フレイル(Frailty)評価は、血液検査や画像検査とは異なり、高齢者の歩行、筋力、活動、生活上のつながりを捉える枠組みだ。健診結果の「異常なし」は、その健診が調べた項目で基準を外れなかったという意味であり、日常生活の機能まで変化していないとの判定ではない。

健診の数値と生活機能は別の軸

血糖、脂質、血圧、肝機能などは、疾病の発見や将来リスクの把握に使う。一方、歩く速度が落ちた、椅子から立ちにくい、外出が減ったという変化は、同じ採血結果からは読み取れない。国立長寿医療研究センターも、血圧や血糖の管理状態と、転びやすさや元気の低下が一致しない高齢者の例を挙げ、フレイルを診療で評価する必要性を説明している

厚生労働省の高齢者保健事業の指針は、後期高齢者健診で2020年度に改定した質問票を活用し、高齢者の特性を踏まえた健康状態を総合的に把握するよう求めている。検査値と質問票を競わせるのではなく、異なる情報を合わせて支援や受診につなぐ設計である。

急な変化はフレイル評価より119番

フレイルは時間をかけて表れる機能変化を扱う。突然、支えなしで立てないほどふらつく、顔の片側がゆがむ、ろれつが回らない、片腕や片脚に力が入らない、急な息切れや呼吸困難がある場合は、歩行速度や握力を確かめる段階ではない。厚生労働省は、これらを迷わず119番を呼ぶ症状として成人・高齢者向けに示している

血液検査などの健診項目と、筋力・活動能力・社会参加の評価を対比した図

日本の質問票──外出や人とのつながりも確認

後期高齢者の質問票は15項目で、健康状態、心の健康、食習慣、口腔機能、体重変化、運動・転倒、認知機能、喫煙、社会参加、ソーシャルサポートの10類型を扱う。歩く速度が以前より遅くなったか、過去1年に転んだかという質問に加え、週1回以上の外出、家族や友人との付き合い、体調不良時に相談できる人の有無も尋ねる。

質問票は病名を決める検査ではない。厚生労働省の解説は、健診、地域の通いの場、かかりつけ医での活用を想定し、回答を医療・健診・介護情報と組み合わせて支援先へつなぐとしている。回答が一つ当てはまっただけで、フレイルやサルコペニアと自己診断する使い方ではない。

身体的フレイルを測る5項目

日本サルコペニア・フレイル学会が示す改訂版J-CHS基準は、意図しない体重減少、理由のない疲労感、通常歩行速度、握力、身体活動の5項目を用い、3項目以上をフレイル、1〜2項目をプレフレイルとする。歩行速度は秒速1.0メートル未満、握力は男性28キログラム未満、女性18キログラム未満が項目ごとの目安だ。

ここで測るのは身体的フレイルであり、社会的な孤立や認知・心理面の評価すべてを置き換えるものではない。歩行速度は関節痛、心肺機能、神経疾患などでも変わり、握力は測定姿勢や機器の影響を受ける。5項目の枠組みと、後期高齢者の質問票が扱う社会参加は、範囲の異なる評価である。

歩行速度と握力が示すのは「関連」

2011年にJAMAへ掲載された解析は、65歳以上の地域在住者3万4,485人を対象とする9件のコホート研究をまとめ、通常歩行速度が秒速0.1メートル高いごとに死亡ハザードが0.88だったと報告した。追跡期間は6〜21年で、歩行速度と生存との関連は9研究すべてで認められた。

広島の成人4,912人を1970〜72年の測定から1999年末まで追った研究では、握力が5キログラム高いことに対する全死亡の調整相対リスクは男性0.89、女性0.87だった。対象は測定時35〜74歳で、高齢者だけの研究ではない。

いずれも観察研究である。歩行速度や握力は、筋肉だけを映す数値ではなく、疾患、栄養、身体活動、痛みなどを合わせた状態の指標になりうる。数値を上げれば死亡リスクが報告値と同じ割合で下がる、という介入効果はこの研究設計からは導けない。

筋力、活動能力、社会参加を関連づけた機能評価の概念図

基準値だけで結論を出さない

評価の出発点は、一度の数値より経時的な変化だ。以前より歩くのが遅くなった、転倒が増えた、意図せず体重が減った、外出や交流が減った場合は、健診結果とともにかかりつけ医や自治体の健診窓口へ伝える。原因に疾患、痛み、低栄養、薬の影響が含まれるかを分ける作業が先になる。

持病がある人や常用薬のある人は、運動機能やバランスへの影響を診療情報と合わせて判断する必要がある。高齢者向けに作られた基準を子ども、妊婦、若年者へ転用せず、それぞれの健診や診療の枠組みを使う。機能評価は通常の健診を省く理由にも、本人の判断で薬を中止する根拠にもならない。

日本では後期高齢者健診に生活機能をみる質問票が組み込まれ、検査値だけでは拾いにくい変化を記録する入口がある。一方、この質問票の導入によって要介護や死亡が全国規模でどの程度減ったかを示す公的な評価資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。評価項目が制度に入ったことと、長期的な健康効果が証明されたことは分けて考える必要がある。