英国高等法院は7月31日、ロンドンの旧王立造幣局(Royal Mint Court)を中国の新大使館に転用する計画許可について、ロイヤル・ミント・コート住民協会(Royal Mint Court Residents’ Association、RMCRA)が起こした司法審査請求を退けた。通信社記事によると、ディンゲマンズ控訴院判事とリーヴェン高等法院判事は、政府の許可決定に違法性はなく、安全保障評価と爆発影響評価が非公開だったことによる不公正も認められないと判断した。RMCRAは上訴する方針を示しており、計画の法的な行方はなお定まっていない。
争点──外交特権の下で計画条件をどう担保するか
住民側の主張の軸は、建物の完成後に英国政府が計画許可の条件を実効的に守らせられるかという点だった。大使館の公館区域には外交関係に関するウィーン条約上の不可侵が及ぶ。英国当局が国内の建築物と同じ方法で立ち入り、条件違反を是正するのは難しいとして、住民側は許可の前提そのものを問題にした。
計画許可を分析した英国の法律実務家は、政府がこの反論を退け、使節団長を「好ましからざる人物」(persona non grata)とする措置や、極端な場合の外交関係断絶といった外交上の対応が残ると判断した経緯を説明している。ただし、これらは重大な外交措置であり、日々の工事や施設運用を監督する通常の行政手段とは性格が異なる。
一般の人が通るExchange Squareの扱いも許可前に修正された。同じ法律解説によると、英国外務・英連邦・開発省は2026年1月12日、同広場について2018年に与えた外交公館としての同意を撤回した。公衆が利用する区域まで不可侵の対象となり、警察や救急機関が入れなくなる懸念に対応した措置である。
地方の拒否から中央政府の許可へ
中国政府が2018年に取得した旧王立造幣局は、ロンドン塔の向かい側に位置する。Tower Hamlets区議会は2022年、最初の申請を拒否した。中国側が2024年7月に出し直した計画についても、区議会の戦略開発委員会は同年12月、安全、文化遺産、警察への負担、道路の混雑を理由に反対した。
ただし、最終判断はその時点ですでに中央政府へ移っていた。Tower Hamlets区議会の公式声明は、当時の住宅相アンジェラ・レイナー氏が2024年10月14日に案件を「call in」の手続きで引き取り、区議会の判断は公開調査で考慮される一要素になったと説明している。
住宅・コミュニティ・地方自治省が公開した決定書によると、スティーブ・リード住宅相は2026年1月20日、計画許可と登録建造物同意を出した。政府は調査官の勧告を受け入れ、既存建物の修復と一部解体、新築を組み合わせて大使館へ転用する計画を認めた。
非公開資料を巡る主張も退ける
7月31日の裁判では、政府の判断過程で使われた安全保障評価と爆発影響評価が住民側に開示されなかったことも争われた。裁判所は、資料が非公開だったために申立人が不公正な扱いを受けたとは認めなかった。公表済みの建築図面で用途が示されていない部屋についても、政府は許可段階で理論上の曖昧さにとどまり、合法的な大使館用途以外には使えないとの立場を取っていた。
一方、7月31日の判断を収めた判決全文は、本稿執筆時点で英国司法当局の公開ページ上に確認できていない。このため、棄却理由の詳しい射程は報道から読み取れる範囲に限られる。住民側が上訴すれば、上級審が外交特権と計画行政の関係をどこまで審理するかが次の焦点になる。
約100戸の住民を代表する訴え
RMCRAの代理人を務める法律事務所Leigh Dayによると、協会は計画地に隣接するSt Mary Graces Courtの約100戸を代表し、外交公館に指定された土地で計画条件を執行できるのかを司法審査の理由の一つに掲げた。中国政策に関する列国議会連盟(Inter-Parliamentary Alliance on China、IPAC)も訴訟を支援している。
今回の棄却によって2026年1月の許可は直ちには覆らなかった。ただ、住民側が示した上訴方針が実行に移されれば、訴訟は続く。大使館計画が次の工程へ進む時期と、許可条件を実際に担保する方法は、なお別々の未確定要素として残る。
よくある質問
英国高等法院は何を判断したのか
政府が出した計画許可の取り消しを求める住民側の司法審査請求を退けた。安全保障関連の2資料が非公開だったことについても、住民側に不公正が生じたとは認めなかった。
外交特権が争点になった理由は何か
大使館の公館区域には不可侵が及ぶため、英国当局が計画条件の違反に国内施設と同じ方法で対処できるのかが問われた。政府は外交上の措置が残るとして許可条件を考慮した。
区議会が反対したのになぜ許可されたのか
所管大臣が2024年10月に案件を中央政府の判断へ移したためである。区議会の反対は公開調査で考慮されたが、最終決定は住宅相が下した。
訴訟は終わったのか
終わっていない。RMCRAは上訴する方針を示した。上級審が審理を認めるか、その後に許可が維持されるかは確定していない。
出典・参考資料
- Chinese super embassy planning permission decision upheld at High Court(Cotswold Journal)2026年7月31日の司法審査請求棄却、審理した裁判官、非公開資料を巡る裁判所の判断、住民側の上訴方針を伝える通信社記事
- Called-in decision: Royal Mint Court, London, EC3N 4QN(Ministry of Housing, Communities and Local Government)2026年1月20日付の計画許可決定書と調査官報告書を公開する英国政府の公式ページ
- Tower Hamlets refuses Chinese Embassy planning applications(Tower Hamlets Council)2024年12月の区議会による拒否理由、2022年の拒否、中央政府への案件移管を説明する公式声明
- The planning permission for the new Chinese Embassy(Local Government Lawyer)外交特権と計画条件、政府が挙げた外交上の対応、Exchange Squareの扱いを判例実務家が整理した解説
- Residents launch legal challenge against Government’s approval of Chinese super-embassy(Leigh Day)住民協会の構成、司法審査で争った理由、IPACの支援を説明する代理人法律事務所の発表