顔画像を解析する人工知能(Artificial Intelligence、AI)は、写真に写るしわ、色素、毛穴などを一定の規則で数値へ置き換える技術だ。美容鍼の施術前後を同じ条件で撮影すれば外観の変化を比べる材料にはなるが、その数値だけで治療の有効性、安全性、次回も施術を続けるべきかは決まらない。
理由は、施術を評価する臨床試験と、顔画像AIの性能を測る研究が別に行われているためだ。本稿が確認した四つの原著では、美容鍼の前後画像をAIが採点し、その出力と患者の臨床結果を同時に検証した試験はなかった。「しわを捉える性能」と「施術が患者にもたらす結果」を一つの数字にまとめる根拠は確認できない。
AI評価より先に受診を優先する症状
美容鍼の施術後に止血できない大量出血、意識障害、急な息切れや呼吸困難があれば、画像の採点や次回予約より医療処置を優先する。公益社団法人全日本鍼灸学会の「鍼灸安全対策ガイドライン2025年版」は、心停止、呼吸停止、意識障害、大量出血では応急処置と医療施設での処置を最優先するとしている。厚生労働省は、急な息切れや呼吸困難を、すぐに救急車を呼ぶ成人の症状に挙げている。
妊娠中、小児、持病や常用薬がある場合
2025年の美容鍼試験が対象にしたのは30〜59歳の女性で、小児、妊婦、男性は含まれない。これらの人へ同じ結果を移せない。全日本鍼灸学会の同ガイドラインは、妊婦への施術には安全性が不明な点が多いとし、糖尿病やステロイド服用による易感染性、出血性疾患、抗凝血治療中や抗凝血薬使用中の出血リスクにも注意を求めている。該当する人は、一般成人の画像スコアを施術の可否へ当てはめず、鍼灸師と医師に相談する必要がある。
別々の証拠──美容鍼試験と顔画像AI研究
2025年に公表された無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial、RCT)は、イランの30〜59歳の女性72人を、顔面と身体への鍼施術を週2回、6週間受ける群と待機群へ無作為に分けた。評価時点は開始時、施術後の第7週、追跡の第12週で、標準化写真を基にした審美的改善度評価尺度(Global Aesthetic Improvement Scale、GAIS)、参加者の満足度、生活の質を別々に記録した。
論文では第7週に、施術群の63.9%が安静時の眉間のしわ、72.2%が最大限に眉を寄せた時のしわで改善と評価された。一方、比較対象は偽鍼ではなく施術を待つ群で、参加者数は72人、追跡は12週までだった。論文自身も、対象者数の少なさ、性別と人種の偏り、短い追跡期間を一般化の限界に挙げている。この結果は特定の手順を評価した一試験で、顔画像AIの精度を示す数値ではない。
顔画像AIの研究が測った対象は異なる。2024年の研究は、韓国女性の顔画像を使ってしわ、色素、毛穴、赤い斑点を解析するシステムを開発し、10〜60歳の韓国女性の画像120枚で年齢に伴う特徴を調べ、AIの得点と臨床の専門家による目視評価との相関を報告した。美容鍼の施術前後、痛み、出血、満足度、生活の質は評価対象に入っていない。
三つの落とし穴
撮影条件と評価ラベルの差を施術効果と取り違える
施術前が無表情の静止画、施術後が眉を寄せた動画なら、同じ人でも入力がそろわない。照明、距離、角度、端末、表情を同じ条件にそろえ、元画像と撮影条件を残さなければ、差の原因を施術と撮影から切り分けにくい。AIの再現性を語る前に、入力の再現性を確認する必要がある。
一つの集団と一人の評価者を一般化する
韓国女性120枚の研究は、対象集団が明確な点では読める資料だが、日本の美容鍼を受ける人へ同じ相関が再現するかは示さない。年齢、性別、皮膚色、撮影機器、施術直後の発赤や内出血が開発時のデータと違えば、モデルへ入る画像の分布も変わる。
2025年の別のモデル研究は、FairFace、Openverse、Wikipediaから集めた顔画像3662枚を学習・検証・試験に分け、一人の皮膚科医が全画像へ皮膚色、色素、赤み、二種類のしわ尺度のラベルを付けた。画像の多様性を広げた設計でも、正解は一人の評価規則に依存する。同論文は美容鍼の患者や施術前後の組写真を検証しておらず、そこで得た性能を美容鍼の効果判定へ移せない。
外観の代理指標を患者の利益と同一視する
しわの面積や濃さ、色素、毛穴は写真から測る外観上の代理指標である。患者が重視する満足度、表情の自然さ、痛み、有害事象、生活の質とは評価項目が異なる。美容鍼のRCTがGAIS、満足度、生活の質を分けて記録した一方、二つの顔画像AI研究は専門家による外観評価の再現を中心に測った。
表示された「改善70%」を読むには、何が70%変わったのか、基準時点はいつか、患者自身の回答か、専門家の評価か、画素から算出した値かを確認する必要がある。画像指標だけが変化しても、治療の有効性や継続の可否が同じ割合で変わったとは限らない。
日本の規制──AIの名称より使用目的を見る
顔画像アプリが日本で医療機器に当たるかは、「AI搭載」という表示だけでは決まらない。厚生労働省は、医療機器としての目的があり、意図どおりに機能しない場合に患者や利用者の生命・健康へ影響するおそれがあるソフトウェアを、薬機法の規制対象となる医療機器プログラムとしている。外観の記録にとどまるのか、診断、治療計画、施術継続の判断をうたうのかで確認すべき範囲は変わる。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の開発手引きは、機械学習型の医療機器では、学習データと評価データが同じ施設に由来すると、患者、撮影機種、撮影法、診療体制に固有の偏りを受け、他施設の成績と離れる可能性があると指摘する。評価データには年齢や性別などの臨床要因と、撮像機器や撮像条件などの非臨床要因を含め、一般化可能性を説明する考え方も示す。
厚生労働省の通知は、診断・治療支援AIを使う場合も、医師が主体となって最終判断と責任を負うとしている。美容目的の画像アプリすべてに同じ規制が及ぶわけではないが、治療効果や施術継続を出力する用途なら、人の確認を外せない。
診療所と利用者が確認する五項目
- 使用目的。 外観の記録、研究資料の整理、診療支援、施術の推奨のどこまでを製品がうたうかを、広告ではなく添付文書や正式な仕様で確認する。
- 評価データ。 年齢、性別、皮膚の色、施術の有無、撮影機器、施設、除外条件を確認し、利用する人と合わない集団を把握する。
- 撮影規格。 照明、距離、角度、端末、表情をそろえ、元画像と再撮影の条件を記録する。
- 評価項目。 しわの面積、専門家のGAIS、本人の満足度、有害事象、生活の質を別欄に置き、一つの割合へまとめない。
- 人の確認。 入力不良を誰が見つけ、AIの出力を誰が退け、治療上の判断を誰が記録するかを決める。
PMDAの承認等情報は、主たる一般的名称に「プログラム」を含む承認品目を掲載する一方、有体物の医療機器に組み込まれたプログラムや、患者転帰の改善を意図しないAI機能などを含まないため、AI活用医療機器を網羅する一覧ではない。本稿が確認した同一覧では、美容鍼の効果判定を目的とする顔画像AIの承認情報を確認できなかった。これは国内製品が存在しないとの意味ではなく、個別製品の販売名、使用目的、承認・認証番号を別に照合する必要がある。
よくある質問
AIでしわが70%改善と出れば、美容鍼が効いたと判断できるか
判断できない。70%が示す対象を、しわの面積、尺度上の段階、専門家の評価、患者の満足度から特定する必要がある。撮影条件、比較時点、評価集団もそろわなければ、治療効果の割合として読めない。
人が見るよりAIのほうが客観的か
同じ撮影条件と固定した規則で数値化する用途には利点がある。ただし、学習用の正解は人のラベル付けから作られ、静止画と動画、評価者の違いで点数は動く。AIの出力にも、入力条件とラベル付け規則の確認が残る。
顔画像AIならPMDAの承認番号が必ずあるか
必ずあるとは限らない。外観の記録や美容目的の表示にとどまる機能と、診断・治療へ使う目的を持つ機能では扱いが異なる。製品の販売名、使用目的、承認・認証番号の表示を個別に照合する必要がある。
出典・参考資料
- Is Acupuncture Effective in Diminishing Frown Lines? Evidence From a Randomized Controlled Trial(Journal of Cosmetic Dermatology / PubMed Central)イランの女性72人を施術群と待機群に分け、標準化写真、満足度、生活の質を評価した無作為化比較試験
- Development and application of artificial intelligence-based facial skin image diagnosis system: Changes in facial skin characteristics with ageing in Korean women(International Journal of Cosmetic Science / PubMed)臨床の専門家による評価を基に顔画像AIを開発し、韓国女性の画像120枚で年齢に伴う皮膚特性を調べた研究
- Artificial Intelligence Predicts Fitzpatrick Skin Type, Pigmentation, Redness, and Wrinkle Severity From Color Photographs of the Face(Journal of Cosmetic Dermatology / PubMed Central)インターネット由来の顔画像3662枚を一人の皮膚科医がラベル付けし、五つの皮膚特性を予測したモデル研究
- Differences in the annotation between facial images and videos for training an artificial intelligence for skin type determination(Skin Research and Technology / PubMed Central)健康な25人の静止画と表情動画を4人の評価者が採点し、媒体間と評価者間の差を調べた予備研究
- 鍼灸安全対策ガイドライン2025年版(改訂第2版)(公益社団法人 全日本鍼灸学会)緊急時の医療優先、妊婦、易感染性患者、出血性疾患や抗凝血治療中の患者への注意を示す学会指針
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)急な息切れや呼吸困難など、救急車を呼ぶ成人の症状を示す公式案内
- 医療機器プログラムについて(厚生労働省)医療機器としての目的と、意図どおりに機能しない場合の健康影響から該当性を判断する公式案内
- プログラム医療機器の薬事開発・承認申請に関する手引き(医薬品医療機器総合機構)機械学習型医療機器の評価データ、施設由来の偏り、患者・撮像機器・撮像条件の幅、一般化可能性を扱う開発手引き
- AIを用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条との関係について(厚生労働省)診断・治療支援AIは医師の判断を支援する道具であり、医師が最終判断と責任を負うと示した通知
- プログラム医療機器の承認等情報(医薬品医療機器総合機構)承認品目とAI活用医療機器の表示範囲を掲載し、一覧が網羅的ではないことも明記する公式ページ