腕時計型の睡眠トラッカーは、眠りを脳波で直接測る装置ではない。加速度センサーが手首の動きを、光電式容積脈波(Photoplethysmography、PPG)センサーが脈拍の変化を捉え、独自のアルゴリズムが睡眠と覚醒、睡眠段階を推定する。画面に表示される「深い睡眠」や「レム睡眠」は、この間接的な推定の結果である。

2025年に公表された6機種の比較研究では、睡眠を検出する感度は全機種で9割を超えた。しかし、覚醒を見分ける特異度は最も高いApple Watch Series 8でも52.15%だった。寝床で静かに目を覚ましている時間を、機器が睡眠として数える弱点が数字に表れている。

睡眠段階を推定する二つのセンサー

Sleep Advances掲載の原論文は、加速度センサーが寝返りや姿勢の変化を、PPGセンサーが心拍数や心拍変動などを捉え、両者を組み合わせて睡眠状態を推定すると説明する。比較の基準にした終夜睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography、PSG)は、脳活動、眼球運動、筋緊張などを記録して睡眠段階を判定する

ベッド脇でスマートウォッチの睡眠記録を確認する女性(イメージ)

手首の動きと脈拍には睡眠を推定する手がかりがあるが、静かな覚醒と睡眠は動きだけでは区別しにくい。PPGの読み取りも体動、皮膚の色、組織の厚さ、周囲の光や温度の影響を受けうる。PSGと消費者向け機器は、測っている信号も判定までの経路も異なる。

6機種比較──睡眠には高感度、覚醒には低い特異度

研究には18歳以上の成人62人が参加し、内訳は男性52人、女性10人だった。参加者は睡眠検査室で一夜を過ごし、PSGと同時に2〜4機種を装着した。対象はFitbit Sense、Fitbit Charge 5、Whoop 4.0、Withings Scanwatch、Garmin Vivosmart 4、Apple Watch Series 8の6機種である。

睡眠を正しく拾う感度は91.68〜96.27%だった。一方、覚醒を正しく拾う特異度は29.39〜52.15%に下がった。睡眠段階全体がPSGとどれだけ一致したかを示すCohenのカッパ係数も0.21〜0.53の範囲だった。

機種カッパ係数感度特異度
Apple Watch Series 80.5396.27%52.15%
Fitbit Sense0.4293.33%48.80%
Fitbit Charge 50.4191.68%47.51%
Whoop 4.00.3793.58%40.13%
Withings Scanwatch0.2294.32%31.09%
Garmin Vivosmart 40.2195.92%29.39%
睡眠検査室で脳波と生理信号を確認する医療従事者(イメージ)

高い感度と低い特異度は矛盾しない。眠っている時間の多くを拾えても、途中で目を覚ました時間まで睡眠に含めれば、合計の睡眠時間は長めに出やすい。論文でも全機種が入眠後の覚醒時間を平均12.38〜47.94分少なく見積もった。Apple Watch Series 8はこの研究でカッパ係数が最も高かったが、PSGとの完全な一致を意味しない。

24研究の集計でも残った測定差

2025年のメタ解析は24研究、798人分を集計し、腕時計型の機器とPSGの間に、総睡眠時間で平均16.854分、睡眠効率で4.691ポイント、入眠潜時で2.574分、入眠後覚醒時間で13.255分の差があったと報告した。四つの差はいずれも統計的に有意だった

この集計にはFitbit、Garmin、Apple Watch、Whoopのほか、すでに販売を終えたJawboneやBasis B1も含まれる。メーカーや世代をまたいだ平均値であり、特定の現行機種が毎晩同じ幅でずれるという意味ではない。比較研究ごとに参加者、装着条件、アルゴリズムの版が異なる点も残る。

日本での承認は睡眠時無呼吸の通知に限定

消費者向けの睡眠段階表示と、疾病の兆候を知らせる承認済みプログラムは分けて考える必要がある。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は「Appleの睡眠時無呼吸の兆候の通知プログラム」を家庭用体動情報解析プログラムとして掲載し、承認番号を30600BZI00017000、初回承認日を2024年9月17日としている。この承認の対象は睡眠時無呼吸の兆候を通知する機能で、一般の睡眠段階や睡眠スコア全体を医療機器として認めたものではない。

スマートウォッチに表示された健康通知を確認する人の手元(イメージ)

国内向け添付文書によると、このプログラムは加速度計から得た手首の動きを解析し、30日間に中等度から重度の睡眠時無呼吸を示唆する呼吸の乱れが特定された場合に通知する。対象は睡眠時無呼吸と診断されたことがない18歳以上で、対応機種はApple Watch Series 9以降とUltra 2以降であり、SEは除かれる。文書は正式な診断や医学的判断の基礎に使うものではないとも明記する

つまり、同じ腕時計の画面に並んでいても、睡眠段階の推定値と睡眠時無呼吸の通知では制度上の位置づけが違う。後者の承認を根拠に、睡眠スコアや深い睡眠の分数まで医療機器と同等の精度が確認されたと読むことはできない。

診察室でスマートウォッチの記録を見ながら話す医師と患者(イメージ)

数字を読むときの三つの区別

第一は感度と特異度の区別である。「睡眠の検出率が9割超」という数字だけでは、静かな覚醒を睡眠と誤る割合は分からない。第二は総睡眠時間と睡眠段階の区別だ。合計時間の誤差が比較的小さな機種でも、深い睡眠やレム睡眠の分類まで同じ精度とは限らない。

第三は一夜の値と長期の傾向の区別になる。6機種研究の著者は、相対的にカッパ係数の高かった機種について、睡眠構造の長期的で大きな変化を追う用途には使いうると結論づけた。ただし、参加者は62人で、各機種の比較人数は20〜41人に分かれる。個々の夜の睡眠段階を精密に再現した試験ではない。

日本の一般利用者を対象に、現行の主要機種を同じ条件で横断比較した公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。製品画面の細かな数字を読む際は、どの信号を測り、何を正解として検証し、どの機能が医療機器として承認されたのかを切り分ける必要がある。

よくある質問

睡眠時間が表示されたら、その数字は正確なのか
機種と利用条件による。6機種研究では睡眠の検出感度が9割を超えたが、覚醒の特異度は29.39〜52.15%だった。静かに横になっていた時間が睡眠に含まれる余地がある。

「深い睡眠」の分数は睡眠検査と同じなのか
同じではない。スマートウォッチは手首の動きと脈拍から推定し、PSGは脳活動、眼球運動、筋緊張などを測る。6機種の睡眠段階のカッパ係数は0.21〜0.53だった。

睡眠時無呼吸の通知が承認されたなら、睡眠スコアも医療機器なのか
承認範囲は別である。PMDAが掲載するのは睡眠時無呼吸の兆候を通知する家庭用体動情報解析プログラムで、一般の睡眠段階表示や睡眠スコア全体の承認を示すものではない。