高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment、CGA)は、病名や検査値に加え、日常生活動作、認知、心理、栄養、服薬、生活環境をまとめて評価し、その後の診療やケアにつなげる枠組みだ。中医学の体質質問票をCGAと組み合わせた台湾の研究が2025年に掲載されたが、示したのは二つの評価結果の関連であり、治療効果ではない。

CGAは検査項目を増やすだけの仕組みではない

日本老年医学会、国立長寿医療研究センターなどが作成した2024年ガイドラインは、CGAを身体、認知、心理、栄養、薬剤、社会・経済状況を包括的に評価し、生活状況の把握や治療法の選択、リハビリテーション、ケアへ生かす枠組みとしている。歩行や食事を一度測って終える検査ではなく、見つかった問題に応じた介入までを含む。

血圧や血糖が基準内でも、買い物や金銭管理が難しくなった、薬を飲み分けにくい、転倒が増えたという変化は残りうる。CGAはこれらを別の領域として確認し、疾患、薬の影響、栄養、住環境、支援者の有無を医療・介護の多職種で検討するために使う。

急な機能低下は評価表より119番

CGAが扱うのは高齢者の状態を総合的に捉える過程であり、救急診療の代わりではない。突然、支えなしで立てないほどふらつく、顔の片側がゆがむ、ろれつが回らない、片腕や片脚に力が入らない、急な息切れや呼吸困難がある場合は評価表を試す段階ではない。厚生労働省は、これらを成人・高齢者が迷わず119番を呼ぶ症状に挙げている

100人研究──体質分類と機能問題の「関連」

台湾の研究チームは2020年1月から2021年12月までに65歳以上の100人を登録し、CGA、身体機能検査、中医学の体質質問票を組み合わせた前向き観察研究を実施した。評価領域には抑うつ、基本的・手段的日常生活動作、栄養、認知、併存疾患、フレイル、感覚機能が含まれた。

研究では、年齢、多剤服用、Timed Up and Goテストの成績と、質問票上の非標準的な体質分類との関連が認められた。個別の領域では、基本的・手段的日常生活動作、認知、聴力、睡眠、尿失禁の問題が体質分類と関連した一方、サルコペニアとの関連は認められなかった。問題のある領域が5項目を超える人は、非標準的な体質に分類されやすかった。

高齢者総合機能評価と中医学の体質分類で扱う領域の重なりを示した図

この結果から、体質が睡眠障害や生活機能低下を引き起こしたとは判断できない。逆向きの影響や、年齢、疾患、服薬など共通する要因でも関連は生じる。研究は中薬、鍼、運動などの介入群を置かず、症状が改善したかも比較していない。

日本のCGAと体質質問票は同じ位置づけではない

日本のCGAには、領域ごとに目的の異なる評価手段がある。短いスクリーニングで問題を疑った場合に詳細な評価へ進み、結果を診療やケアへ反映する。どの尺度を選ぶかは対象者と診療場面で変わり、一枚の質問票がCGA全体を置き換えるわけではない。

一方、今回の体質分類は研究で用いたBody Constitution Questionnaireによる区分だ。日本の漢方診療で用いる証や診察方法と同一とは限らず、質問票の分類だけで疾患を診断したり、処方を選んだりする根拠にはならない。中医学の体質質問票をCGAに追加する方式が日本で標準化され、健康上の利益をもたらすと示した公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

服薬情報は漢方製剤やサプリメントも含める

厚生労働省の高齢者向け指針は、CGAで認知機能、日常生活動作、生活環境、薬剤選択の意向などを確認し、処方薬、市販薬、漢方製剤、サプリメントを含む使用薬の全体を把握する必要があるとしている。薬の数だけで機械的に判断せず、必要性、有効性、安全性、服用管理の状態を医師や薬剤師を含む多職種で検討する考え方だ。

老年症候群の該当領域数と中医学の体質分類との関連を示した棒グラフ

持病や常用薬がある高齢者では、体質分類の結果を理由に処方薬を中止したり、漢方製剤や健康食品を追加したりしない。診療時には、お薬手帳に加えて市販薬や健康食品の使用も伝える。子ども、妊婦、若年者には、高齢者を対象にした今回の結果を当てはめられない。

研究から言える範囲

この100人研究は、CGAで複数の問題が重なる人と、中医学の質問票で非標準的な体質に分類される人が重なる可能性を示した。評価の重なりを探る仮説にはなるが、体質分類を追加すると転倒、入院、要介護、生活の質が改善するかは調べていない。

日本の診療で先に確立しているのは、CGAで生活機能や認知、栄養、薬剤、社会背景を捉え、見つかった問題を具体的な診療とケアへ結びつける流れだ。中医学の体質分類を加える臨床的な価値は、日本の高齢者を含む比較研究で、患者にとって意味のある結果を確かめる必要がある。