同じ食卓を囲んだ家族に嘔吐や下痢が相次いだ時は、原因探しより先に、一人ずつ意識、呼吸、水分を飲めるか、尿が出ているかを確かめる。共通の料理は調査の手掛かりになるが、発症順や最後の一食だけでは原因食品や責任を判断できない。
最初に判断する119番と早期受診
成人で突然の激しい腹痛、激しい腹痛の持続、血便または真っ黒い便、支えなしでは立てないほどの急なふらつきがある場合は119番へ連絡する。 子どもは、激しい下痢や嘔吐で水分が取れず意識がはっきりしない、嘔吐が止まらない、激しい腹痛で苦しむ、血便が出る場合に救急要請を急ぐ。厚生労働省の救急車利用案内は、これらを成人と子どもの119番の目安として示している。
乳幼児で水分が取れない、唇や舌が乾く、尿が半日以上出ない、尿が少なく濃い、血液・粘液・黒っぽい便が出る、けいれんがある場合は至急受診する。 こども家庭庁の感染症対策ガイドラインは、これらを子どもの下痢で至急受診が必要と考えられる兆候に挙げている。成人でも水分を保てない、尿が明らかに減る、ぐったりする状態なら、回数や経過日数を待たず医療機関へ連絡する。
119番か受診か迷う場合、実施地域では救急安心センター「♯7119」に相談する。総務省消防庁によると、♯7119は医師、看護師、救急救命士が救急車の要否や受診時期を電話で助言する仕組みで、本稿の執筆時点では全国41地域で実施されている。対象年齢と受付時間は地域ごとに違う。明らかな119番の兆候があれば相談電話を挟まない。
飲める場合は少量ずつ補水
意識がはっきりし、むせずに飲み込めるなら、一度に多く飲ませず少量ずつ水分を取る。子どもについて、こども家庭庁のガイドラインは経口補水液などを少量ずつ頻回に与えるとしている。飲むたびに吐く、意識がぼんやりする、尿が減り続ける場合は、家庭で飲ませ続けず受診を優先する。
経口補水液(Oral Rehydration Solution:ORS)は感染症を治す飲料ではなく、下痢や嘔吐に伴う脱水時に水と電解質を補う病者用食品である。消費者庁は、一般的なスポーツドリンクよりナトリウムとカリウムが多く、糖質も含むため、医師から食事制限を指示された人は医師、管理栄養士、薬剤師への相談が必要だとしている。製品名や一律の量を家族全員へ当てはめない。
乳幼児、高齢者、妊婦、持病・常用薬のある人
乳幼児。 成人より脱水へ進みやすいため、水分、排尿、活気を短い間隔で確認する。飲めない、半日以上尿が出ない、ぐったりする、血便やけいれんがある場合は至急受診する。
高齢者。 普段との受け答えの違い、急なふらつき、尿量低下を記録する。飲水を自力で続けにくい場合や基礎疾患がある場合は、成人一般の方法だけで経過をみない。
妊婦。 食中毒が疑われる時は早めに医療機関へ連絡し、食べた物、発症時刻、発熱、嘔吐と下痢の回数を伝える。
持病・常用薬のある人。 水分、塩分、カリウム、糖質の制限や薬の扱いは病気と処方内容で異なる。自己判断で薬を追加、増減、中止せず、処方元または薬剤師へ連絡する。農林水産省は、乳幼児、高齢者、妊婦、肝臓疾患・がん・糖尿病の治療中の人、免疫機能が低下した人を重症化に注意する層に挙げ、食中毒が疑われる時の受診を案内している。
食事と発症の時系列は一人ずつ記録
家族全体を一行でまとめず、同席者ごとに食べた物、食べた時刻、最初の症状、その後の変化、受診の有無を記す。症状がない人も、同じ料理を食べたか、途中で席を外したかなどを残す。体温、嘔吐・下痢の回数、尿、血便の有無は、医療機関へ伝える情報にもなる。
| 記録項目 | 一人ずつ残す内容 | 照合する資料 |
|---|---|---|
| 食事 | 食品、飲料、場所、時刻、食べた量の目安 | メニュー、写真、包装、注文履歴 |
| 症状 | 嘔吐、下痢、腹痛、発熱、血便、意識や活気 | 体温記録、受診先へ見せるメモ |
| 時間 | 最初の症状と、その後に変化した時刻 | メッセージ、通話、写真の時刻 |
| 医療 | 受診時刻、検査、処置、医療者の指示 | 診療明細、処方内容、お薬手帳 |
| 同席者 | 連絡先、食べた物、症状の有無 | 予約名簿、連絡グループ |
記録を最後の一食に限らない。東京都保健医療局は、相談を受けた保健所が症状と数日間の食事を聞き取り、必要に応じて検便や食品残品の検査、飲食店や製造元の調査を行うと説明している。同局の別の案内は、発症までの時間が原因によって直後から1週間以上まで開き、同じ原因でも摂取量や体調で変わるとしている。最初に発症した人と直前の料理だけに調査対象を絞らない。
食品残品、包装、レシートを捨てない
農林水産省は、食中毒が疑われる時に、食べた物、食品の包装、店のレシートを保管し、原因調査に役立てるよう案内している。食品の残品は食べ直したり味見したりしない。食べ切った場合も、レシート、電子注文の画面、料理の写真、予約記録は残せる。
東京都足立区は、原因と思われる食品をそのまま冷蔵庫へ入れ、レシート、空の容器、包装紙を残して保健所へ連絡するよう案内している。一方、家庭向けの全国一律資料で冷凍の可否までは確認できていない。疑わしい食品は冷蔵した上で、早めに地域の保健所へ扱いを確認する。
地域の保健所へ相談
同じ食事をした複数人に似た症状が出た場合は、救急対応や受診と並行して地域の保健所へ相談する。伝える内容は、発症者と同席者の人数、食事の場所と日時、各人の発症時刻、主な症状、受診状況、食品残品の有無である。厚生労働省の「保健所所管区域案内」から、都道府県別に地域を所管する保健所の一覧へ進める。
保健所へ相談しただけで原因食品が確定するわけではない。保健所は医療情報、喫食状況、検査、施設調査を合わせて判断する。残品がない場合や二人だけの場合も、相談前に家庭で原因を決める必要はない。
吐物と便は広げずに処理
嘔吐や下痢は、食品を介した食中毒のほか、人から人へ広がる感染性胃腸炎でも起きる。原因が分からない初期は、症状のある人を調理から外し、トイレの後、調理・食事の前、吐物や便を処理した後に石けんと流水で手を洗う。厚生労働省のノロウイルスQ&Aは、手指消毒用エタノールを石けんと流水による手洗いの代用にせず、下痢や嘔吐がある人を食品へ直接触れる作業から外すよう示している。
厚生労働省は、床の吐物や便を処理する人が使い捨てのエプロン、マスク、手袋を着け、ペーパータオルで静かに拭き取り、使用物を袋へ密閉して廃棄し、汚染箇所を消毒する手順を示している。次亜塩素酸ナトリウムには金属腐食性がある。製品の使用上の注意を確認し、処理後は水拭きする。
家庭の初動を5項目で確認
- 救急:全員の意識、呼吸、飲水、排尿、腹痛、便を確認し、119番の兆候がある人を先に対応する。
- 記録:一人ずつ数日分の食事、発症時刻、症状の変化、受診状況を書く。
- 保管:食品残品、包装、ラベル、レシート、注文履歴を捨てず、味見をしない。
- 相談:似た症状が複数人に出たら、受診と並行して地域の保健所へ連絡する。
- 感染対策:患者を調理から外し、石けんと流水で手を洗い、吐物と便を広げずに処理する。
よくある質問
二人だけの下痢でも保健所へ相談するのか
食事が原因と疑われるなら人数だけで見送らず、食事と発症の記録をそろえて地域の保健所へ相談する。調査や検査の要否は保健所が判断する。
残った料理は冷凍した方がよいのか
自治体資料には原因と思われる食品をそのまま冷蔵する案内があるが、冷凍の可否を示す全国一律の家庭向け公的ルールは確認できていない。食べ直さずに冷蔵し、早めに地域の保健所へ扱いを確認する。
最初に発症した人が食べた料理を原因とみてよいのか
発症順は調査の一材料にとどまる。原因ごとに潜伏時間が違い、人から人へ広がる場合もあるため、数日分の食事と同席者全員の経過を記録する。
市販の下痢止めを先に使うのか
農林水産省は、食中毒が疑われる時に自己判断で薬を飲まず、医師の診察を受けるよう案内している。血便、発熱、腹痛、持病、常用薬を伝え、薬の使用は医師または薬剤師へ確認する。
出典・参考資料
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)成人、子ども、高齢者で救急車を呼ぶ目安となる症状
- 救急安心センター事業(♯7119)ってナニ?(総務省消防庁)救急相談の役割と実施地域、対象年齢、受付時間
- 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版、2023年10月一部修正)(こども家庭庁)乳幼児の下痢・嘔吐で至急受診を考える兆候と少量頻回の補水
- 食中毒かな?と思ったら(農林水産省)受診、資料の保管、重症化しやすい人、家庭内感染対策
- 食中毒とは(東京都足立区)疑わしい食品の冷蔵、レシートと包装の保管、保健所への連絡
- 食中毒になるとしたら、何時間後くらいに具合が悪くなるのですか?(東京都保健医療局)原因ごとに異なる潜伏期間と、同じ原因でも生じる個人差
- 体の具合が悪くなったとき、食事が原因と思われる場合は、どうしたらよいですか?(東京都保健医療局)保健所への相談、数日間の喫食状況の聞き取り、食品残品の検査
- 保健所所管区域案内(厚生労働省)都道府県別の保健所所管区域一覧
- ノロウイルスに関するQ&A(厚生労働省)石けんと流水による手洗い、調理の回避、吐物・便の処理と環境消毒
- 経口補水液について(消費者庁)感染性胃腸炎に伴う脱水時の用途と食事制限がある人の注意