高齢者が転倒などで頭を打った時は、観察を何時間続けるかより先に、救急要請が必要な兆候を確認する。直後に普段どおり会話できても、それだけで頭蓋内の損傷は否定できない。

家庭で経過をみるのは、医療機関から帰宅を認められた場合や、救急相談で自宅観察と案内された場合の段階だ。抗凝固薬や抗血小板薬を使っている、意識を失った、受傷前後を覚えていないといった時は、症状が目立たなくても先に医療者へ相談する。

まず119番を呼ぶ兆候

呼びかけに反応しない、普段どおりに話せない、呼吸がおかしい場合は直ちに119番へ連絡する。頭を打った後に意識を失った、吐き気や嘔吐がある、手足に力が入らない・しびれる、受傷時の記憶がない、反応が悪くなった、物が見えにくい・二重に見える、頭痛が強くなる、ふらつく、意識がもうろうとする、けいれんが起きた場合も同じだ。総務省消防庁の「救急受診ガイド2014年版」は、これらを成人の頭部外傷で119番を選ぶ判定項目に挙げている

救急車を待つ間は、転倒した時刻と場所、ぶつけた部位、意識や症状の変化、行った手当を整理する。保険証、診察券、お薬手帳、普段使っている薬も用意する。消防庁の同ガイドは、事故の状況、救急隊到着までの変化、持病、常用薬、かかりつけ医を救急隊へ伝える情報として示している。

抗凝固薬・抗血小板薬は先に受診相談

血液を固まりにくくする抗凝固薬や抗血小板薬を使う人は、外見上の腫れや傷が小さいことを理由に自宅観察へ移らない。英国NHSの2025年更新資料は、頭部外傷後に血液が固まりにくい病気がある人や、血液を固まりにくくする薬を使う人を緊急相談の対象としている。薬名、最後に服用した時刻、処方理由を伝え、119番の兆候がなければ受診先や救急相談に判断を仰ぐ。

出血が心配でも、処方薬の休薬や再開を家庭で決めない。薬を止めるか、画像検査や院内観察が要るかは、受傷状況、診察所見、薬の種類と処方目的を踏まえて医師が判断する。

帰宅後24時間──見守りと睡眠

ここからの手順は、医療機関や相談窓口が帰宅後の観察でよいと判断した場合に限る。NHSは、軽い頭部外傷で帰宅した人には少なくとも最初の24時間は成人が付き添い、疲れている人を眠らせずにおく必要はないと案内している。受診先から定時に起こす指示や再受診の条件が出た場合は、その個別指示を優先する。

見守る人は、起きている時間の会話、歩き方、両手足の動き、見え方、頭痛、吐き気、食事や水分の取り方、普段との違いを時刻とともに残す。認知症や難聴がある人は、一般的な質問への正答より、家族や介護職が知る受傷前の状態から変わったかを比べる。眠気が強まり、普段なら起きている時間に目を開けていられない、反応が悪い、呼吸がおかしい場合は119番へ切り替える。

日本国内では、高齢者を帰宅後に何時間ごとに起こすかを全国一律に定めた最新の公的資料を、本稿の執筆時点で確認できていない。確認間隔を家庭で固定せず、受診先の退院説明に時刻の指定があるかを確かめる。

家族が残す観察記録

  • 受傷状況:日付と時刻、場所、転倒の原因、階段や段差の有無、ぶつけた頭の部位。
  • 直後の状態:意識消失、記憶の欠落、嘔吐、頭痛、けいれん、傷や出血の有無。
  • 神経症状:会話、見え方、左右の手足の動きとしびれ、歩き方、普段と異なる行動。
  • 薬と持病:処方薬と市販薬の名称、最後の服用時刻、抗凝固薬・抗血小板薬の有無、お薬手帳。
  • 時間経過:誰が何時に確認したか、新しい症状が出た時刻、強くなったか弱くなったか。
  • 医療者の指示:相談先と受診時刻、画像検査の結果、帰宅後の注意、再受診の条件。

「いつもと違う」だけで終わらせず、歩く速さ、返答までの時間、食事量など、受傷前と比べられる事実を添える。記録は診断の代わりではなく、医療者が変化の順序を把握する材料になる。

1〜2カ月後に表れる慢性硬膜下血腫

最初の24時間を過ぎても観察が完全に終わるわけではない。国立長寿医療研究センターは、慢性硬膜下血腫を頭部打撲の1〜2カ月後に頭蓋骨と脳の間へ血液がたまる病気と説明し、脳が萎縮した高齢者に多いとしている

同センターの認知症Q&Aは、歩行障害、手足の麻痺、ぼんやりした様子、思考力の低下がゆっくり表れ、頭を打ってから数カ月かかる場合もあると説明している。新しく転びやすくなった、片側の手足が動かしにくい、返答が遅い、日中の眠気が増えたといった変化を、年齢や認知症だけのためと決めつけない。

こうした変化が出た時は、頭を打った日とその後の記録を医療機関へ伝える。急に歩けなくなった、片側の手足に力が入らない、会話が成立しない、けいれんが起きた場合は、受傷からの日数にかかわらず119番の対象になる。

認知症・独居・持病がある場合

認知症や意思疎通の難しさがある人。 受傷前からの歩行、会話、睡眠、食事、介助量を知る人が比較する。普段の状態が分からない人だけに見守りを任せず、変化を判断できないこと自体を受診先へ伝える。

一人暮らしの人。 帰宅後24時間の見守り役が確保できない場合は、その事情を帰宅前に医療者へ伝える。電話連絡だけを成人の付き添いと同じ扱いにせず、家族、介護職、医療機関と監督方法を決める。

持病や常用薬がある人。 抗血栓薬に限らず、処方薬、市販薬、サプリメントをお薬手帳や現物で示す。眠気、ふらつき、血圧低下など転倒の原因になりうる変化があっても、薬の増減は処方元へ相談して決める。

小児と妊娠中の人。 本稿の高齢者向け観察項目をそのまま当てはめない。頭部外傷後の症状がある場合や判断に迷う場合は、年齢と妊娠の状況を伝えて医療機関または地域の救急相談へ連絡する。

よくある質問

こぶがなければ心配ないのか
腫れの有無だけでは判断しない。消防庁の119番判定は、意識、記憶、嘔吐、頭痛、手足の動き、見え方、歩行、けいれんなどを別々に確認している。

頭を打った後に眠らせてよいのか
医療機関から帰宅を認められ、個別の覚醒指示がなければ、疲れている人を眠らせずにおく必要はない。最初の24時間は成人が付き添い、反応や呼吸の異常、起きている時間の症状悪化を見逃さない。

観察は24時間か、数カ月か
役割が異なる。最初の24時間は急な悪化を見守る期間で、慢性硬膜下血腫による歩行や認知面の変化は1〜2カ月後、または数カ月後に表れる場合がある。

抗凝固薬や抗血小板薬は止めるのか
自己判断では止めない。薬名、最後の服用時刻、処方理由を伝え、休薬や再開は診察した医師の指示に従う。

救急車を呼ぶか迷う時はどうするか
意識、呼吸、会話、手足の動きに異常があれば119番へ連絡する。明らかな119番の兆候はないが受診時期に迷う場合は、実施地域の救急安心センター♯7119を使う。総務省消防庁は、♯7119で医師、看護師、救急救命士が受診や救急要請を助言し、緊急性が高ければ119番への転送やかけ直しを案内すると説明している