健診結果に並ぶヘモグロビンA1c(Hemoglobin A1c、HbA1c)は、採血前の食事ではなく、過去1〜2カ月の平均的な血糖状態を反映する指標だ。厚生労働省は特定健康診査で5.6%以上を保健指導判定値、6.5%以上を受診勧奨判定値としている。5.7%は生活習慣や追加検査を考える範囲に入るが、その一点だけで「糖尿病予備群」と診断されるわけではない。
急いで受診する症状──健診の再検査を待たない
HbA1c 5.7%だけで救急要請が必要になるわけではない。一方、急に強い口渇と多尿が現れ、著しいだるさ、吐き気、嘔吐、腹痛を伴う場合は早めに医療機関へ連絡する。意識がもうろうとする、呼びかけに反応しない状態なら、総務省消防庁の救急車利用マニュアルに沿って119番を呼ぶ。糖尿病情報センターは、こうした症状を伴う異常な高血糖では脱水や意識障害に至る急性合併症があり、速やかな治療が必要だと説明している。
5.7%は日本の診断上の分水嶺ではない
日本と米国では「糖尿病予備群」の区切り方が同じではない。糖尿病情報センターは、HbA1c 6.0〜6.4%を「糖尿病の疑いが否定できない」群、5.6〜5.9%を「将来糖尿病を発症するリスクが高い」群と整理している。日本の境界型はHbA1c 6.5%未満で、空腹時血糖110〜125mg/dLまたは75g経口ブドウ糖負荷試験(Oral Glucose Tolerance Test、75gOGTT)の2時間値140〜199mg/dLを満たす状態を指す。
日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」は、HbA1c 6.0〜6.4%で75gOGTTを強く推奨し、5.6〜5.9%では同検査が望ましいとしている。後者でも糖尿病の濃厚な家族歴、肥満、高血圧、脂質異常症があれば追加検査を検討する。健診票の5.7%は放置する数字ではないが、病名へ直結させる数字でもない。
空腹時血糖とHbA1cが食い違う理由
空腹時血糖は採血時点の空腹状態、HbA1cはそれ以前の平均的な血糖状態を映す。測っている時間軸が違うため、一方が基準範囲内でも他方が高い場合がある。食後の上昇を詳しく調べる75gOGTTを含め、三つの検査は互いの代用品ではない。
糖尿病型の目安は、空腹時血糖126mg/dL以上、75gOGTTの2時間値200mg/dL以上、随時血糖200mg/dL以上、またはHbA1c 6.5%以上である。ただし、単独の検査値を見て本人が診断を確定するものではない。学会の診断手順は、血糖値とHbA1cの組み合わせ、典型症状、別日の再検査などで慢性高血糖を確認する構成になっている。
生活習慣の見直しは発症リスクを下げる
糖尿病予備群や高リスク群では、食事、運動、体重、喫煙を見直す余地がある。糖尿病情報センターは、食事を腹八分目にする、野菜を取る、散歩などの運動を少しずつ始める、必要な人は体重の5〜10%減を目指す、禁煙する、健診を受けるといった項目を挙げ、国内外の予防研究では生活改善に取り組んだ群の2型糖尿病発症が対照群より29〜67%少なかったとまとめている。
この幅は複数研究の結果であり、個人のHbA1cが必ず正常域へ戻るとの意味ではない。持病、体力、治療薬によって安全な食事量や運動強度は異なる。健診で6.5%以上を指摘された場合は生活改善だけで様子を見ず、厚生労働省の案内に沿って医療機関で診察と検査を受ける。薬を始めるかどうかは、確定診断と全身状態を踏まえて医師が判断する。
貧血、出血、輸血、透析では数値がずれる
HbA1cは赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が結び付いた割合である。このため、赤血球の寿命やヘモグロビンの性質が変わると、血糖とは別の理由で値が上下する。米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所は、最近の出血、輸血、赤血球造血刺激薬の使用、血液透析、鉄欠乏性貧血、腎不全、肝疾患、サラセミアなどのヘモグロビン異常を、HbA1cへ影響する要因として挙げている。
該当する病歴がある人や、HbA1cと血糖値の動きが一致しない人は、健診結果と病歴、服薬内容を医師へ伝える。空腹時血糖、75gOGTT、別の測定法を使うかは医師が決める。HbA1cだけを信頼することも、数値を無効と決めつけることも避ける必要がある。
妊娠中、小児、持病や常用薬がある人
妊娠中は妊娠糖尿病に専用の検査基準があり、成人一般の健診区分をそのまま当てはめない。糖尿病情報センターは、妊娠糖尿病を75gOGTTの空腹時・1時間・2時間値で判定し、「妊娠中の明らかな糖尿病」と区別している。妊娠中または妊娠を考えている人は、健診値を産婦人科や主治医へ示す。
日本糖尿病学会などの小児・思春期ガイドラインは、血糖とHbA1cに加え、病型やケトーシスを含めた評価を示している。子どもに強い口渇、多尿、体重減少、だるさがある場合は、成人向けの生活改善だけで経過を見ない。糖尿病、腎疾患、肝疾患、貧血の治療中の人や常用薬がある人も、自己判断で治療や薬を変えず主治医へ相談する。
健診票から次の確認へ
HbA1c 5.7%なら、同じ結果票の空腹時血糖、血圧、脂質、体重の推移を確認する。高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病の家族歴があれば、その情報も受診時に伝える。HbA1c 6.0〜6.4%なら75gOGTTが強く推奨される範囲、6.5%以上なら医療機関への受診が勧められる範囲である。
採血前日だけ糖質を控えても、過去1〜2カ月を映すHbA1cを意図的に下げる方法にはならない。1回の値を病名に読み替えず、日本の基準に沿って必要な再検査と継続的な確認につなげることが、健診結果の使い方となる。
よくある質問
HbA1c 5.7%なら糖尿病予備群なのか
日本では5.7%だけで境界型や糖尿病予備群とは診断しない。5.6〜5.9%は将来の発症リスクが高い群に当たり、空腹時血糖や危険因子を踏まえて75gOGTTを検討する範囲である。
HbA1c 6.5%なら糖尿病が確定するのか
6.5%以上は糖尿病型であり、受診勧奨の対象になる。確定診断は血糖値、症状、再検査などを組み合わせて医師が行う。
空腹時血糖が正常ならHbA1cは見なくてよいか
両者は測る時間軸が異なる。どちらか一方だけで糖代謝の状態を判断せず、必要に応じて75gOGTTも含めて確認する。
貧血があってもHbA1cで判断できるか
貧血の種類や赤血球寿命の変化により、実際の血糖より高くまたは低く出る場合がある。血糖値との食い違いを含めて医師に示し、検査法を相談する。
出典・参考資料
- 糖尿病の早期発見・早期治療(厚生労働省)特定健診の保健指導判定値・受診勧奨判定値と受診案内
- 糖尿病診療ガイドライン2024 第1章 糖尿病診断の指針(日本糖尿病学会)HbA1c、空腹時血糖、75gOGTTによる診断と追加検査の基準
- 糖尿病予備群といわれたら(糖尿病情報センター)日本の境界型、発症リスク群、生活習慣の見直し
- 糖尿病の急性合併症のはなし(糖尿病情報センター)高血糖の急性合併症と急いで治療を受ける症状
- 救急車利用マニュアル(総務省消防庁)意識障害などで119番をためらわない目安
- The A1C Test & Diabetes(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)赤血球寿命、輸血、透析、貧血、ヘモグロビン異常による測定への影響
- 妊娠と糖尿病(糖尿病情報センター)妊娠糖尿病と妊娠中の明らかな糖尿病の区別
- 小児・思春期糖尿病コンセンサス・ガイドライン2024 第8章(日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会)小児・思春期の検査と成人一般とは異なる評価