北アフリカにあるスペインの自治都市セウタで7月30日から大規模な越境が起き、海を泳いだ人や防波堤のフェンスを越えようとした人に多数の死者が出た。スペイン政府が当初示した死者数は18人だったが、8月1日に67人、同4日には75人へ増えた。AP通信は、グランデマルラスカ内相が8月4日に越境者を約7万2000人、死者を75人とする新たな推計を示したと報じた。短期間に変わった数字を読むには、集計時点と発表主体を分けて見る必要がある。

海と防波堤で75人死亡 数字は数日で上方修正

越境はモロッコ側からタラハル海岸を泳ぐ経路と、防波堤や陸上の国境フェンスを越える経路で起きた。7月30日のAl Jazeeraの初報は、当局が少なくとも18人の死亡を確認し、多くが溺れ、一部はタラハルの防波堤フェンスへ殺到した際の圧迫で死亡したと伝えた。同じ報道は、スペイン内務省が国境警備のため軍60人を増派すると発表したことも記録している。

その後の捜索と集計で死者数は増えた。8月1日時点では少なくとも67人、4日には75人となった。死者が出た場所はスペイン側の海域や防波堤に限らず、モロッコ側にも追加の犠牲者がいる可能性をスペイン当局が指摘しており、75人を最終的な人数とはみなせない。

500メートルの海上障壁 越境経路を物理的に遮断

スペインの治安警察グアルディア・シビルは8月1日早朝、タラハル防波堤沿いに長さ500メートルの海上障壁を設置した。人が海側から国境フェンスの端を回り込む経路を塞ぐ措置である。グランデマルラスカ内相はモロッコとの協力で24時間以内に状況を反転させたと説明し、モロッコを信頼できる協力相手と位置づけた。

障壁の設置後も少数の人が海を渡り、別の経路を探す動きが報じられた。物理的な遮断が一つの経路を閉じても、越境の動機や密航業者の活動は消えない。障壁が長期的に到着者を減らしたかを判断するには、設置後の継続的な統計が要る。

スペイン領セウタとモロッコの境界に沿って延びる金網フェンス
セウタとメリリャは、EUとアフリカ大陸が接する陸上国境を持つスペインの自治都市である。(Jguk 2/CC BY-SA 3.0、Wikimedia Commonsより)

帰還4万8300人 越境者数は7万2000人に更新

スペイン内務省は7月31日午後6時までに約5万人がモロッコからセウタへ入り、約4万8300人が戻ったと推計した。セウタ自治政府のフアン・ヘスス・ビバス首相は同じ時期の越境者を最大6万人としており、当初から発表には幅があった。8月4日、グランデマルラスカ内相は対象期間を広げた総数として約7万2000人を示した。

したがって、4万8300人と7万2000人は同じ母数を同時刻に測った数字ではない。前者は7月31日夕方までに戻った人数、後者は翌週に公表された越境者総数の更新値だ。AP通信は、8月4日時点で保護者のいない未成年者約1000人がセウタに残り、スペイン当局の保護対象になっていると報じた。成人の一部にも、スーダン、パレスチナ、アフガニスタンなどモロッコ以外の出身者が含まれていた。

最高裁判断と密航業者 因果関係には異論

越境の直前、スペイン最高裁は、セウタまたはメリリャを目指して海上で阻止された人を直ちにモロッコへ戻してはならないとの判断を示した。陸上のフェンスを越えた人には同じ扱いが及ばない。スペイン政府は、密航業者がこの違いを「海から入れば滞在できる」と歪めて広め、大勢を誘導したと説明している。

ただし、裁判所の判断だけで急増を説明するのは難しい。モロッコの移民支援活動家は、多くの越境者が裁判判断を知っていたとは考えにくいとして、スペイン政府の説明に疑問を示した。経済的困窮、SNS上の誤情報、密航組織の勧誘、モロッコ側の国境管理がどの程度影響したかは、現時点で切り分けられていない。

EU22カ国が緊急会合要請 国境管理で対立

イタリア、デンマーク、オーストリア、ドイツなどEU加盟22カ国の首脳は共同書簡を出し、輪番議長国アイルランドに内相級会合の緊急開催を求めた。アイルランドは8月4日、司法・内務理事会のビデオ会合を招集した。セウタでの越境をスペインだけの問題とするのか、EUの域外国境全体の責任とするのかが争点になった。

加盟国の対応はそろわなかった。イタリアはスペインから空路と海路で入る人への国境検査を再導入し、シェンゲン圏内の自由移動を一時的に狭めた。フランスもスペイン国境の警備強化を表明した。スペインのペドロ・サンチェス首相は、セウタへの集団越境を領土主権の侵害と位置づける一方、域外国境の安全はEU加盟国の共同責任だと主張した。

2021年にも大規模越境 アフリカにあるEUの陸上国境

セウタとメリリャはスペイン本土から地中海を隔てた北アフリカ側にあり、EUとアフリカ大陸が接する陸上国境を形成する。2021年5月にもモロッコ人やサハラ以南の若者約1万人が数日間でセウタへ入り、スペインとモロッコの外交関係が緊張した。今回の越境は人数、死者、EU域内への政治的な波及のいずれも、その時を上回る規模となった。

日本の外務省と在スペイン日本国大使館の公開情報を確認したが、この越境に伴う邦人被害の有無を示す資料は本稿の執筆時点で見つからなかった。これは被害がなかったとの意味ではなく、日本語の公的情報で確認できる範囲に限界があることを示す。

よくある質問

セウタでの死者は何人か
スペイン政府の公表値は7月30日の18人から8月1日の67人へ増え、グランデマルラスカ内相は8月4日に75人とする新たな推計を示した。今後の捜索や確認で変わる可能性がある。

スペインはどのような対策を取ったのか
軍とグアルディア・シビルを増派し、8月1日にはタラハル防波堤沿いに500メートルの海上障壁を設置した。障壁は海側から国境フェンスの端を回り込む経路を遮る。

越境した人は全員モロッコへ戻ったのか
全員ではない。スペイン内務省は7月31日夕方までに約4万8300人が戻ったと推計したが、8月4日時点でも保護者のいない未成年者約1000人と一部の成人がセウタに残っていた。

スペイン最高裁の判断が越境を引き起こしたのか
スペイン政府は密航業者が判断を歪めて宣伝したとみている。一方、モロッコの活動家は多くの人が判断を知っていたとは考えにくいと反論しており、直接の因果関係は確定していない。