「ぎっくり腰」は、急に起きた強い腰痛を指す通称であり、原因を確定した診断名ではない。関節や椎間板、筋肉、腱、靱帯の損傷が考えられる一方、神経の圧迫、感染、骨折などが隠れる場合もある。

冷却と温熱は、どちらも主にその時点の痛みやこわばりを和らげる手段だ。発症後48時間は全員が冷やし、その後は温めるという固定手順を裏づける腰痛の根拠は乏しい。先に、救急受診が必要な症状がないかを確かめる。

先に確認する救急受診の兆候

腰痛と同時に両脚の痛み、しびれ、脱力が現れた、陰部や肛門の周囲で感覚が鈍い、尿が出にくい、尿や便を漏らすといった変化があれば、直ちに119番または救急外来へつなぐ。英国の公的医療サービスNHSは、両脚の神経症状、会陰部の感覚消失、排尿・排便機能の変化、重大事故後に始まった腰痛を、直ちに救急評価する兆候としている。自宅で冷却か温熱かを試す段階ではない。

安静にしても軽くならない、急速に悪化する、発熱を伴う、片脚でもしびれや筋力低下がある、尿漏れがある場合も速やかな診察が要る。日本整形外科学会は、安静で軽くならない痛み、悪化する痛み、発熱、下肢のしびれや筋力低下、尿漏れを伴う腰痛では、自己管理を続けず速やかに整形外科を受診するよう求めている

転倒や交通事故など大きな衝撃の後に始まった腰痛も、自宅で様子を見ず医療機関で評価を受ける。がんの治療歴がある、原因不明の体重減少がある、夜間も強く痛む場合は、診察時にその情報を伝える。

病院の救急外来へ続く廊下と時計(イメージ)

ぎっくり腰は一つの病名ではない

日本整形外科学会は、ぎっくり腰を急な強い腰痛の通称と位置づけ、関節や椎間板、筋肉、腱、靱帯の損傷のほか、椎間板ヘルニア、病的骨折、感染も原因になりうると説明している。重い物を持った直後に痛んだという経過だけでは、傷んだ組織まで特定できない。

このため、「捻挫なら必ず冷やす」と決めてしまうと、別の原因を見落とす。脚の症状、発熱、外傷歴、排尿・排便の変化がある場合は、冷却や温熱の反応で原因を判断しない。

冷却と温熱──目的で選び、固定順序にしない

NHSの一般向け情報は、冷却を痛みや腫れの緩和、温熱を関節のこわばりや筋けいれんの緩和に使う選択肢として並べている。いずれも布で包み、皮膚へ直接当てない。冷たさや熱さを我慢するほど効果が高まるわけではない。

軟部組織損傷の一般的な手順では、受傷直後から24〜48時間の冷却が案内されることがある。しかし腰痛は扱いが一定ではない。Gloucestershire Hospitals NHS Foundation Trustの患者向け資料は、一般の捻挫や打撲には最初の24〜48時間の冷却を示す一方、新しい腰部の筋損傷では筋けいれんによる痛みが多く、冷却より温熱が役立つ場合があると説明している

効果研究も「先に冷やす」を確定していない。Cochraneの2006年レビューは9研究、1117人を評価し、3カ月未満の腰痛への温熱には小さな短期効果を示す中等度の根拠がある一方、冷却は質の低い3研究しかなく、効果も温熱との違いも結論を出せないとした。古い少数研究に基づくため、温熱を全員へ優先する根拠にもならない。

手で持った冷却パックを下背部に当てる様子(イメージ)

自宅で試す場合の四つの線引き

警告サインがないことを先に確かめる。 排尿・排便の異常、会陰部の感覚低下、脚の脱力、発熱、重大な外傷があれば、自宅処置より受診を優先する。

冷却も温熱も布越しに使う。 皮膚の色を定期的に確認し、強いしびれ、斑点状の変色、痛みの増加が出たら外す。冷却パックや湯たんぽを当てたまま眠らない。

楽になる方を短時間の症状緩和に使う。 腫れや熱感を伴う痛みには冷却、こわばりや筋けいれんには穏やかな温熱が選択肢になる。悪化する方法は中止し、「48時間」という時刻だけを理由に切り替えない。

長く寝続けない。 警告サインがなく、医師から安静を指示されていない場合は、痛みが強まらない範囲で着替えや短い歩行などの日常動作を保つ。日本整形外科学会と日本腰痛学会の2019年版ガイドラインは、神経症状を伴わない急性腰痛では、ベッド上安静より活動性維持が疼痛、身体機能、病欠期間で優れるとして、活動性維持を弱く推奨している。これは痛みを押して運動や重量物の作業を続ける意味ではない。

冷却パックと温熱パッドを並べた様子(イメージ)

小児、妊婦、持病や常用薬がある人

小児。 成人の48時間ルールをそのまま使わない。米国小児科学会の一般向けサイトは、10歳未満の背部痛、続くか悪化する痛み、発熱や体重減少、手足を動かしにくい状態、しびれ、排尿・排便の制御低下、歩き方や姿勢の変化があれば小児科へ相談するよう示している。幼い子に冷却を使う場合は、保護者が皮膚を確認する。

妊婦。 妊娠中の強い背部痛を単なるぎっくり腰と決めない。NHSは、妊娠中の背部痛が強い場合は医師や助産師へ相談し、妊娠中期・後期の背部痛、発熱、性器出血、排尿時痛、肋骨の下の側腹部痛を伴う場合は急いで連絡するよう案内している。脚、臀部、陰部の感覚が失われた場合は救急受診が要る。

皮膚の感覚や血流に問題がある人。 冷たさや熱さを感じにくい部位では、凍傷や熱傷に気づきにくい。Gloucestershire Hospitals NHS Foundation Trustは、感覚と血流が正常な部位に限って冷却するよう示している。糖尿病性神経障害などで感覚が鈍い人は冷却や温熱を自己判断で始めず、医師へ相談する。

持病や常用薬がある人。 市販の鎮痛薬が適するかは、病歴と併用薬で変わる。妊娠・授乳中、腎臓や消化管の病気がある、抗凝固薬を含む常用薬がある場合は、成人一般の薬の選び方を当てはめず、医師または薬剤師へ確認する。処方薬の増量や中止を自己判断で行わない。

自宅で背部痛のある妊婦に家族が付き添う様子(イメージ)

よくある質問

発症直後は必ず冷やすのか
必須とは言い切れない。冷却は痛みや腫れを和らげる選択肢だが、腰痛に対する冷却の研究は少ない。筋けいれんやこわばりが中心なら、穏やかな温熱で楽になる場合もある。

48時間後は必ず温めるのか
時間だけでは決めない。冷却と温熱は症状を短期的に和らげる目的で使い、悪化する方は中止する。発熱、脚の脱力、排尿・排便の変化などがあれば、温度の選択より受診を優先する。

冷却パックを皮膚へ直接当ててよいか
直接当てない。布を挟み、皮膚の色と感覚を確認する。感覚や血流に問題がある部位では使わず、医療者へ相談する。

痛い間は横になり続けるべきか
警告サインがない神経症状を伴わない急性腰痛では、長いベッド上安静より、痛みに応じて日常動作を保つ方が推奨される。動くと急激に悪化する、脚に症状が出る場合は診察を受ける。