腰痛は、肋骨の下縁から臀部までの間に生じる痛みを指す。世界保健機関(WHO)の2023年のファクトシートは、腰痛の約90%が特定の病気や構造上の原因を一つに絞れない非特異的腰痛であり、6週間未満の急性腰痛は多くの場合に自然に軽快すると説明している。これは世界向けの資料であり、日本国内の患者割合や一人ひとりの原因を示す数字ではない。

受診先を決める際は、痛みの強さに加え、発症の速さ、外傷、脚の感覚と筋力、排尿・排便、発熱などを先に分ける。警告サインがあれば診療科選びより救急判断を優先し、なければ整形外科またはかかりつけ医から診察を始める。X線や磁気共鳴画像(MRI)は、全員が初診時に受ける検査ではない。

腰椎模型、問診票、診療科への分岐を示すカードが並ぶ診察室の机(イメージ)

排尿・排便の変化、会陰部の感覚低下、両脚の脱力は救急評価

腰痛に新たな排尿困難、尿・便失禁、陰部や肛門周囲の感覚低下、両脚の脱力・しびれが重なれば、直ちに救急外来へ連絡する。 英国の公的医療サービスNHSは、両脚の痛み・しびれ・脱力、陰部や肛門周囲の感覚低下、排尿・排便機能の変化、重大事故後に始まった腰痛を、直ちに救急部門で評価する兆候に挙げている。自宅で様子を見る段階ではない。

突然の片側の腕・脚の脱力、ろれつの異常、支えなしで立てないほどの急なふらつき、突然の激しい胸・背部痛があれば、腰の問題と決めない。厚生労働省は、これらを迷わず救急車を呼ぶ成人の症状に挙げ、緊急性が高いと判断した場合は119番を要請するよう案内している

救急外来入口の赤い警告灯と腰椎・神経模型(イメージ)

救急車を要請する状態でなくても、安静で軽くならない、時間とともに悪化する、発熱がある、脚がしびれる、力が入りにくい、尿漏れがある場合は速やかな診察が要る。日本整形外科学会は、腰痛にこれらの症状を伴う場合、自分で管理し続けず速やかに整形外科を受診するよう求めている

夜間に痛みで目が覚める、安静でも軽くならない、意図せず体重が減る、がんやステロイド治療の経歴がある、発熱を伴う場合も早めに医療機関へ連絡する。日本整形外科学会と日本腰痛学会の2019年版ガイドラインは、時間や活動性と関係しない痛み、がん・ステロイド治療の既往、体重減少、広範囲の神経症状、発熱などを、腫瘍・感染・骨折を疑う危険信号に挙げているNHSも、休んでも改善しない痛みや夜間に強まる痛み、意図しない体重減少を通常受診の目安としている。どの一項目も病名を確定する所見ではなく、病歴と診察を合わせて評価する。

夜間を示す時計、体重計、診療記録と警告記号が置かれた机(イメージ)

通常受診は整形外科か、かかりつけ医から始める

警告サインがなく、腰の痛みや動かしにくさが主な訴えなら、整形外科が受診の起点になる。日本整形外科学会は、腰痛の原因として脊椎の外傷、感染、腫瘍、加齢に伴う変化のほか、血管、泌尿器、婦人科、消化器の病気も挙げ、必要に応じてX線、MRI、血液・尿検査などを選ぶとしている。痛む場所だけで原因を腰の骨や筋肉に限定しない。

普段から相談しているかかりつけ医がいる場合や、発熱、排尿時の異常、腹部症状、体重減少など腰以外の変化がある場合は、かかりつけ医から始める選択肢もある。厚生労働省は、かかりつけ医を健康上の問題を幅広く相談でき、必要な時に専門医や専門医療機関を紹介する身近な医師と説明している

リハビリテーション科が初診を受け付けるか、紹介状が必要かは施設ごとに異なる。整形外科、かかりつけ医、リハビリテーション科を同じ条件の初診窓口とする全国共通資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。厚生労働省の医療情報ネット(ナビイ)は、診療科目、対応可能な疾患・治療内容、診療時間などから全国の医療機関を検索する仕組みである。受診前に医療機関へ連絡し、腰痛の経過と脚の症状を伝える。

診察室で腰を押さえて座る成人を医療者が診察している様子(イメージ)

数週間たっても改善しない、繰り返す、睡眠や仕事、歩行などの日常生活を妨げる場合は受診を先延ばしにしない。WHOは6週間未満を急性腰痛に分類しているが、6週間は受診せず待つ期限ではない。症状が悪化する場合や新しい警告サインが加わった場合は、その時点で受診経路を見直す。

カレンダー、症状記録、腰椎模型とペンが置かれた机(イメージ)

X線・MRIは初診の一律手順ではない

初診では、発症時刻、外傷、痛みが脚へ広がるか、しびれ・筋力低下、排尿・排便の変化、発熱、既往歴を確認する。診察では動作、筋力、感覚、反射などを調べ、その結果から必要な検査を選ぶ。日本整形外科学会の腰痛資料も、X線、MRI、骨シンチグラフィ、筋電図、血液・尿検査を「必要に応じて」行うとしている。

日本整形外科学会と日本腰痛学会の2019年版ガイドラインは、X線撮影には初期診断上の意義がある一方、神経症状のない非特異的腰痛では初診時の撮影が必須ではなく、危険信号や神経症状があればX線に続くMRI撮像を勧めている。これは全員に同じ順番で検査するという意味ではなく、問診と身体診察で分けた状態に応じる手順である。

警告サインや重大な外傷があれば、経過日数を待たず検査を含む評価へ進む。反対に、警告サインがなく、検査結果が診療方針を変えない段階では、MRIを先に撮ることが診断の代わりにはならない。同ガイドラインは、MRIで確認される椎間板変性などが症状のない人にもみられると指摘している。検査の種類と時期は、疑う原因、診察所見、治療方針を基に医師が決める。

診察室で成人と医療者が腰椎のX線画像とMRI画像を見ている様子(イメージ) 放射線科のモニターに表示された腰椎MRI画像と骨折リスクの評価資料(イメージ) 腰痛の警告サインを確認し、救急外来または通常診療へ分かれ、必要時に画像検査を検討する流れ図

受診前は発症時刻、脚の症状、排尿・排便を記録

診察では、いつ、どの動作で始まったか、転倒や衝突があったか、痛みが片側か両側か、臀部や脚へ広がるかを伝える。しびれる範囲、力が入りにくい動作、歩行の変化、排尿・排便、発熱、夜間痛、体重変化も時系列で記録する。がん、骨粗しょう症、感染症の治療歴と、使用中の処方薬・市販薬も一覧にする。

警告サインがなく、医師から安静を指示されていない場合は、痛みが強まらない範囲で身の回りの動作を保ち、長時間の臥床を避ける。2019年版ガイドラインは、急性腰痛では安静より活動性維持を弱く推奨する一方、坐骨神経痛を伴う腰痛では両者に明らかな差がないとしている。これは痛みを押して重い物を持つ、腰をひねる、強い運動を始めるという意味ではない。脚の脱力や排尿・排便の変化が出たら活動を中止し、救急判断へ切り替える。

腰痛の部位図、症状日誌、体温計、服薬一覧と受診票が置かれた机(イメージ)

小児、妊婦、持病・常用薬がある人

小児。 成人一般の分科や画像検査の基準をそのまま当てはめず、小児科または整形外科へ相談する。意識・呼吸の異常や大きな事故があれば119番を優先する。厚生労働省は、休日・夜間に子どもの症状への対応や受診先で迷う場合、全国共通の短縮番号「♯8000」で小児科医師・看護師へ相談できると案内している

妊婦・妊娠の可能性がある人。 成人一般の腰痛として判断せず、強い痛み、発熱、性器出血、排尿時痛、肋骨の下の側腹部痛があれば産科・産婦人科へ速やかに連絡する。脚、臀部、陰部の感覚低下があれば救急評価を急ぐ。NHSは、妊娠中期・後期の腰背部痛や発熱、性器出血、排尿時痛を急いで医師・助産師へ連絡する症状とし、脚、臀部、陰部の感覚消失を直ちに救急評価する兆候に挙げている厚生労働省は、妊娠中に使えない市販薬があり、薬の使用開始や処方薬の中断を自己判断せず、医師または薬剤師へ相談するよう案内している

持病がある人。 がん、骨粗しょう症、感染症の治療歴を予約時と診察時に伝える。過去の腰痛と似ているという理由で、今回も同じ原因だと決めない。体重減少、発熱、広がる神経症状が加わった場合は、前段の危険信号として受診を早める。

常用薬がある人。 ステロイド薬を含む処方薬、市販薬、サプリメントを受診先へ伝え、腰痛を理由に処方薬の量を変えたり中止したりしない。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、処方薬の用量変更や中止を自己判断で行わず、複数の医療機関や薬局を利用する際は市販薬を含む使用中の薬をすべて伝えるよう求めている

よくある質問

腰痛で最初に受診する診療科はどこか
腰の痛みや動作制限が中心で警告サインがなければ、整形外科が起点になる。普段から相談しているかかりつけ医がいる場合や、発熱、排尿時の異常、腹部症状など腰以外の変化がある場合は、かかりつけ医から専門科への紹介を受ける方法もある。リハビリテーション科の初診受付は施設へ確認する。

どの症状なら救急外来へ行くのか
新たな排尿困難や尿・便失禁、会陰部の感覚低下、両脚の脱力・しびれは直ちに救急評価する兆候である。突然の片側脱力や支えなしで立てないほどのふらつき、激しい胸・背部痛がある場合は119番を要請する。

初診でX線やMRIを受けるべきか
神経症状のない非特異的腰痛では、初診時のX線撮影は必須ではない。病歴と診察から危険信号や神経症状を認める場合は、医師がX線やMRIの種類と時期を判断する。