代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease、MASLD)は、肝臓への脂肪蓄積に、肥満、血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールのいずれかの心代謝系危険因子が重なる病態だ。体格が標準範囲でも発症し、初期には自覚症状がほとんどない。健診の肝機能値と体重だけで「脂肪肝ではない」と判断せず、画像での脂肪蓄積と線維化の程度を分けて評価する必要がある。
MASLDという病名が示す代謝リスク
以前の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、多量飲酒などを除外して診断する名称だった。MASLDは、脂肪蓄積と心代謝系の異常を組み合わせて捉える。日本消化器病学会と日本肝臓学会は2023年にMASLDの病名と分類を採用し、2026年には日本でも国際基準に準拠した5項目の心代謝系危険因子を使う方針を示した。飲酒量の確認や、ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害など別の原因を調べる工程は引き続き欠かせない。
肥満は主要な危険因子だが、診断の必要条件ではない。日本消化器病学会の一般向け資料は、MASLDは太っていない人にも起こり、初期は症状に乏しく、採血や超音波検査で見つかると説明している。体重が正常でも、糖尿病、高血圧、脂質異常症がある人や、画像検査で脂肪肝を指摘された人は評価の対象になる。
吐血・黒い便・意識障害は119番
MASLDは初期に症状が乏しい。ただし、血を吐く、真っ黒い便が出る、意識がはっきりしない、急な呼吸困難や激しい腹痛がある場合は、脂肪肝の経過観察より救命対応が先になる。厚生労働省は、吐血や血便・黒色便、意識障害などを救急車の要請が必要な症状として挙げている。
正常なAST・ALTだけでは除外できない
AST(GOT)とALT(GPT)は肝細胞の傷害を反映するが、肝臓にたまった脂肪の量や線維化を直接測る検査ではない。米国肝臓学会(AASLD)の診療指針は、進行した代謝機能障害関連脂肪肝炎(Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis、MASH)でもアミノトランスフェラーゼ値が正常な場合があり、正常値だけで臨床的に意味のある線維化を除外してはならないとしている。反対に、ASTやALTが高い原因も脂肪肝とは限らない。
腹部超音波検査は脂肪蓄積を見つける手掛かりになるが、軽い脂肪化を拾えない場合があり、線維化の段階も通常の超音波だけでは決まらない。診療では年齢、AST、ALT、血小板数から算出するFIB-4 indexや、肝臓の硬さを測るエラストグラフィなどを組み合わせる。検査の選択と結果の解釈は医師が行い、数値一つで自己診断しない。
やせ型でも「軽い脂肪肝」とは限らない
84研究をまとめた系統的レビューでは、一般人口に占めるやせ型NAFLDは5.1%、NAFLD患者のうちやせ型は19.2%で、健康なやせ型の対照群より内臓脂肪やインスリン抵抗性が大きく、PNPLA3遺伝子多型との関連も報告された。この推計は旧NAFLD基準による複数国の研究を統合した値で、日本の現在の有病率へそのまま置き換えられない。
予後も体重だけでは決まらない。英国と中国の3前向きコホートを統合した2026年の研究は、やせ型MASLDで非やせ型より肝関連イベントが多い関連を示し、調整後ハザード比を2.14、肝関連死亡を2.31と報告した。これは観察研究の相対リスクであり、個人の絶対リスクや因果関係を示さない。日本人のやせ型MASLDについて、全国を代表する有病率と長期予後を同時に示す公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。
改善の軸は食事・運動と基礎疾患の管理
MASLD全体に一律に使う薬が治療の出発点になるわけではない。肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧があれば、それぞれを医師の判断で治療し、食事と身体活動を組み合わせる。サプリメントや「肝臓に良い」と表示された食品を、診断や治療の代わりにしない。
日本肝臓学会の肝臓リハビリテーション指針は、7%以上の体重減少で脂肪化や炎症の改善、10%以上で線維化の改善が示され、30〜60分の有酸素運動を週3〜4回続けた研究では体重減少がなくても肝脂肪化が改善したとまとめている。これらは研究集団の目安であり、「10%減れば線維化が必ず元に戻る」という保証ではない。運動の種類と強度は、心肺機能、関節の状態、治療中の病気に合わせる。
欧州肝臓学会(EASL)・欧州糖尿病学会(EASD)・欧州肥満学会(EASO)の2024年診療指針は、過体重の成人では5%以上で肝脂肪、7〜10%で炎症、10%以上で線維化の改善を目標とし、中等度の身体活動を週150分超、食事は地中海食に近い質へ整えて加糖飲料を避けるよう推奨している。一方、正常体重の成人では、食事や運動が肝組織、線維化、長期予後を改善する証拠が足りないとも明記する。やせ型の人が同じ減量率を自己目標にする根拠はない。
子ども・妊婦・持病がある人は個別に確認
成長期の子ども、妊婦、高齢者、腎臓病や心疾患がある人、糖尿病治療中の人、常用薬がある人には、成人一般の減量率や運動量をそのまま当てはめない。必要なエネルギー量、運動の安全域、薬の調整が異なるため、主治医や管理栄養士と目標を決める。正常体重で筋肉量が少ない人も、体重を落とすより筋肉を保ちながら代謝異常を管理する方針が適する場合がある。
受診時に確認する三つの点
健診で脂肪肝や肝機能異常を指摘されたら、第一に飲酒量、服薬・サプリメント、ウイルス性肝炎を含む別の原因を確認する。第二に糖尿病、血圧、脂質、腹囲など心代謝系の危険因子を調べる。第三にFIB-4 indexやエラストグラフィなどで線維化リスクを評価する。改善の判定も体重やAST・ALTだけに頼らず、代謝指標と線維化評価を含めて医師と追跡する。
よくある質問
体重が正常なら減量は不要なのか
一律の減量目標は置けない。正常体重のMASLDでは、肥満者と同じ7〜10%減量が長期予後を改善する根拠が足りない。食事の質、身体活動、血糖・血圧・脂質、筋肉量を含めて個別に目標を決める。
ASTとALTが正常なら超音波検査は不要なのか
正常値だけではMASLDや進行線維化を除外できない。糖尿病などの代謝リスク、過去の画像所見、血小板数を含む検査結果を医師がまとめて判断する。
脂肪肝は元に戻るのか
食事、運動、基礎疾患の管理により、肝脂肪や炎症、線維化が改善した研究はある。ただし進行度と個人差があり、固定した減量率で全員の線維化が改善するとは限らない。
「護肝」サプリメントで治療できるのか
サプリメントをMASLDの診断や標準治療の代わりにはできない。使用中の製品があれば、成分名と摂取量を受診時に伝え、継続の可否を医師へ確認する。
出典・参考資料
- 脂肪性肝疾患の診断基準に関して(日本消化器病学会)日本で用いるMASLDの心代謝系危険因子と、国際基準に準拠する方針
- 健康情報誌「消化器のひろば」No.27-3 MASLD(日本消化器病学会)やせ型脂肪肝、検査、進行、生活習慣改善を一般向けに解説
- AASLD Practice Guidance on the clinical assessment and management of nonalcoholic fatty liver disease(AASLD)正常なアミノトランスフェラーゼ値だけでは進行線維化を除外できないとする診療指針
- Prevalence and Profile of Nonalcoholic Fatty Liver Disease in Lean Adults(Hepatology Communications)やせ型NAFLDの有病率と代謝・遺伝的特徴をまとめた系統的レビュー・メタ解析
- Long-term prognosis of lean MASLD: evidence from three population-based prospective cohorts(Gut)やせ型MASLDと肝関連イベント・死亡との関連を調べた3前向きコホートの統合解析
- 脂肪性肝疾患患者に対する肝臓リハビリテーション指針(日本肝臓学会)減量目標と有酸素運動・レジスタンス運動に関する解説
- EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines on the Management of MASLD(EASL・EASD・EASO)体重別の生活介入、食事、運動の推奨と根拠の限界
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)吐血、黒い便、意識障害など救急車を呼ぶべき症状