搾乳器にたまった母乳の量は、その時の搾乳結果であり、赤ちゃんが乳房から飲んだ量そのものではない。直接授乳で足りているかは、授乳中の吸着と嚥下、24時間の排尿、出生後の体重推移を組み合わせて見る必要がある。
先に確認したい受診の目安
新生児が乳房を含めない、飲もうとしない、起こしても反応が鈍い、呼吸が苦しそう、発熱やけいれんがある場合は、搾乳量や次の授乳を待たず、速やかに出産した医療機関か小児科へ連絡する段階だ。WHOは、新生児の哺乳の問題、活動性の低下、呼吸困難、発熱、けいれん、体が冷たい状態を、速やかな医療を求める危険徴候に挙げている。
出生後に体重が減り続ける、尿や便が日齢に比べて少ない、黄疸が強まる場合も、自己判断で授乳方法を変える前に評価が要る。Academy of Breastfeeding Medicineの2022年指針は、正期産児で出生体重の10%を超える減少、または日齢当たり1回未満の排尿・排便を、詳しい授乳評価が必要な目安としている。10%という数値だけで補足栄養の要否や方法が決まるわけではない。
母親に乳房の硬い部分、圧痛、熱感があり、自分で対応しても改善しない場合は産科や助産師に相談する。乳房全体の硬さ、強い痛み、熱感を伴う場合は受診が必要になる。日本産婦人科医会は、改善しない乳房痛では外来受診を促し、乳房全体の硬結、圧痛、熱感があれば感染性乳腺炎への対応が必要としている。
吸着と嚥下──授乳中に見る所見
良い吸着では、赤ちゃんの口が大きく開き、下唇が外側を向き、あごが乳房に触れる。吸啜は速く浅い動きだけで続かず、深くゆっくりした動きと短い休止が現れる。嚥下が見えたり聞こえたりすることも確認材料になる。WHOはこれらを良い吸着の所見として示し、生後早期は昼夜合わせて24時間に8〜12回の授乳を目安に挙げている。
授乳時間の長さや、授乳後に再び乳房を求めたという一場面だけでは摂取不足と決められない。反対に、長く眠ったことも十分に飲めた証明にはならない。授乳ごとの様子と一日の排泄、数日から数週の体重推移を同じ記録で追う。
排尿と発育曲線を合わせて見る
WHOは、1日に紙おむつ6枚以上がぬれ、便が軟らかく十分に出て、WHOの成長基準に沿って育っていることを、母乳を十分に飲めているか判断する材料としている。ただし、この枚数は日齢や全身状態を無視して単独で診断する基準ではない。国内の公的資料で、出生後の日齢ごとのぬれたおむつ枚数を全国一律に定めたものは、本稿の執筆時点で確認できていない。
体重も一回の値より推移が重要だ。こども家庭庁の「乳幼児身体発育曲線の活用・実践ガイド」は、授乳期の体重増加不良では、機嫌、睡眠、体温、呼吸、嘔吐、便と尿を確認し、小児科医の診察を受ける必要があるとしている。発育曲線が横ばいになる、下向きに推移する、出生後の体重減少が続く場合は、家庭の体重計だけで結論を出さず、乳児健診や小児科で測定条件をそろえて評価する。
早産児・低出生体重児は個別の計画を優先
早産児、低出生体重児、黄疸や病気のある新生児には、健康な正期産児向けの回数や体重の目安をそのまま当てはめない。吸う力が弱い、途中で疲れる、治療のため母子が離れるといった条件で必要な支援が変わるため、退院時に示された授乳計画と受診予定を優先する。母親に持病がある、常用薬がある場合も、授乳の可否や薬の変更を自己判断せず、処方した医師や薬剤師に確認する。
搾乳量は記録の一部にとどめる
搾乳が必要な場面では、時刻、左右、量を記録して医療者に伝える資料になる。ただし、搾乳器の目盛りだけから直接授乳での摂取量や補足栄養の必要性は決められない。授乳回数、吸着、嚥下、尿と便、体重、赤ちゃんの反応を24時間単位で記録し、出産した医療機関、助産師、乳児健診を担う小児科に共有する。
よくある質問
搾乳量が少なければ母乳不足なのか
搾乳量だけでは判断できない。直接授乳中の吸着と嚥下、24時間の排尿と排便、体重の推移を合わせて評価する。
出生体重から10%減ったら、すぐに育児用ミルクを足すのか
10%を超える減少は詳しい評価を受ける目安であり、それだけで補足栄養の要否や種類、量は決まらない。新生児の診察と授乳の観察を受け、医療者と方法を決める。
母乳だけを続けるか迷うときの相談先はどこか
出産した医療機関、助産師、乳児健診を担当する小児科が相談先になる。赤ちゃんの反応が鈍い、飲まない、呼吸が苦しそう、発熱やけいれんがある場合は、通常の相談日を待たず速やかに医療機関へ連絡する。
出典・参考資料
- Early Essential Newborn Care(World Health Organization)良い吸着の所見と生後早期の授乳回数を示す公式情報
- Breastfeeding(World Health Organization)排尿、便、成長を母乳摂取の確認材料として示す公式情報
- 乳幼児身体発育曲線の活用・実践ガイド(こども家庭庁)発育曲線の見方と授乳期の体重増加不良に対する評価を示す公的ガイド
- Academy of Breastfeeding Medicine Clinical Protocol #2: Guidelines for Birth Hospitalization Discharge of Breastfeeding Dyads, Revised 2022(Academy of Breastfeeding Medicine)新生児の体重減少、排尿・排便と授乳評価の目安を示す臨床指針
- 分娩中・産褥期に起こり得る症状(日本産婦人科医会)産褥期の乳房痛、乳腺炎と受診の考え方を示す専門家向け情報
- Newborn mortality(World Health Organization)新生児の哺乳不良、活動低下、呼吸困難、発熱などを危険徴候として示す公式情報