AST/ALT比は、血液検査のAST値をALT値で割った数値だ。肝障害の型を考える手掛かりにはなるが、病名を示す判定値ではない。ASTが40U/LでALTが20U/Lなら比は2、ASTが400U/LでALTが200U/Lでも比は2になる。最初に見るのは、二つの値が検査票の基準上限をどれだけ超えたか、過去からどう動いたかである。

日本肝臓学会の「奈良宣言2023」は、健診などでALTが30U/Lを超えた場合、まずかかりつけ医などを受診し、採血や腹部超音波検査を受け、必要なら消化器内科で詳しく調べるよう勧めている。30U/Lは受診につなげる目安で、脂肪肝など特定の病名を決める境界ではない。比が低いか高いかにかかわらず、ALTがこの目安を超えた健診結果は放置しない。

意識障害・吐血・黒い便は119番

ASTやALTの高値だけで救急車の要否は決まらない。ただし、意識がはっきりしない、血を吐く、血便や真っ黒い便が出る、突然の激しい腹痛または激しい腹痛が続く、急な息切れや呼吸困難がある場合は119番を急ぐ。厚生労働省は、これらを成人がすぐに救急車を呼ぶ症状として挙げている。次の健診や予約済みの再診を待つ場面ではない。

比より先に原値と基準上限を確認

米国消化器病学会(ACG)の2017年指針は、AST・ALTの上昇幅がその後の評価を左右し、異常を確認するための再検査や補助検査を先に行うとしている。ASTとALTは肝胆道系の障害を示す間接的な指標であり、肝臓の合成能力そのものを測る検査ではない。ビリルビン、アルブミン、血小板、プロトロンビン時間などは別の情報を担う。

厚生労働省の健康手帳は、AST(GOT)は心臓・筋肉・肝臓に多く、ALT(GPT)は肝臓に多く存在する酵素だと説明している。ACG指針も、骨格筋損傷、激しい運動、溶血などをAST・ALT上昇の肝臓以外の原因に挙げる。採血前の強い運動や筋肉痛があれば、飲酒、発熱や感染、処方薬、市販薬、漢方薬、サプリメントとともに受診時に伝える。

三つの組み合わせ──病名ではなく鑑別の入口

ALTがASTを上回る型は、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease、MASLD)やウイルス性肝炎、薬剤性肝障害などでみられる。ALT優位という形だけで脂肪肝とは決まらない。体重、腹囲、血糖、脂質、血圧、飲酒歴、服薬歴を確認し、医師が必要な血液検査や画像検査を選ぶ。

ASTがALTを上回る型では、飲酒による肝障害が鑑別に入るが、比が2を超えたという一事で診断はつかない。ACGの2024年指針が示すアルコール関連肝炎の臨床条件は、AST/ALT比1.5超に加え、直近に始まった黄疸、長期の多量飲酒、ビリルビン3mg/dL超、AST 50〜400U/L、別の急性肝炎原因がないことを組み合わせている。比だけを見て飲酒量を減らせば解決すると判断するのは危険だ。

ASTとALTがともに基準範囲でも、脂肪性肝疾患の進行した線維化を一律には除外できない。米国肝臓病学会(AASLD)の2023年指針は、進行した脂肪性肝疾患でもアミノトランスフェラーゼ値が正常な場合があり、臨床的に意味のある線維化を単独で除外する検査にはならないとしている。既に肝疾患を指摘された人や代謝リスクがある人は、一度の正常値を理由に予定された定期受診を中断しない。

再診でそろえる情報──過去値と検査条件

健診票は今回分に加え、過去分があればまとめて持参する。各回のAST、ALT、検査室の基準上限、ビリルビン、アルブミン、ALP、γ-GT、血小板、凝固検査の結果を並べると、単発の比率より変化を追いやすい。腹部超音波、B型・C型肝炎検査の結果も手元にあれば添える。

生活と薬の情報は、直近の飲酒量と頻度、処方薬、市販薬、漢方薬、サプリメントの商品名、発熱や感染、強い運動、転倒や筋損傷を時系列で整理する。ACG指針は、肝細胞障害型の評価でウイルス性肝炎、脂肪性肝疾患、飲酒、薬剤、自己免疫性肝炎など複数の原因を検討するとしている。検査項目は病歴と結果に応じて医師が決めるため、一覧を自己診断のチェック表には使わない。

小児・妊娠中・持病や常用薬がある人

「ALTが30U/Lを超えた場合」という受診目安は、一般的な健診を受ける成人への日本肝臓学会の案内である。小児、妊娠中・産後の人には成人の比率や目安をそのまま当てはめず、検査票の基準範囲と症状を医師に確認する。B型・C型肝炎などの慢性肝疾患、筋疾患、心疾患がある人や常用薬がある人も、既往歴と過去値を把握する担当医に相談する。

よくある質問

AST/ALT比が2を超えたらアルコール関連肝疾患なのか
比だけでは診断できない。アルコール関連肝炎の臨床条件には、黄疸、飲酒歴、ビリルビン値、ASTの範囲、別の原因の除外が含まれる。

ALTがASTより高ければ脂肪肝なのか
一つの候補にはなるが、ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害、自己免疫性肝炎などでもAST・ALTは上がる。病歴、ほかの血液検査、必要に応じた画像検査で絞る。

激しい運動はASTに影響するのか
影響しうる。骨格筋損傷や激しい運動はAST・ALT上昇の肝臓以外の原因に含まれるため、採血前の運動内容と筋肉痛を受診時に伝える。

AST/ALT比が高くなければ再診しなくてよいのか
比だけで健診後の受診先を決める日本の全国共通基準は、本稿の執筆時点で確認できていない。ASTまたはALTが検査票の上限を超えた、ALTが30U/Lを超えた、異常が続く、医療機関で経過観察中といった場合は、比にかかわらず医師の指示に沿って再診する。