推算糸球体濾過量(estimated Glomerular Filtration Rate、eGFR)は、腎臓が血液をろ過する能力を血清クレアチニンなどから見積もった値だ。健診結果に低値が記されていても、それだけで慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease、CKD)の診断や「腎機能が何%残ったか」が確定するわけではない。
厚生労働省は、eGFRの低下または尿検査の異常を健診で指摘された人に、診療所や病院の受診を勧めている。結果票を過去の数値、尿蛋白、服用薬と合わせて医療機関へ持参し、急性の変化か、持続する異常かを確認する。
119番を急ぐ症状──数値より全身状態を優先
eGFRの数字を見て救急性を自己判定しない。急に息が苦しくなって普通に話せない、唇や顔色が明らかに悪い、冷や汗が出る、呼びかけへの反応がおかしい場合は119番を急ぐ。総務省消防庁の緊急度判定プロトコルは、発声、顔色・冷や汗、呼びかけへの反応の異常を119番転送につなげる項目としている。
1日の尿量が400mL以下になった状態を乏尿、100mL以下を無尿と呼ぶ。尿がほとんど出ない状態、尿量の急減、押した跡が残るむくみ、息切れがある場合は、その日のうちに医療機関へ連絡する。日本腎臓学会は、尿量の異常が続く場合は腎臓病が隠れている可能性があるとして、早めの受診を案内している。救急車を呼ぶか迷う場合は、実施地域の救急安心センター「#7119」で医師、看護師、救急救命士に相談でき、緊急性が高ければ119番通報への転送やかけ直しの案内を受ける。
日本のeGFR──クレアチニンを年齢と性別で補正
血清クレアチニンは筋肉で生じ、腎臓でろ過されて尿へ出る。腎機能が低下すると血中濃度は上がるが、同じ値でも年齢や筋肉量によって意味が変わる。日本の成人健診で使うeGFRは、日本人向けの式で血清クレアチニン、年齢、性別を組み合わせ、体表面積1.73m²当たりのmL/分として算出する。海外の研究やウェブ計算機と健診票で式が異なる場合があるため、結果を単純比較しない。
日本腎臓学会は、筋肉量が極端に少ない人では血清クレアチニンが腎機能を正確に示さない場合があり、シスタチンCを使った推算値を検討すると説明している。高齢者、長期臥床中の人、筋肉量が大きく減った人では、結果票のeGFRだけを基に自己判断しない。
G1〜G5──尿所見と二つの軸で読む
日本腎臓学会の「CKD診療ガイドライン2023」は、GFR区分をG1が90以上、G2が60〜89、G3aが45〜59、G3bが30〜44、G4が15〜29、G5が15未満とし、蛋白尿区分A1〜A3と組み合わせて重症度を評価している。単位はいずれもmL/分/1.73m²だ。
G1やG2は、腎障害を示す尿所見、画像所見、病歴などがなければ、それだけでCKDには当たらない。反対にeGFRが90以上でも、蛋白尿や血尿が続けば精査の対象になる。尿試験紙の蛋白、尿蛋白・クレアチニン比、尿アルブミン・クレアチニン比(ACR)は同じ検査ではなく、原疾患や診療場面に応じて医師が選ぶ。
1回の低値──再検査は必要、3カ月待つ意味ではない
KDIGOの2024年指針は、CKDを3カ月以上続く腎臓の構造または機能の異常と定義し、偶然見つかった低eGFR、血尿、高ACRは再検査で確認するとしている。単回の異常だけで慢性と決めない一方、急性腎障害の可能性もあるため、3カ月間受診せず待つという意味ではない。再検査の時期は、数値の程度、以前の結果、体調、薬剤、尿所見から医師が決める。
過去の健診結果があれば、今回の値との差と変化の速さが判断材料になる。日本腎臓学会の紹介基準では、G3b以下は蛋白尿区分を問わず腎臓専門医への紹介対象だ。G3aは年齢と蛋白尿区分で扱いが変わり、3カ月以内に腎機能が30%以上悪化した場合は速やかな紹介対象になる。紹介表は自己診断用の境界ではなく、かかりつけ医と専門医が連携するための基準だ。
鎮痛薬と常用薬──自己判断で中止もしない
非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs、NSAIDs)は、腎血流を変えて急性腎障害を起こす場合がある。厚生労働省の高齢者向け医薬品適正使用指針は、NSAIDsによる腎機能低下に注意し、貼付薬と内服薬、市販の総合感冒薬などを含む重複使用でも有害事象が起こりうるとしている。健診でeGFR低下を指摘された人は、処方薬、市販薬、サプリメントの一覧を医師または薬剤師に示す。
「鎮痛薬はすべて中止」と一括して決めるのも危険だ。持病の治療薬には、急な中止で病状が悪化するものがある。服用の継続、中止、代替薬は、脱水の有無、腎機能、併用薬を確認した医師が判断する。腎機能を回復させると標榜する健康食品を、再検査や治療の代わりにしない。
血圧・血糖と食事──結果を診療につなげる
高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、加齢はCKDの主なリスク因子だ。血圧や血糖の治療を自己判断で変えず、健診結果を主治医へ共有する。食塩、たんぱく質、カリウムなどの調整は、CKDの原因、GFR区分、尿蛋白、栄養状態で変わる。腎機能低下を理由に一律の低たんぱく食へ切り替えず、必要量の考え方は年齢・運動・腎機能で変わる日本のたんぱく質摂取目安も参照できる。
日本国内で、健診のeGFR異常を指摘された後に再検査や受診へつながった割合を示す最新の公的な全国統計は、本稿の執筆時点で確認できていない。制度の到達度は断定せず、個人では結果票を保管し、前年値と尿検査を含めて診察へつなぐことが現実的だ。
妊娠中、小児、持病や常用薬がある人
妊娠中は血液循環と腎機能が変化し、通常の成人用eGFRが真のGFRを正確に反映しない場合がある。小児には年齢と体格に応じた別の推算方法がある。妊娠中または妊娠を希望する人、小児、腎疾患・糖尿病・心不全のある人、利尿薬や降圧薬などを常用する人は、成人一般の区分を自己判断で当てはめず、主治医へ確認する。
よくある質問
eGFRが60未満ならCKDなのか
1回の値だけでは決まらない。CKDには3カ月以上の持続を確認する必要があるが、急性腎障害を見逃さないため、まず受診する。尿所見、過去の結果、薬剤、体調を合わせて評価を受ける。
eGFRが90以上なら腎臓に問題はないのか
断定できない。G1またはG2でも蛋白尿、血尿、画像上の異常などが続けばCKDに該当しうる。eGFRと尿検査の両方を見る。
クレアチニンが基準範囲なら安心なのか
筋肉量が少ない人では、腎機能が低下してもクレアチニンが高くなりにくい場合がある。年齢と性別を反映したeGFRを確認し、必要なら医師がシスタチンCなど別の評価を検討する。
鎮痛薬を今すぐやめるべきか
自己判断で一律に中止しない。処方薬と市販薬の製品名、使用頻度、サプリメントを一覧にして、医師または薬剤師へ示す。尿が急に減った、むくみや息苦しさが出た場合は早急に受診する。
出典・参考資料
- 広報誌「厚生労働」2025年3月号 知っておきたい腎臓病(厚生労働省)eGFRと尿蛋白の意味、健診で異常を指摘された場合の受診勧奨
- 平成30年度以降における特定健康診査及び特定保健指導の実施並びに健診実施機関等により作成された記録の取扱いについて(厚生労働省)日本の成人健診で用いる血清クレアチニンによるeGFR推算式
- 腎臓検診でわかること(日本腎臓学会)血清クレアチニン、eGFR、尿検査の役割と筋肉量による限界
- 腎臓がわるくなったときの症状(日本腎臓学会)乏尿、むくみ、息切れなど腎機能低下時の症状
- エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023(日本腎臓学会)CKD重症度分類と腎臓専門医への紹介基準
- KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease(KDIGO)CKDの定義、慢性経過の確認、偶然見つかった低eGFRの再検査
- 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)(厚生労働省)NSAIDsによる腎機能低下と一般用医薬品を含む重複使用への注意
- 緊急度判定プロトコルVer.3 電話相談(総務省消防庁)呼吸、循環、意識の異常に対する119番転送の基準
- 救急安心センター事業(#7119)ってナニ?(総務省消防庁)救急車を呼ぶか迷う場合の電話相談と実施地域情報