食中毒は、細菌やウイルス、寄生虫、自然毒、化学物質を含む食品を口にして起こる健康被害だ。下痢、嘔吐、腹痛、発熱が代表的だが、同じ症状は感染性胃腸炎や緊急性のある腹部疾患でも生じるため、食後に具合が悪くなったという情報だけでは診断できない。
発症までの時間も一様ではない。数時間前の食事が原因になる場合がある一方、数日前に食べた物が関係する場合もある。最後の一食に原因を求めるより、症状の重さを見極め、食事と発症の時間軸を残すことが先になる。
先に確認する受診の警告サイン
突然の強い腹痛や強い痛みが続く、便や吐いた物に血が混じる、意識がもうろうとする、自力で移動できない場合は、救急要請を含めて直ちに医療につなぐ必要がある。水分を十分に取れず嘔吐が続く、尿量が減る、尿の色が濃くなる、皮膚や唇が乾く、立ちくらみがある場合も、脱水を疑って早めに受診する。総務省消防庁の全国版救急受診ガイドは、血便、持続する強い腹痛、意識の変化を緊急性の高い項目とし、嘔吐時の尿量減少、濃い尿、口唇の乾燥、立ちくらみを医療機関受診の判断材料に挙げている。
子ども、妊婦、高齢者、基礎疾患のある人
乳幼児と高齢者は、嘔吐や下痢に伴う脱水と体力消耗への注意が要る。厚生労働省は、ノロウイルス感染では子どもや高齢者が重症化したり、吐いた物を気道に詰まらせたりする場合があるとしている。水分を保てない、尿が減る、反応が鈍いといった変化があれば、成人一般の経過観察を当てはめず医療機関へ連絡する。
妊娠中の人、高齢者、免疫機能が低下している人は、食品由来のリステリア感染で重症化しやすい。厚生労働省は、妊婦、高齢者、抗がん剤治療中など免疫機能が低下した人では、少量のリステリアでも重い状態になり、妊婦の感染は胎児や新生児へ影響する場合があると注意を促している。妊娠中、腎臓病や糖尿病などの持病がある、免疫を抑える薬を使っている、常用薬がある場合は、症状が軽く見えても医療機関へ早めに相談し、病歴と服薬内容を伝える。
主症状は似ていても、潜伏期間は大きく違う
厚生労働省は、食中毒の原因を細菌、ウイルス、自然毒、化学物質、寄生虫などに分け、食べてから症状が出るまでの期間と症状、予防方法は原因ごとに異なると説明している。胃腸症状が中心でも、発熱や倦怠感を伴う場合があり、血便や神経症状が前面に出る原因もある。
| 原因の例 | 公的資料が示す潜伏期間 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 黄色ブドウ球菌 | 0.5〜6時間 | 吐き気、嘔吐、下痢 |
| ノロウイルス | 24〜48時間 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、軽い発熱 |
| カンピロバクター | 2〜7日 | 下痢、腹痛、発熱、頭痛、嘔吐、吐き気 |
| 腸管出血性大腸菌 | おおむね3〜8日 | 水様便、強い腹痛、著しい血便 |
食品安全委員会のファクトシートは、黄色ブドウ球菌食中毒の潜伏期間を0.5〜6時間とし、吐き気、嘔吐、下痢を主症状に挙げる。一方、厚生労働省のノロウイルスQ&Aは潜伏期間を24〜48時間、主症状を吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、軽い発熱としている。
食品安全委員会はカンピロバクター食中毒の潜伏期間を2〜7日とし、下痢、腹痛、発熱、頭痛、嘔吐、吐き気を主症状に挙げる。厚生労働省の腸管出血性大腸菌Q&Aでは、多くの例が約3〜8日の潜伏期を経て水様便で発症し、強い腹痛や著しい血便、重い合併症へ進む場合がある。
この幅から分かるのは、最後の食事だけを調べても原因を絞れないという点だ。症状と食事歴だけで原因食品と病原体を特定する国内の公的な自己診断基準は、本稿の執筆時点で確認できていない。表は病原体を自己診断する道具ではなく、数日前までの食事歴が診察や保健所調査に必要になる理由を示すものだ。
受診前に残す記録
医療機関には、症状が始まった日時、下痢や嘔吐の回数、体温、血便の有無、水分摂取量と尿の変化を伝える。直前の一食に限らず、数日前から食べた物、店名や購入場所、一緒に食べた人の症状も時系列で書き出す。レシート、包装、商品名が分かる写真も調査の手掛かりになる。
神奈川県は、食中毒を疑う場合はできるだけ早く医療機関を受診し、居住地域の保健所へ相談するよう案内している。複数人が同じ食事の後に似た症状を示した場合や、購入食品が疑われる場合も、店や原因を自分で断定せず保健所へ情報を渡す。残った料理を再び食べるのは避け、処分方法や保管の要否は保健所の指示を受ける。
水分補給と下痢止め
嘔吐や下痢が続く間は脱水を防ぐ水分補給が中心になるが、水分を保てない、尿が減る、ぐったりする場合は自宅での補給だけに頼らない。乳幼児、高齢者、腎臓病や心臓病がある人では必要な水分量や電解質の扱いが異なるため、医療機関へ相談する。
市販の下痢止めを一律に使う対応は避ける。厚生労働省はノロウイルス感染について、下痢止めが回復を遅らせる場合があるため使用を避けるのが望ましいとしている。また、腸管出血性大腸菌感染では、腸の動きを抑える下痢止めや一部の痛み止めがベロ毒素の排出を妨げる場合があるため、厚生労働省は医師の診断に基づく治療を求めている。血便や発熱がある、強い腹痛が続く、持病や常用薬がある場合は、購入前に医師や薬剤師へ症状と服薬内容を伝える。
よくある質問
食後どのくらいで症状が出るのか
原因によって数十分から数日以上まで差がある。最後の食事だけで判断せず、数日前からの食事と発症時刻を記録する。
下痢と嘔吐があれば食中毒なのか
症状だけでは確定しない。感染性胃腸炎や別の腹部疾患でも起こる。血便、強い腹痛、意識の変化、脱水の兆候があれば原因を推測する前に受診する。
何科を受診するのか
自力で受診できる場合は内科や消化器内科が入口になる。小児は小児科、妊娠中は産科にも連絡する。意識がおかしい、自力で移動できない、強い痛みが続く場合は119番へ連絡する。
保健所にはいつ相談するのか
同じ食事をした複数人に似た症状がある、購入した食品が疑われる、飲食店での食事後に発症した場合は、医療機関を受診したうえで居住地域の保健所へ相談する。食事の記録、レシート、包装は捨てず、調査方法は保健所の指示に従う。
出典・参考資料
- 食中毒(厚生労働省)食中毒の原因分類と、原因ごとに潜伏期間や症状が異なることを示す総合情報
- ブドウ球菌食中毒 ファクトシート(食品安全委員会)黄色ブドウ球菌食中毒の潜伏期間と主な症状を示す資料
- ノロウイルスに関するQ&A(厚生労働省)ノロウイルスの潜伏期間、症状、水分補給、下痢止めに関する公的Q&A
- カンピロバクター ファクトシート(食品安全委員会)カンピロバクター食中毒の潜伏期間と症状を示す資料
- 腸管出血性大腸菌Q&A(厚生労働省)腸管出血性大腸菌の潜伏期間、血便などの症状、市販薬に関する注意を示す資料
- 緊急度判定プロトコルVer.1 救急受診ガイド(家庭自己判断)(総務省消防庁)腹痛、嘔吐、脱水、意識変化に関する緊急度判定項目を示す全国版ガイド
- 食中毒(神奈川県)食中毒を疑う場合の医療機関受診と保健所相談を案内する自治体情報
- リステリアによる食中毒(厚生労働省)妊婦、高齢者、免疫機能が低下した人の重症化リスクを示す資料