紅景天(Rhodiola rosea)はサプリメントにも使われる植物で、「清冠一号」は台湾で開発された10種類の生薬からなる複方NRICM101の呼称だ。どちらも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への効果が語られてきたが、研究の段階は同じではない。紅景天には新型コロナを対象にした人体試験がなく、NRICM101には入院患者の観察研究があるものの、感染予防や死亡減少を確定する無作為化比較試験の結果は示されていない。

日本で優先されるのは、公的な予防接種制度と、症状や重症化リスクに応じた医療機関での評価だ。植物成分の前臨床研究や海外の観察研究は研究課題を示すが、ワクチンや医師が判断する治療の代わりにはならない。

先に確認する救急受診の目安

顔色が明らかに悪い、唇が紫色になっている、急に息苦しくなった、少し動くだけで息苦しい、胸の痛みがある、横になれず座らなければ息ができない、意識がおかしいといった変化があれば、119番を含む緊急対応が要る。日本感染症学会、日本救急医学会など4学会の声明は、これらを救急車の利用をためらわない症状として挙げている。草本製品を試して経過を見る場面ではない。

高熱が続く、呼吸が苦しい、食事や水分が取れない場合も、平日の日中など通常診療の時間帯に、かかりつけ医や近隣の医療機関へ早めに相談する。同声明は、65歳以上、妊娠中、免疫抑制状態、基礎疾患がある人について、症状が軽くても早めの相談を求めている。

小児・妊婦・高齢者、持病や常用薬がある人

小児と妊娠・授乳中の人に、健康な成人向けのサプリメント情報を当てはめない。高齢者、免疫機能が低下している人、心臓・肺・腎臓などの持病がある人も重症化リスクと薬の条件が異なるため、症状が出た段階で医療機関へ相談する。

常用薬がある人は、紅景天を含むサプリメントの使用を医師か薬剤師へ伝える。米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、紅景天でめまい、頭痛、不眠、口渇などが起きる場合があり、降圧薬ロサルタンとの相互作用が報告され、妊娠・授乳中の安全性はほとんど分かっていないとしている

紅景天──別のウイルスの前臨床研究まで

紅景天の根拠として引かれる2009年研究が調べたのは、新型コロナではなくコクサッキーウイルスB3である。研究者は紅景天由来成分サリドロシドを細胞系とウイルス性心筋炎のマウスモデルで評価し、抗ウイルス作用のシグナルを報告した。人への投与試験でも感染予防試験でもなく、対象ウイルスも異なる。

成分が培養細胞やマウスで働いたことと、市販の抽出物を人が飲んだときに同じ作用が得られることの間には、吸収、体内濃度、製品ごとの含有量という隔たりがある。NCCIHも、紅景天またはその成分が特定の健康目的に有用かを判断する信頼性の高い証拠は不足し、人体研究の多くは質が低度から中等度だと評価している。新型コロナの感染、入院、死亡を減らす根拠にはならない。

ウイルスの外膜と内部構造の違いを示した模式図

NRICM101──観察研究で見えた関連

NRICM101には入院患者のデータがある。2022年の多施設後ろ向き研究は、2021年5〜7月に台湾の9病院へ入院した840人を集め、傾向スコアで調整した比較ではNRICM101と通常治療を受けた151人、通常治療のみの151人を解析した。30日間にNRICM101群で挿管または集中治療室への入室はなく、対照群では14人に起きた。

差は大きいが、治療は無作為に割り付けられていない。NRICM101を希望・承諾した人の特徴、医師の選択、測定されていない持病や併用治療が結果に影響した可能性を除けない。研究時期は2021年で、現在とは流行株、ワクチン接種歴、標準治療も異なる。

別の集団では結論が弱まった。2024年の入院患者を対象とした観察研究では、NRICM101群と対照群の院内死亡率は10.4%対14.2%、挿管率は13.8%対11.0%で、いずれも統計学的な有意差がなく、著者らはNRICM101が院内死亡を減らさなかったと結論づけた。重症患者の一部で入院期間や人工呼吸器使用期間が短いという所見は、事前に定めた独立試験での再現が要る。

ClinicalTrials.govには、COVID-19またはインフルエンザ様症状がある成人を対象に、NRICM101とプラセボを比べる無作為化二重盲検第3相試験NCT06175468が登録されている。試験の登録は計画の存在を示すもので、有効性を示す結果ではない。査読済みの完全な結果が公表されるまでは、感染予防や重症化予防を裏づける材料に数えられない。

紅景天の乾燥した根と草本茶を並べた台所(イメージ)

日本の制度と現在の空白

厚生労働省は、新型コロナワクチンについて入院や死亡などの重症化を防ぐ効果が報告されていると説明し、毎年度秋冬に自治体の定期接種を実施している。一方、2026年度の対象者、日程、使用ワクチンの詳細は、本稿の執筆時点で「決まり次第案内」とされている。過年度の日程や台湾の接種制度を日本の読者へ当てはめてはならない。

清冠一号が日本の新型コロナ診療で承認薬または標準治療に位置づけられたことを示す厚生労働省・医薬品医療機器総合機構(PMDA)の資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。これは日本に存在しないという断定ではなく、国内での品質、有効性、安全性、入手経路を公的資料から確認できないという意味だ。個人輸入品や出所が分からない製品を、海外研究で使われた標準化製剤と同一視できない。

よくある質問

紅景天を毎日飲めば新型コロナを予防できるか
予防効果を示す人体試験は確認されていない。別のウイルスを使った細胞・マウス研究から、新型コロナへの効果は推定できない。副作用や薬との相互作用もある。

清冠一号は観察研究で差が出たのに、なぜ有効と決められないのか
使用者が無作為に決まっておらず、治療を受けた人の背景や併用治療が差を生んだ可能性が残るためだ。別の2024年研究では院内死亡率と挿管率に有意差がなかった。

症状が出たら草本製品を先に試してよいか
救急の警告サインがあれば119番を含む緊急対応を優先する。65歳以上、妊娠中、免疫抑制状態、基礎疾患がある人は、症状が軽くても早めに医療機関へ相談する。草本製品の使用で評価を遅らせない。

2026年度の新型コロナワクチンはいつ受けられるか
厚生労働省は毎年度秋冬の定期接種を案内しているが、2026年度の詳細は本稿執筆時点で公表していない。居住する自治体と厚生労働省の更新情報で対象、時期、費用を確認する。