低血糖は、血糖値が下がりすぎ、発汗、手指の震え、動悸、強い空腹感から、集中力低下、異常行動、けいれん、意識消失まで起こりうる状態だ。糖尿病の薬を使う人に多いが、症状だけで低血糖と断定はできない。
初動の分かれ目は、本人が呼びかけに普段どおり応じ、安全に飲み込めるかどうかである。飲み込める成人には速やかにブドウ糖を補い、意識がはっきりしない、けいれんがある、飲み込めない場合は、飲食させず119番へ通報する。
意識がはっきりしない、けいれんがあるなら119番
呼びかけへの返答がない、会話が成り立たない、普段と違う異常行動がある、飲み込みを確認できない、けいれんしている、意識を失っている場合は119番へ通報する。血糖測定器を探したり、糖分を飲ませたりして通報を遅らせない。総務省消防庁の応急手当WEB講習は、意識がはっきりしない人には誤嚥の危険があるため何も口に入れず、119番へ通報するよう示している。
反応がなければ胸と腹の動きを10秒以内で見て、普段どおりの呼吸かを確かめる。呼吸があれば横向きの回復体位にし、救急隊が着くまで呼吸の変化を見守る。普段どおりの呼吸がない、または判断できない場合は、通信指令員の指示を受けながら胸骨圧迫を始め、自動体外式除細動器(AED)を手配する。消防庁の救命処置教材は、反応がなく普段どおりの呼吸がある時は回復体位、呼吸がないか判断に迷う時は直ちに胸骨圧迫へ移る手順を示している。
本人に救急用のグルカゴンが処方され、家族や介助者が医療機関から使い方を教わっている場合は、その緊急時指示に従う。処方も訓練もない人は使用法を推測して使わず、薬を探すために119番通報を遅らせない。
飲み込める成人はブドウ糖10g、15分後に再確認
安全な場所で活動を止める。 運転、入浴、高所作業、機械操作を直ちに止め、座るか横になる。血糖測定器がすぐ手元にあれば測るが、低血糖症状が明らかな時に測定の準備で補給を遅らせない。日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」は、動悸、発汗、脱力、意識レベルの低下などの症状がある時、または通常は血糖値が70mg/dL未満の時に対応し、経口摂取できる場合の初期量をブドウ糖5〜10gとしている。
成人はブドウ糖10gを取る。 個別に主治医から決められた量がなければ、ブドウ糖10g、またはブドウ糖を含む飲料150〜200mLを取る。砂糖なら20gが目安になる。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の人は砂糖の分解が遅れるため、必ずブドウ糖を選ぶ。
15分後に血糖値と症状を見直す。 まだ低い、または症状が続く場合は同じ量をもう一度取る。糖尿病情報センターの一般向け資料は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料150〜200mLを取り、15分後も低血糖が続けば同じ対応を繰り返す流れを示している。2回の補給後も改善しない場合は医療機関へ連絡して受診する。途中で反応が鈍くなる、飲み込めなくなる場合は、追加の飲食をやめて119番へ通報する。
改善後は炭水化物を補う。 食事の時間なら食事を取り、次の食事まで時間があるなら炭水化物を含む補食を取る。一度改善しても再び低下する場合があるため、一人にせず経過を見る。意識障害を伴った、同じ日に繰り返した、原因が分からない場合は医療機関で評価を受ける。
避けたい対応──大量の甘味と薬の自己調整
意識が悪い人へ糖水や食物を入れない。 飲み込めない人の口へ液体や食物を入れると、誤嚥や窒息につながる。頬の内側へ砂糖を塗る方法も一般の救助者は行わず、何も口に入れず119番へ通報する。
チョコレートや大量の菓子を最初の手段にしない。 脂肪分の多い食品は糖の吸収が遅く、必要量も把握しにくい。ブドウ糖を定量で取り、15分後に見直す。改善を急いで甘い物を食べ続けると、その後の血糖値が大きく上がる場合がある。
低血糖の後に薬を自分で止めない。 食事の遅れ、食事量の不足、運動、飲酒、入浴、薬の種類や量など、発生時の状況を記録して主治医へ伝える。インスリンや血糖降下薬の量と時刻は、発作1回だけを根拠に自己判断で変えない。
子ども、妊婦、高齢者・服薬中の人
子ども。 乳幼児では、発汗や震えより先に、いら立ち、興奮、無口、かんしゃくといった行動の変化が出る場合がある。成人の10gを一律に当てはめず、主治医と決めた体格別の量と手順を使う。日本糖尿病学会と日本小児内分泌学会の2024年版ガイドラインは、小児では血糖値と体格に応じた単純糖質を取り、10〜15分後に再測定するとともに、患児、家族、学校関係者へ低血糖時の対応を事前に共有するよう求めている。家庭と学校では、補給に使うブドウ糖、緊急連絡先、処方済み救急薬の扱いを指示書でそろえる。飲み込めない、けいれん、意識障害があれば経口摂取をさせず119番へ通報する。
妊婦。 妊娠糖尿病などでインスリンを使う人は、発汗、震え、動悸、強い空腹感を見逃さず、意識が清明で飲み込める間に、あらかじめ指示された糖分を取る。国立成育医療研究センターは、妊娠糖尿病でインスリン治療中の低血糖に約10gの糖分を取り、低血糖昏睡では救急車を呼ぶ必要があると案内している。発作後のインスリン量や時刻は自分で変えず、産科と糖尿病の担当者へ連絡する。
高齢者、腎機能が低下した人、糖尿病薬を使う人。 発汗や震えが乏しく、眠気、ふらつき、脱力、認知機能の変化として現れる場合がある。日本糖尿病学会は、救急搬送された重症低血糖による意識障害では、高齢者、慢性腎臓病のある人、スルホニル尿素(SU)薬を使う人が多かったと報告している。症状が一度消えても再発する場合があるため、重症例は医療機関で評価を受け、反復例は主治医と治療を見直す。
糖尿病治療を受けていない人に低血糖様症状が出た場合、家庭で原因を決めて糖分補給だけを繰り返す手順は確認できていない。初めての発作、反復する発作、原因が分からない発作は医療機関で調べる。意識、呼吸、けいれんに異常があれば、原因の推測より119番通報を優先する。
よくある質問
低血糖かどうか、血糖値を測ってから糖分を取るのか
測定器がすぐ使えるなら確認する。準備に時間がかかり、典型的な症状がある場合は補給を遅らせない。意識や呼吸に異常があれば、測定より119番通報が先になる。
果汁飲料や砂糖でもよいのか
意識が清明で安全に飲み込める成人なら、ブドウ糖を含む飲料150〜200mLや砂糖20gも選択肢になる。ただし、α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の人は必ずブドウ糖を使う。
意識がない人の歯ぐきへ砂糖を塗ってよいのか
一般の救助者は行わない。消防庁の手順に従い、何も口に入れず119番へ通報する。普段どおりの呼吸があれば回復体位、なければ胸骨圧迫とAEDへ移る。
糖分を取って改善すれば受診は不要か
軽症で、本人が低血糖への対処を十分に教わっており、速やかに改善した場合は個別の指示に従う。意識障害を伴った、2回の補給後も改善しない、同じ日に繰り返す、原因が分からない場合は医療機関で評価を受ける。
出典・参考資料
- 糖尿病診療ガイドライン2024 第20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ(日本糖尿病学会)低血糖の症状、ブドウ糖の初期量、意識障害時の搬送、再発と遷延を示す診療ガイドライン
- 低血糖(国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター)成人向けのブドウ糖量、15分後の再確認、食事、重症低血糖への対応を示す一般向け資料
- 応急手当WEB講習 低血糖(総務省消防庁)意識がはっきりしない人への経口摂取を避け、119番通報する原則を示す教材
- 防災危機管理eカレッジ 1.救命処置(総務省消防庁)反応と呼吸の確認、回復体位、胸骨圧迫、AEDの手順を示す教材
- 小児・思春期糖尿病コンセンサス・ガイドライン2024 Ⅱ.1型糖尿病 第8節 低血糖(日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会)小児の症状、体格に応じた糖質量、再確認、家族と学校への教育、重症時の対応を示すガイドライン
- 妊娠と妊娠糖尿病(国立成育医療研究センター)妊娠糖尿病でインスリン治療中に起こる低血糖の症状、糖分摂取、昏睡時の救急要請を示す患者向け情報