嘔吐後の食事は、「4時間待てばよい」といった一律の時刻では決められない。嘔吐が治まり、少量の水分を飲んでも再び吐かないことを確かめてから、食べられる範囲で食事へ進むのが基本だ。吐き続けている間に大量の水や食事を入れると、再び吐いて補水が進まない場合がある。
食事を早く戻すことより、危険な原因や脱水を見逃さないことが先になる。頭を打った後の嘔吐、薬品や異物を飲んだ可能性がある時は、胃腸炎を想定した家庭での手順から外れる。
食事より先に受診を判断する兆候
呼びかけに反応しない、普通に話せない、呼吸が苦しい、顔色や唇の色が明らかに悪い。 直ちに119番へ連絡する。吐物を詰まらせるおそれがあるため、意識がはっきりしない人へ飲食物を与えない。
吐いた物に血が混じる、突然または持続する激しい腹痛、強い頭痛がある。 自宅で食事再開を試す段階ではなく、直ちに受診する。腹部が強く張る、胸や背中も痛む場合も同じ扱いだ。総務省消防庁の救急受診ガイドは、成人の吐血、激しい腹痛、強い頭痛を直ちに受診が必要な項目とし、嘔吐が2日以上続く場合も同じ区分に置いている。
少量の水分も保てない、尿が減る、尿の色が濃い、皮膚や唇が乾く、強い口渇や立ちくらみがある。 脱水を疑い、早めに医療機関へ相談する。高齢者、乳幼児、妊婦、基礎疾患のある人は悪化しやすいため、成人一般の経過観察を当てはめない。
再開は水分から、食事はその後
吐いた直後は胃が落ち着くまで待ち、吐き気が弱まったら水分をひと口ずつ試す。一度にコップ一杯を飲まず、少量を間隔を空けて取る。再び吐いたらいったん止め、少量からやり直す。英国のNHSは、吐き気がある時は水分を少量ずつ取り、食べられる状態になってから食事を取り、脂肪分や香辛料の多い食品を避ける方法を案内している。
水分を保てて空腹を感じたら、少ない量から食事を戻す。おかゆ、やわらかい麺、食パンなど、においや脂肪分が少なく食べやすい物を選び、無理に一食分を食べ切らない。食べた後に吐き気が戻れば量を減らす。高脂肪の料理、刺激の強い物、酒は、症状が残る間は避ける。
一方、食欲が戻った後まで白がゆや流動食だけを続ける必要はない。米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所は、ウイルス性胃腸炎で絶食や制限食を続ける方法を勧めず、食欲が戻れば通常の食事へ戻せるとしている。嘔吐の原因が分からない段階で「胃腸炎だから何時間絶食」と固定せず、水分を保てるか、食欲が戻ったかで段階を進める。
避けたい三つの対応
水分まで長時間止める。 嘔吐や下痢では水分と電解質を失う。吐き気が治まって少量を保てるなら補水を始め、固定時間が過ぎるまで待たない。水分が保てなければ家庭での絶食を延長せず、医療機関へ相談する。
一度に大量に飲食する。 のどが渇いていても少量ずつ始める。甘い飲料や炭酸飲料は、下痢を伴う時に症状を悪化させる場合がある。
原因を急性胃腸炎と決めつける。 嘔吐は頭部外傷、妊娠、薬の影響、腹部の病気でも起こる。血の混じる吐物、強い痛み、意識や呼吸の異常があれば食事内容では解決しない。
子ども、妊婦、糖尿病治療中の人
子ども。 吐き気が強い間はすぐに飲ませず、落ち着いてから少量の水分を始める。何度も吐く、緑色や血の混じる物を吐く、半日以上尿が出ない、ぐったりする、泣いても涙が出ない、少量の水分でも吐く場合は速やかに受診する。総務省消防庁の小児向け判定表は、強い吐き気がある時は1〜2時間置いて水分から始め、食事は少量ずつ様子を見ながら再開するよう示している。乳児の母乳やミルクを自己判断で薄めず、少量を通常より頻回に与える。厚生労働省の資料は、小児の水分補給を少量から始め、補水後に脱水がなければ普通食を再開する流れを示す。
妊婦。 強い嘔吐を繰り返して食物を取れない、のどや皮膚が乾く、体重が急に減る、めまいや意識の変化がある場合は、単なるつわりとして家庭で待たず産科へ連絡する。厚生労働省の母性健康管理情報は、食物摂取が不能となり、激しい嘔吐や脱水、栄養状態の悪化が生じる妊娠悪阻では入院加療が必要になるとしている。
糖尿病治療中の人。 嘔吐、下痢、発熱、食欲不振がある「シックデイ」では、食事量の低下で低血糖が起こる一方、病気のストレスで高血糖になる場合もある。薬やインスリンを一律に止めたり、いつも通り使い続けたりせず、事前に受けた指示に従い、早めに主治医へ連絡する。日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、シックデイには個別対応が必要であり、かかりつけ医からあらかじめ指示を受けるよう求めている。
よくある質問
嘔吐後、何時間たてば食べてよいのか
成人全般に共通する固定時間は確認できていない。吐き気が治まり、少量の水分を保てることを確かめ、食欲があれば少ない量から始める。
水も飲まずに胃を休ませるのか
吐いた直後に大量に飲むのは避けるが、水分まで長時間止める手順ではない。吐き気が弱まったら少量ずつ試し、水分を保てなければ受診する。
白がゆだけを食べ続けるのか
最初は食べやすい物を少量選ぶ。食欲が戻り、嘔吐が再発しなければ、体調に合わせて普段の食事へ戻す。
子どものミルクは薄めるのか
自己判断で薄めない。母乳やミルクは通常の濃さのまま、少量を通常より頻回に与える。乳児が飲めない、尿が減る、ぐったりする場合は速やかに医療機関へ相談する。
出典・参考資料
- 緊急度判定プロトコルVer.1 救急受診ガイド(家庭自己判断)(総務省消防庁)成人と小児の嘔吐で直ちに受診する項目、脱水の兆候、小児の応急手当を示す全国版ガイド
- 上手な医療のかかり方(厚生労働省)小児の嘔吐・下痢に対する経口補液と食事再開の資料
- Diarrhoea and vomiting(NHS)少量ずつの水分、食事再開、乳児の授乳と受診目安を示す公的医療情報
- Eating, Diet, & Nutrition for Viral Gastroenteritis(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)胃腸炎での絶食、制限食、通常食への復帰を扱う米国政府機関の情報
- 妊娠悪阻(厚生労働省)妊娠悪阻の症状、脱水と入院加療の必要性を示す情報
- 糖尿病患者の皆様へ:今一度シックデイ対策を(日本糖尿病学会・日本糖尿病協会)嘔吐や食欲不振を伴うシックデイでの血糖変動と個別指示の必要性