米国務省の南・中央アジア担当高官S・ポール・カプール氏は2026年8月5日から、インド、ウズベキスタン、キルギス、カザフスタンを巡る日程に入ったとインドメディアが報じた。協議の柱は貿易、投資、供給網の強靱化である。米国が中央アジア5カ国と続けてきた外交枠組み「C5+1」は、重要鉱物の地質情報を投資と調達につなぐ段階へ移っている。

C5+1──2015年発足の枠組みに鉱物対話

C5+1は、米国とカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンが共通課題を協議する外交枠組みだ。The Astana Timesは、枠組みが2015年に始まり、2024年2月8日にC5+1重要鉱物対話(Critical Minerals Dialogue)の初会合が開かれたと伝えている

鉱物対話の設置は2023年9月の首脳会合で合意された。日本貿易振興機構(JETRO)は、中央アジアの重要鉱物をめぐる情報交換と米国・5カ国間の官民交流を深め、投資を促すことが対話の目的だと整理している。従来の政治、安全保障、経済協力に、鉱山開発と供給網という具体的な産業政策が加わった形だ。

地質調査で採取された鉱石標本の接写(イメージ)
投資判断には、鉱物の存在を示す情報から国際基準に沿った地質データへ精度を上げる作業が要る。(イメージ/Photo by USGS on Unsplash)

アスタナ会合で示された地質情報

2026年6月10日にカザフスタンの首都アスタナで開かれた会合では、各国政府代表が探鉱計画を説明した。会合を報じたThe Astana Timesによると、キルギスは22種類の重要鉱物を特定し、タジキスタンは約800の鉱床を把握してうち約100を開発中だと説明した。ウズベキスタンは国土の約40%で地質調査を終え、2027年までに50万メートル超を追加掘削する計画を示した

ただし、これらは各国政府代表が会合で示した数字であり、国際基準に基づく可採埋蔵量を第三者が認証した一覧ではない。鉱物が確認された地点の数と、採算が合う埋蔵量は同じではない。米商務省のデービッド・フォーゲル次官補も同会合で、デジタル化され、利用しやすく、質の高い地質データが投資判断を左右すると説明した。

供給網になるまでに残る距離

地質情報が整っても、探鉱から採掘、選鉱、製錬、輸送、長期購入契約へ進むには資金と年単位の時間がかかる。内陸国が多い中央アジアでは、輸送路と通関も採算を左右する。C5+1の会合や協力覚書は投資の入口であり、米国向けの供給開始を保証する契約ではない。

カプール氏の歴訪にインドが含まれることは、米国務省の担当範囲が南アジアと中央アジアをまたぐ事情とも重なる。だが、一つの出張日程だけを根拠に、インドと中央アジアを単一の鉱物供給網として結ぶ政策が決まったとは判断できない。インドでの協議内容と中央アジアでの案件を分けて確認する必要がある。

港に停泊しコンテナを積み下ろす貨物船(イメージ)
鉱山開発が進んでも、製錬能力と国境を越える輸送路が整わなければ供給網は完成しない。(イメージ/Photo by Venti Views on Unsplash)

日本も「中央アジア+日本」で並行協力

中央アジアの鉱物資源をめぐる外交は米国だけの動きではない。日本は「中央アジア+日本」対話を持ち、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が資源国との共同調査を担う。JOGMECは2025年12月、カザフスタン国営企業Tau-Ken Samrukとの金属鉱物資源協力覚書と、ウズベキスタン南テンシャンベルトでのレアメタル共同広域調査に関する覚書を公表した。タジキスタンとも金属分野の協力を協議している。

日本企業にとっても、調達先の分散は自動車、蓄電池、半導体などの生産に関わる。ただし、日本政府の公開資料からは、米国のC5+1重要鉱物案件に日本企業が参加した事例や、日本政府による資金拠出は本稿の執筆時点で確認できていない。米国と日本の枠組みは目的が重なる一方、現段階では別々に進む取り組みとして見るのが妥当だ。

よくある質問

C5+1の「5」はどの国を指すのか
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア5カ国を指す。「+1」は米国である。

重要鉱物対話は鉱山開発の契約なのか
契約そのものではない。地質情報、投資環境、供給網、環境・社会面の基準を政府間で協議する場だ。個別鉱山の開発には探鉱結果、事業性評価、許認可、資金調達、購入契約が別途必要になる。

日本は中央アジアの鉱物開発に関わっているのか
JOGMECはカザフスタン国営企業との協力や、ウズベキスタンでの共同広域調査を公表している。ただし、覚書の締結と商業生産の開始は別の段階だ。