急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection、ARI)は、鼻や喉などの上気道から肺までに急な症状を起こす感染症の総称だ。始業前の子どもにせき、鼻水、発熱が出た場合、病名を推測する前に呼吸、意識、水分摂取、尿量を確かめる。
まず119番を急ぐ兆候
唇が紫色になる、顔色が明らかに悪い、激しいせきやぜん鳴で呼吸が苦しそう、呼吸が弱い、意識がはっきりしない、けいれんがある場合は119番へ連絡する。厚生労働省の救急車利用案内は、子どもの唇の色や呼吸の異常に加え、激しい嘔吐や下痢で水分が取れず、意識がはっきりしない状態も救急車を呼ぶ目安に示している。退熱や診療時間まで待つ状況ではない。
119番の兆候がなくても、水分や母乳を取れない、尿量が減った、顔色が悪い、呼吸が普段より苦しそう、ぐったりしている、繰り返し吐くといった変化があれば、速やかに医療機関へ連絡する。日本小児科学会は、水分摂取や尿量の低下、呼吸状態の悪化、意識がはっきりしない状態、けいれん、異常行動、反復する嘔吐のいずれかがあれば、速やかに医療機関へ相談するよう示している。
休日や夜間に受診の要否を迷い、上の救急兆候がない場合は子ども医療電話相談の♯8000が使える。♯8000は全国共通の短縮番号で、居住する都道府県の窓口につながり、小児科医師や看護師から症状に応じた対処と受診先の助言を受ける仕組みだ。実施時間は都道府県ごとに異なる。明らかな呼吸困難や意識障害があるときは、♯8000を待たず119番を優先する。
「かぜ」かインフルエンザか、症状だけで決めない
せき、鼻水、喉の痛みは複数の急性呼吸器感染症で重なる。厚生労働省は、インフルエンザでは38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、強い倦怠感が比較的急に現れ、普通のかぜと同じ喉の痛み、鼻水、せきもみられるとしている。発熱の高さや鼻水の有無だけで原因を決めず、症状が始まった時刻、周囲の流行、呼吸と全身状態を医師へ伝える。
インフルエンザが疑われる場合は、発症時刻の記録が治療判断に関わる。厚生労働省の現行Q&Aは、抗インフルエンザ薬を発症から48時間以内に始めると発熱期間が通常1〜2日短くなる一方、すべての患者に必須ではなく、使用は症状が始まってからの時間と病状を踏まえて医師が判断すると説明する。どの薬を使うかは、診察した医師の判断に沿う。
家庭では水分、尿量、睡眠を記録
救急の兆候がなければ、子どもが飲める範囲で水分や母乳を取り、休ませる。飲んだ量を細かく推定するより、口にできているか、尿が普段どおり出ているか、眠れているかを続けて見る。日本小児科学会は、水分を促して体温調節を行い、飲めて普段どおり眠れていれば、緊急の救急外来ではなく翌日以降のかかりつけ医受診を選べるとしている。
体温、せきや発熱が始まった時刻、飲水と排尿、嘔吐の回数、活動の様子、すでに使った薬を記録する。受診時はお薬手帳か薬の現物を持参し、持病と常用薬も伝える。経過がいったん軽くなった後に呼吸や意識が悪化した場合は、日数にかかわらず再評価が要る。
家庭内と学校への広がりを抑えるには、無理に登校させず、手洗い、換気、せきエチケットを組み合わせる。厚生労働省は、急性呼吸器感染症の症状があるときは学校へ無理に行かず、せきやくしゃみを人へ向けないこと、ティッシュや腕の内側で口と鼻を覆うこと、使用後のティッシュを捨てて手を洗うことを挙げている。2歳未満の子どもにはマスクを勧めていないため、年齢と体調を無視して着用させない。
乳幼児、持病や常用薬のある子ども
乳幼児や、持病、免疫機能の問題、常用薬のある子どもには、一般の学童と同じ経過観察をそのまま当てはめない。症状が出た時点で、かかりつけ医から受診時期や薬の扱いについて個別の指示を受ける。普段の呼吸や食事量を知る保護者が「いつもと違う」と感じた変化も記録して伝える。
とくに市販薬は、年齢だけでなく持病や処方薬との組み合わせで使えない場合がある。日常的な薬を自己判断で止めず、追加する市販薬の成分を医師または薬剤師に示す。
子どもの薬は対象年齢と成分を確認
医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、15歳未満では使えない市販薬や、「小児用」と表示されていても年齢によって使えない薬があるため、包装の用量欄を読み、薬剤師に子どもの年齢を伝えて使用可否を確認するよう案内している。処方薬がある、持病がある、薬や食物のアレルギーがある場合も購入前の相談対象だ。
解熱鎮痛薬と総合感冒薬を併用すると、同じ有効成分が重なる場合がある。PMDAは、アセトアミノフェンを含む薬と総合感冒薬や解熱鎮痛薬を併用する際、同成分の重複による過量投与で重い肝障害が生じるおそれがあるとして、成分を確認し、重なる場合は併用を避けるよう注意喚起している。薬の名称だけで判断せず、薬袋と包装をまとめて医師または薬剤師に見せる。
抗菌薬は「かぜ薬」ではない。厚生労働省は、肺炎球菌など細菌による感染症には抗菌薬が効く一方、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなど、ウイルスを原因とする感染症には効かないと明記している。細菌感染や混合感染が疑われるかは医師が診察して判断する。
登校再開は病名と全身状態で分ける
インフルエンザと診断された場合、せきが消えた日だけで登校日は決まらない。学校保健安全法施行規則による出席停止期間は、発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日、幼児は3日を経過するまでで、病状から学校医などが感染のおそれはないと認めた場合は例外になる。同Q&Aは、回復後の登校に治癒証明書や陰性証明書は不要としている。
一方、診断が付いていないせきや鼻水全般について、全国一律の欠席日数を示す国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。発熱がなく、呼吸が安定し、水分と食事を取れ、授業に参加できる程度まで活動が戻っているかを見たうえで、医師の指示と学校の規定を確認する。せきが残るかどうかだけで二択にしない。
よくある質問
せきだけ残っていても登校できるのか
せきの有無だけでは決まらない。発熱、呼吸、水分摂取、尿量、眠り、活動の回復を確かめ、診断された感染症の出席停止期間と学校の規定に沿う。せきで息苦しい、食事や睡眠を妨げる、活動が落ちている場合は登校より受診を優先する。
鼻水が出たら抗菌薬が要るのか
鼻水だけでは細菌感染を示さない。ウイルスによる急性呼吸器感染症に抗菌薬は効かず、必要性は診察した医師が判断する。
解熱鎮痛薬と総合感冒薬を一緒に使えるのか
商品名だけでは判断できない。アセトアミノフェンなどの有効成分が重なる場合があるため、薬袋と包装を医師または薬剤師に示し、併用前に確認する。
発症から48時間を過ぎたら受診しなくてよいのか
48時間は抗インフルエンザ薬の効果に関わる目安で、受診をやめる境界ではない。呼吸や意識の異常、水分を取れない状態があれば経過時間を問わず対応し、持病のある子どもや症状が悪化する子どもは医師へ相談する。
出典・参考資料
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)子どもの唇の色、呼吸、意識、水分摂取など、119番通報を急ぐ具体的な兆候
- 新型コロナウイルス感染症等流行時における小児の発熱時の対応について(日本小児科学会)発熱した子どもの水分摂取、尿量、呼吸、意識、けいれんなどを基にした受診判断
- 令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A(厚生労働省)急性呼吸器感染症の症状、感染対策、抗インフルエンザ薬、抗菌薬、出席停止期間
- 市販のくすりを使用する場合、どんなことに注意したらよいですか(医薬品医療機器総合機構(PMDA))子どもの市販薬の対象年齢、添付文書の確認、持病や常用薬がある場合の相談
- 使用上の注意改訂情報(平成26年10月21日指示分)(医薬品医療機器総合機構(PMDA))総合感冒薬と解熱鎮痛薬でアセトアミノフェンが重複する場合の過量投与リスク
- 子どもの症状は♯8000(厚生労働省)休日・夜間に受診判断を相談できる全国共通の子ども医療電話相談