プレフレイル(Pre-frailty)は、身体的フレイルの兆候が一部に現れた段階だ。筋力トレーニングには歩行や立ち上がりを支える効果が見込まれるが、「前段階なら元に戻る」と一律に約束する根拠はない。
プレフレイルは5項目のうち1〜2項目
日本サルコペニア・フレイル学会が示す改訂版J-CHS基準は、意図しない体重減少、疲労感、歩行速度、握力、身体活動の5項目を用い、1〜2項目に該当する状態をプレフレイル、3項目以上をフレイルとする。ここで扱うのは身体的フレイルであり、認知、心理、口腔、栄養、社会的孤立を含む高齢者の状態すべてではない。
プレフレイルとサルコペニアは同義でもない。サルコペニアは筋力低下を軸に筋肉量や身体機能を組み合わせて評価する一方、フレイルはストレスに対する回復力が落ちた状態をより広く捉える。握力や歩行速度の一度の測定だけで自己診断せず、体重減少、痛み、疾患、栄養、服薬など別の原因を含めて評価する必要がある。
突然の脱力や呼吸困難は運動より119番
徐々に歩きにくくなるフレイルと、急に起きた症状は分ける。突然、支えなしで立てないほどふらつく、顔の片側がゆがむ、ろれつが回らない、片腕や片脚に力が入らない、急な息切れや呼吸困難、胸の圧迫感が2〜3分続く場合は筋力運動を始める段階ではない。厚生労働省は、これらを成人・高齢者が迷わず119番を呼ぶ症状に挙げている。
25研究が示した効果と、前段階で残る不確かさ
2021年の系統的レビューとメタ解析は、プレサルコペニア、サルコペニア、プレフレイル、フレイルの高齢者2,267人を含む25件の無作為化比較研究を集めた。運動期間は平均約23週、範囲は10〜48週で、25研究のうち21件が週2〜3回のレジスタンストレーニングを採用した。
全対象をまとめた解析では、対照群より握力、下肢筋力、歩行速度、バランス、敏捷性、機能的筋力が改善した。ただし研究間のばらつきは大きい。プレフレイルまたはプレサルコペニアだけの部分解析では歩行速度と機能的筋力には差が認められた一方、握力、下肢筋力、バランス、敏捷性の差は統計学的に明確ではなかった。前段階の全員が訓練で正常域へ戻るとの結論にはならない。
日本の目安──筋トレ週2〜3日、多要素運動週3日以上
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に筋力トレーニングを週2〜3日、筋力・バランス・柔軟性を組み合わせた多要素な運動を週3日以上行う目安を示している。身体機能が低下した人は転倒に注意し、推奨量に届かなくても、個人差に応じて可能な活動から増やす考え方だ。
同ガイドの筋力トレーニング解説は、自分の体重を使う運動も筋トレに含め、負荷を少しずつ上げること、休息日を設けること、一律の回数ではなく個人に合う目標を決めることを求めている。週2〜3日は研究で多く使われた頻度を基にした健康づくりの方向性であり、すべての高齢者に同じ負荷や回数を指示する処方ではない。
自宅では転倒を避け、状態に合う動作を選ぶ
自宅での入口には、安定した椅子からの立ち上がりや、座った姿勢での弾力バンド運動などがある。回数を先に固定するより、椅子が動かないか、足元に物がないか、支えが必要かを確認する。片脚立ちのようにバランスを崩しうる動作は、安定した台や手すりを使い、転倒時にぶつかる物を周囲から除く。
国立長寿医療研究センターの在宅活動ガイドは、心身の状態に応じて運動メニューを選ぶ仕組みを設け、心不全などの循環器疾患、神経・筋疾患、めまい、息切れ、関節手術後、強い関節変形や痛みがある人には、健康状態と薬をかかりつけ医へ相談した上で運動を選ぶよう求めている。持病がある、常用薬がある、歩行補助具を使う、最近転倒したという人は、一般向けメニューをそのまま始めず、医師、理学療法士、健康運動指導士などと負荷を調整する。
高齢者向けの頻度や動作を子ども、妊婦へ転用しない。妊娠中や産後は妊娠経過と運動歴、小児は成長段階によって安全な運動が異なるため、それぞれの診療・保健指導の枠組みで確認する。
運動中の胸痛、めまい、強い痛みは中止
厚生労働省の安全情報は、運動中に胸痛、動悸、めまい・ふらつき、強い空腹感や震え、普段と違う強い疲れ、関節・筋肉の強い痛み、冷や汗が出た場合は直ちに運動を中止するとしている。高血圧、糖尿病、運動で悪化する整形外科の問題、睡眠薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、降圧薬、血糖降下薬などは、開始前に確認する対象である。
筋肉の張りと、関節の鋭い痛みや胸部症状を同じ「運動後の反応」として扱わない。中止後も症状が続く場合は医療機関へ相談し、突然の片側の脱力、呼吸困難、意識障害など119番の目安に当たる場合は救急要請を優先する。
評価と介入の間に残る空白
プレフレイルは早めに機能変化を捉える分類だが、それ自体が単一の原因や運動処方を示すわけではない。筋力低下の背景に疾患、低栄養、痛み、薬の影響があれば、それぞれへの対応も要る。筋トレの効果は集団の平均であり、訓練前後の握力や歩行、立ち上がりを同じ条件で追うことが、本人に合う内容かを見直す手がかりになる。
日本には自治体の通いの場や介護予防教室があるが、内容、指導体制、参加者の状態は一様ではない。これらの筋力運動が日本全体でプレフレイルからの回復や要介護移行をどの程度変えたかを示す公的な全国評価は、本稿の執筆時点で確認できていない。教室へ参加した事実や本人の実感と、比較群を置いて測った長期的な効果は分けて読む必要がある。
出典・参考資料
- フレイルとは(日本サルコペニア・フレイル学会)改訂版J-CHS基準の5項目とプレフレイル、フレイルの判定
- Benefits of Resistance Training in Early and Late Stages of Frailty and Sarcopenia: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Studies(PubMed(Talar et al.))25研究2,267人を対象としたレジスタンストレーニングのメタ解析
- 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:高齢者版(厚生労働省 e-ヘルスネット)高齢者の筋力トレーニングと多要素な運動の頻度、安全上の留意点
- 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:筋力トレーニングについて(厚生労働省 e-ヘルスネット)筋力トレーニングの定義、週2〜3日の根拠、個別性と休息
- 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:身体活動・運動を安全に行うためのポイント(厚生労働省 e-ヘルスネット)運動開始前の確認、内服薬と転倒、運動中止の症状
- 国立長寿医療研究センター 在宅活動ガイド NCGG-HEPOP(国立長寿医療研究センター)高齢者向け在宅運動の選択方法と、事前に医師へ相談する疾患・症状
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)成人・高齢者で119番通報を急ぐ具体的な症状