手足口病とヘルパンギーナは多くが軽快する一方、まれに中枢神経や心肺の合併症を起こす。高熱、嘔吐、視線や反応の異常、速く苦しそうな呼吸などを見逃さず、流水と石けんによる手洗いと排泄物の適切な処理で家庭内や保育施設での感染拡大を抑える。
先に確認する受診の警告サイン
高熱が出る、発熱が2日以上続く、嘔吐する、頭を痛がる、視線が合わない、呼びかけに答えない、呼吸が速く息苦しそう、水分が取れず尿が出ない、ぐったりしている。 厚生労働省の手足口病Q&Aは、この9つの状態がみられた場合、すぐに医療機関を受診するよう求めている。発疹の数や場所だけで重症度を判断せず、発熱の開始時刻、嘔吐の回数、水分量、最後に尿が出た時刻、呼びかけへの反応を伝える。
呼びかけても反応がない、けいれんしている、唇が紫色になる、呼吸が弱い、激しい嘔吐で水分が取れず意識がはっきりしない。 こうした状態では診療時間を待たず119番へ通報する。厚生労働省の救急案内は、子どもの意識障害、けいれん、紫色の唇、弱い呼吸、止まらない嘔吐を、救急車を呼ぶ症状に挙げている。
休日や夜間に受診の要否で迷い、上の救急要請の状態には当たらない場合は、こども家庭庁が案内する全国共通の「こども医療電話相談」#8000で、小児科医師や看護師に相談できる。受付時間は都道府県で異なる。
「腸病毒」ではなく、手足口病とヘルパンギーナを分ける
エンテロウイルス(Enterovirus)は複数のウイルスを含む総称である。日本の公的な流行情報では、子どもの代表的な病像を「手足口病」と「ヘルパンギーナ」に分け、全国の小児科定点から報告を集めている。
手足口病では、口の粘膜、手のひら、足の裏や足の甲などに水疱性の発疹が現れる。ヘルパンギーナは突然の高熱とのどの奥の水疱や潰瘍が中心となる。国立健康危機管理研究機構(JIHS)は、両疾患を夏に小児で流行するエンテロウイルス感染症とし、主な感染経路を飛沫、糞口、接触としている。
多くは良好な経過をたどるが、手足口病ではまれに無菌性髄膜炎や脳炎、心筋炎を伴う。厚生労働省は、特別な治療法はなく症状に応じた治療が基本である一方、中枢神経系や心臓の合併症を考えて経過をよく見る必要があるとしている。口や手足に発疹がないことだけで、別の感染症や重い状態を除外することはできない。
2026年の国内動向──第26週まで増加
JIHSによると、2026年の手足口病は第20週から増え始め、第26週には全国約2000か所の小児科定点から1万396例、定点当たり4.61が報告された。同じ週のヘルパンギーナは2592例、定点当たり1.15だった。手足口病から主に検出されたウイルスは、7月1日時点でコクサッキーウイルスA6とエンテロウイルス71である。
この数字は医療機関を受診して定点報告の対象になった例であり、国内の全感染者数ではない。地域ごとの流行時期もずれるため、保育所や学校からの連絡、自治体の感染症週報も合わせて確認する。
乳児、持病や常用薬のある子ども
乳児は言葉で頭痛や息苦しさを伝えられない。飲む量が大きく減る、尿が出ない、目が合わない、呼びかけへの反応が鈍い、ぐったりするといった行動と水分の変化を確認し、成人や年長児の様子見を当てはめない。
心臓、呼吸器、神経、免疫の病気などで通院中の子どもや常用薬のある子どもは、受診先へ病名と薬の一覧を伝える。妊娠中の人、成人、高齢者については、この記事の小児向け受診目安をそのまま当てはめず、発熱や発疹、強い体調変化があれば、それぞれのかかりつけ医へ相談する。
感染対策──アルコール任せにせず手を洗う
厚生労働省が手足口病対策の基本に置くのは、流水と石けんによる十分な手洗い、タオルを共用しないこと、排泄物を適切に処理することである。食事前、トイレ後、おむつ交換後は、手指用アルコールだけで済ませず手を洗う。おむつ交換では使い捨て手袋を使い、外した後にも手洗いする。
症状が治まっても、便からは比較的長くウイルスが排出される。症状のある子どもだけを長期間隔離する方法では感染を防ぎ切れないため、回復後も家庭全体で手洗いとタオルの個別使用を続ける。
塩素系消毒──500ppmを一律に使わない
次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、汚れと対象物で変わる。こども家庭庁の「保育所における感染症対策ガイドライン」は、便や嘔吐物が付いた床と衣類の浸け置きに0.1%(1000ppm)、食器の浸け置きや便座、ドアノブ、手すり、床に0.02%(200ppm)を示している。洗えない遊具などが便や嘔吐物で汚れた場合は、汚れを十分に除いた後、0.05〜0.1%(500〜1000ppm)で拭き取る。
原液が約6%の製品を使う同ガイドラインの例では、1000ppmは水1リットルに原液約20ミリリットル、200ppmは水1リットルに約4ミリリットルとなる。製品の原液濃度が違えば量も変わるため、容器の表示と用途を先に確認する。希釈液は使用時に作って毎日交換し、子どもの手が届かない場所に置く。酸性の洗剤と混ぜず、換気し、手袋を着けて扱い、手指には使わない。
登園再開──発疹の消失だけで決めない
こども家庭庁の保育所向けガイドラインは、手足口病の登園再開を、発熱や口内の水疱・潰瘍の影響がなく、普段の食事が取れる状態を目安としている。発熱、のどの痛み、下痢がある、食べられない場合は登園を控え、全身状態が安定してから再開する。
発疹がすべて消えるまで一律に休む基準ではない。園の規定や医師の判断を確認し、再開後も排便後とおむつ交換後の手洗いを続ける。
よくある質問
日本にも「8大重症前兆」があるのか
同じ名称と項目数の全国基準は、本稿の執筆時点で確認できていない。厚生労働省は、高熱、2日以上続く発熱、嘔吐、頭痛、視線が合わない、呼びかけに答えない、速く苦しそうな呼吸、水分が取れず尿が出ない、ぐったりした状態を挙げている。
手足に発疹がなければ重症ではないのか
発疹の有無だけでは判断しない。反応がおかしい、呼吸が苦しそう、けいれんしている、水分が取れず尿が出ない場合は、皮膚症状より受診を優先する。
消毒はすべて500ppmでよいのか
一律ではない。保育所向けの国の指針は、便や嘔吐物が付いた床などに1000ppm、便座やドアノブなどに200ppm、洗えない汚染物に500〜1000ppmを示す。原液濃度を確認して製品表示に従う。
いつから保育所へ戻れるのか
発熱や口内の水疱・潰瘍の影響がなく、普段の食事が取れることが目安となる。園の規定と医師の判断も確認し、再開後も排便後とおむつ交換後の手洗いを続ける。
出典・参考資料
- IDWR 2026年第26号<注目すべき感染症> 手足口病・ヘルパンギーナ(国立健康危機管理研究機構)2026年第26週までの国内発生動向、感染経路、重い合併症、主な原因ウイルス
- 手足口病(厚生労働省)治療、手洗い、タオルの共用回避、排泄物処理、便中への長期のウイルス排出
- 手足口病に関する注意喚起について(厚生労働省)早期受診を求める症状と、流水・石けんによる手洗い
- 保育所における感染症対策ガイドライン(こども家庭庁)手足口病の症状、登園再開の目安、次亜塩素酸ナトリウムの対象別濃度と取扱上の注意
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)子どもの意識、呼吸、けいれん、嘔吐に関する救急要請の目安
- もしものために(こども家庭庁)休日・夜間のこども医療電話相談#8000の対象と接続方法