まで通常2〜4年、CBS Newsは一部の迎撃弾で最長5年との推計を伝えており、増産中も作戦で消費が続けば回復時期は後ろへずれる。