厚生労働省は、感染性胃腸炎を細菌やウイルスなどの感染性病原体による感染症とし、嘔吐と下痢を主症状に挙げている。一方、食品安全委員会は食中毒を、食品に起因する胃腸炎や神経障害などの中毒症の総称と定義し、微生物、自然毒、化学物質、寄生虫などに分類している。感染性胃腸炎は感染による病態を表すのに対し、食中毒は食品との因果関係を問う概念である。

両者は重なるが、同義ではない。厚生労働省のノロウイルスQ&Aは、同じウイルスでも食品や水を介すれば食中毒の原因となり、患者の吐物・便や人同士の接触を介すれば急性胃腸炎の原因となると説明している。嘔吐、下痢、腹痛という症状の並びだけでは、食品由来か人から人への感染かを分けられない。

119番と早期受診を先に判断

成人で突然の激しい腹痛、激しい腹痛の持続、吐血、血便または真っ黒い便がある場合は119番へ連絡する。 厚生労働省の救急車利用案内は、これらを成人で直ちに救急車を呼ぶ目安として示している。急に支えなしで立てないほどふらつく場合も同じ扱いである。

子どもが激しい下痢や嘔吐で水分を取れず、食欲がなく、意識がはっきりしない場合は119番を呼ぶ。 厚生労働省は、嘔吐が止まらない、激しい腹痛で苦しむ、血便が出る場合も子どもの救急要請の目安に挙げている

119番の兆候がなくても、食中毒が疑われる時は医療機関へ連絡する。農林水産省は、食中毒を疑う症状が出たら自己判断で薬を飲まず、医師の診察を受け、食べた物や包装、店のレシートを保管するよう案内している

乳幼児、高齢者、妊婦、持病・常用薬のある人

乳幼児。 水分を取れない、唇や舌が乾く、尿が半日以上出ない、尿が少なく色が濃い、血液・粘液・黒っぽい便が出る、けいれんがある場合は至急受診する。こども家庭庁の感染症対策ガイドラインは、これらを子どもの下痢で脱水などを疑い、至急受診が必要と考えられる兆候に挙げている

高齢者、妊婦、免疫機能が低下した人。 農林水産省は、乳幼児と高齢者、妊婦、肝臓疾患・がん・糖尿病の治療中の人、ステロイド薬を服用している人などを症状が重くなる可能性がある層に挙げている。食中毒が疑われる時は医療機関へ連絡し、該当する状態を伝える。

持病・常用薬のある人。 原疾患や薬による違いを一律に扱わず、処方元の医療機関へ相談する。服薬の追加、増減、中止を自己判断で決めない。

調査の軸は共通食・潜伏期間・発症時刻

厚生労働省の食中毒調査マニュアルは、発症者と無症状者の喫食状況、食品ごとの発症率、摂取から発症までの潜伏期間、発症日時、食品残品・便や吐物・施設環境の検査を組み合わせて原因を調べるよう定めている。共通の食事が見つかっても、それは原因食品の候補であり、結論ではない。

調査の軸 記録する内容 分かること 単独では分からないこと
共通食 誰が何を食べ、誰が食べなかったか 発症者に共通する食品や食材の候補 その食品が汚染源だったか
潜伏期間 口にした時刻と最初の症状の時刻 原因候補との時間関係 病因物質の確定
発症時刻 一人ずつの発症日時と症状の変化 発症が集中したか、時間差があるか 食品由来か人から人への感染か

発症日時を並べた流行曲線も手掛かりになる。厚生労働省のマニュアルは、単一の曝露では一つの山、複数の曝露では複数の山が現れることが多く、山が不明瞭なら継続的な曝露も検討するとしている。ただし、時間の形だけで食品や病原体を断定する使い方ではない。

共通食、潜伏期間、発症時刻の三つの調査項目を示す図

最後の一食だけに絞らない

東京都保健医療局は、食中毒の症状が出るまでの時間は原因によって、食品を食べた直後から1週間以上まで開くとしている。同じ原因でも摂取量や体調で潜伏期間が変わるため、最後に食べた料理と発症時刻が近いという理由だけでは原因にならない。

厚生労働省の調査マニュアルは、患者と無症状者について、原則として発生前7日間、必要ならそれ以前まで遡り、口にした全食品を時刻別に調べるとしている。対象は三食に限らず、間食と飲料も含む。主菜が違っても、共通の付け合わせ、ソース、氷、飲料が交点になる場合があるため、料理名だけで記録を終えない。

発症前7日間の食事と活動を一人ずつ記録する時間軸

一人ずつの記録と残品が調査を支える

  1. 人を分ける:発症者と無症状者を分け、氏名、連絡先、同席した時間を記す。
  2. 食事を分ける:日付、時刻、店や購入先、料理、付け合わせ、調味料、飲料、間食を書き出す。
  3. 症状を時刻で残す:最初の嘔吐・下痢・腹痛・発熱と、その後の回数や変化、受診時刻を記す。
  4. 追跡資料を残す:食品の残品、包装、商品名、製造番号、レシート、注文履歴、料理の写真を捨てない。
  5. 食べて確かめない:疑わしい残品を再び口にして、症状が出るか試さない。

農林水産省は、食べた物、食品の包装、店のレシートを保管すると原因調査に役立つとしている厚生労働省は、家庭の食中毒では発症者が1人または2人の例が多く、食中毒と気づかれにくいと説明している。一人だけの発症でも、人数を理由に食中毒を否定しない。

受診と並行して地域の保健所へ相談

食事が原因と疑われる場合は、医療機関の受診と並行して最寄りの保健所へ相談する。複数人に症状があるなら、全員分の喫食内容、発症時刻、主な症状、受診状況、残品の有無を伝える。東京都保健医療局は、相談を受けた保健所が症状と数日間の食事を聞き取り、必要に応じて検便や食品残品の検査、飲食店や製造元の立ち入り調査を行うと説明している

厚生労働省の「保健所所管区域案内」には、都道府県別に地域を担当する保健所へのリンクがある。相談を始める発症者数について全国一律の一般向け基準は確認できていないため、人数が少ないことだけを理由に連絡を見送らない。

行政上の食中毒判断は家庭や飲食店が行うものではない。厚生労働省の調査マニュアルでは、医師の診断、発症者数と時間・地域・集団の広がり、喫食状況、施設調査、微生物学・理化学検査などを基に、原則として保健所長が判断する。調査前に特定の料理や事業者を原因と断定すると、事実と異なる情報を広げるおそれがある。

経路が分からない段階から感染を広げない

食品由来か人から人への感染かが未確定でも、症状のある人は調理を避ける。トイレの後、調理や食事の前、吐物・便を処理した後は石けんと流水で手を洗う。厚生労働省のノロウイルスQ&Aは、患者の吐物や便からの二次感染と人同士の直接感染を防ぎ、症状のある人を食品に直接触れる作業から外すよう示している

厚生労働省は、吐物や便を処理する人が使い捨てのエプロン、マスク、手袋を着け、飛び散らせないよう静かに拭き取り、使用物を袋に密閉して廃棄し、汚染した場所を消毒する手順を示している。原因食品の調査と家庭内の感染対策は、結果が出るまで同時に進める必要がある。

よくある質問

同じ料理を食べた二人が下痢なら、食中毒と決まるのか
決まらない。共通食は調査の入口だが、潜伏期間、無症状者の喫食、検査、施設調査を合わせて判断する。

一人だけの発症なら、食中毒ではないのか
人数だけでは否定できない。厚生労働省も家庭では発症者が1人または2人の例が多いとしている。症状の安全確認を優先し、食事との関連が疑われれば医療機関と保健所へ相談する。

残った食品がなくても相談できるのか
相談できる。発症時刻、数日分の食事、同席者、包装、レシート、注文履歴、受診記録は調査の手掛かりになる。検査や調査の要否は保健所が判断する。

最後に食べた物を最有力とみてよいのか
最後の一食に限らない。潜伏期間は直後から1週間以上まで開く場合があり、厚生労働省の調査では原則7日間の食品と間食を遡る。