腕が上がらない状態は、痛みで動作を止めている場合、肩関節が硬く動かない場合、筋肉・腱・神経に由来して力が入らない場合に分けて整理する。実際には複数が重なるため、一つの症状から病名を決める方法ではない。

日本整形外科学会は、いわゆる五十肩(肩関節周囲炎)では肩の痛みと運動制限が生じる一方、腱板断裂や石灰沈着性腱板炎など似た症状を示す病気との鑑別が必要だと説明している。年齢、夜間痛、痛む場所の一項目だけでは五十肩と確定しない。

突然の片側脱力、胸の圧迫感、重い外傷は119番

厚生労働省は、顔のゆがみ、ろれつの異常、突然の片側の腕や脚の脱力、突然のしびれを、迷わず救急車を呼ぶ成人の症状に挙げている。 急な息切れや呼吸困難、胸の中央を締め付けられるような、または圧迫されるような痛みが2〜3分続く場合も救急要請の対象である。腕が上がらないように見えても、こうした兆候があれば肩関節の問題と決めず、直ちに119番する。

転倒や衝突の後に肩や腕が変形している、動かない、強く痛む、力が入らない、しびれる、指先が冷たい、または青ざめている場合は119番へ連絡する。 消防庁の2014年版救急受診ガイドは、外傷後の変形、運動不能、激しい痛み、脱力、しびれ、指先の冷たさや青ざめを緊急度の高い「赤」とし、119番へつなげている。痛む腕を繰り返し上げて確かめない。

脱力やしびれの範囲が広がる、力が時間とともに落ちる場合は、外傷がなくても早く医療機関へ連絡する。発症時刻、外傷の有無、動かしにくい方向、感覚の変化を記録し、急な変化か徐々に進んだ変化かを伝える。

自動運動と他動運動──診察で可動域を比べる

診察では、本人が腕を動かす「自動運動」と、診察者が腕を支えて動かす「他動運動」を比べる。川崎市立川崎病院は、五十肩では自動運動と他動運動の双方が制限され、単純X線、磁気共鳴画像(MRI)、超音波検査を鑑別に使うと説明している。他動運動は、家族が痛む腕を強く押す自己検査ではない。

日本整形外科学会は、腱板断裂では五十肩より関節の硬さが少ない例が多く、腕を上げる際の力の入りにくさが診察の手掛かりになるとしている。ただし、腱板断裂があっても腕を上げられる例は多い。痛みで一時的に力を出せない場合もあり、他動運動が保たれているという所見だけで腱板断裂とは決められない。

診察で確認する組み合わせ 評価の方向
自動運動と他動運動がともに狭い 関節の硬さを伴う。五十肩の所見と重なる
他動運動は比較的保たれ、自動運動で痛むか力が入らない 痛みによる抑制や腱板を含めて調べる
肩から腕・手指へ痛みやしびれが広がる 頚椎の神経根を含めて調べる
腕を自分で上げる自動運動と診察者が支えて動かす他動運動を比べた図

痛みが始まった時期、転倒や重い物を持った直後か、どの方向で痛むか、夜に目が覚めるかを診察時に伝える。夜間痛は五十肩と腱板断裂の双方でみられ、一方を選ぶ決め手にはならない。

しびれと筋力低下は頚椎の神経も評価

首から肩、腕へ広がる痛み、手指のしびれ、腕の筋力低下、感覚の変化があれば、肩関節の評価だけでは足りない。日本整形外科学会は、頚椎症性神経根症では肩から腕の痛み、手指のしびれ、上肢の筋力低下や感覚障害が生じ、首を後ろへ反らすと症状が強まる場合があると説明している

医療者は左右と方向別の筋力、感覚、反射、首の動き、症状の広がりを合わせて確認する。肩のMRIだけで神経由来の症状を否定せず、必要に応じて頚椎を評価する。

画像検査──X線、超音波、MRIは役割が異なる

日本医学放射線学会の2021年版ガイドラインは、関節の画像診断では単純X線を基本とし、コンピューター断層撮影(CT)は骨折や石灰化、MRIは腱板や関節唇など軟部組織の評価に用いると説明している。これは撮像法の技術資料であり、すべての肩痛に同じ検査順を求める勧告ではない。

米国放射線医学会の2024年更新基準は、成人の急性肩痛では単純X線を初期画像とし、結果が正常または不明瞭な場合は、疑う骨・軟部組織の病変に応じて超音波検査、MRI、CTなどを選ぶとしている。対象は成人の急性肩痛であり、慢性痛や小児を含む全員へ一律に適用する基準ではない。

超音波検査は腱板を評価する選択肢になる。2021年の系統的レビューとメタ解析は23研究、2054肩を集計し、熟練した操作者による棘上筋腱断裂の超音波検査は良好な診断性能を示し、MRIと直接比較した5研究では統計学的な差を認めなかったと報告した。この結果は、すべての肩の病変で超音波検査とMRIが同じだという意味ではなく、操作者の経験も結果に影響する。

個々の症例で超音波検査とMRIのどちらを先に選ぶかを一律に示す日本の一般向け全国共通資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。外傷歴、診察所見、確認したい組織、手術を検討しているかを基に医師が選ぶ。

肩の単純X線、超音波検査、MRIが調べる対象を比べた図

リハビリテーションは原因と病期を確認して開始

原因が分からない段階で、痛む方向へ繰り返し強く引っ張ったり、重りを持って動作を試したりしない。外傷後の変形、急な脱力、広がるしびれがあれば、運動より先に前段の救急基準で判断する。

日本理学療法士協会の患者向け資料は、肩関節周囲炎への対応を炎症期、拘縮期、寛解期に分け、痛みを我慢して無理に動かす必要はなく、運動で痛みが増す場合は中止して医師や理学療法士へ相談するよう示している。五十肩と診断されていない外傷や神経症状へ、この運動資料をそのまま使うものではない。

診察後の運動は、動かせる方向、筋力、痛みの変化、仕事や生活で必要な動作に合わせて組む。平均的な改善経過は個人の回復時期を保証せず、痛みや筋力低下が悪化する場合は計画を見直す。

小児・妊婦、持病や常用薬がある人

小児。 成人の急性肩痛を対象にした画像基準や運動資料をそのまま使わない。転倒後に腕を動かせない、変形している、強い痛みやしびれがある場合は、保護者が可動域を試さず119番へ連絡する。

妊婦・妊娠の可能性がある人。 受診時に妊娠の可能性を伝え、市販の鎮痛薬を自分で選んだり、処方薬を中断したりしない。厚生労働省は、一般用医薬品にも妊娠中に使えないものがあり、使用開始や処方薬の中断を自己判断せず、医師または薬剤師へ相談するよう案内している

持病・常用薬がある人。 糖尿病、甲状腺疾患、肩の外傷や手術歴、服用中の薬を診察時に伝える。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、処方薬の量を変えたり中止したりせず、市販薬を含む使用中の薬を医師や薬剤師へ伝えるよう求めている。肩痛を理由に抗凝固薬などの常用薬を自己判断で止めない。

よくある質問

自宅で五十肩かどうか分かるのか
痛み、夜間痛、年齢だけでは決められない。診察で自動・他動の可動域、筋力、感覚、外傷歴を調べ、必要な画像検査を選ぶ。

MRIを最初に受けるべきか
検査は症状と疑う病変で変わる。成人の急性肩痛では単純X線が初期画像になるが、慢性痛や外傷のない肩痛を含む全員の固定手順ではない。

腕が上がらない時に自分でストレッチしてよいか
原因が分からないまま劇痛を押して伸ばさない。外傷後の変形、急な脱力、広がるしびれがあれば運動を始めず、救急性を先に判断する。診察後は原因と病期に合う運動を医師や理学療法士と決める。