スマートウォッチの不規則な心拍通知は、心房細動(Atrial Fibrillation、AF)の診断結果ではない。手首の血流から脈の乱れを拾い、心電図で確かめる対象を示す入口である。通知が出ても心房細動ではない場合があり、通知がなくても発作性の心房細動を見逃す場合がある。

Apple Heart Studyには「34%」と「84%」という二つの数字が出てくる。前者は通知後に届いた貼付型心電図で心房細動が記録された人の割合、後者は貼付型心電図の装着中に追加通知が出た時点で心房細動だった割合だ。測定した時期と分母が違い、34%を通知機能の正確度や誤通知率と読むのは適切でない。

先に確認する症状──通知の確認より119番

通知と同時に、冷汗を伴うほどの強い胸痛や圧迫感がある、胸の症状が15分以上続く、軽くなったり強くなったりしながら悪化する場合は119番を急ぐ。国立循環器病研究センターは、これらを冠動脈の閉塞と開通が繰り返される危険な状態の徴候として挙げている。時計で測り直さず、救急要請を優先する。

突然、顔の半分や片方の手足が動かしにくくなる、言葉が出ない、片方の目が見えない、経験したことのない激しい頭痛が起きた場合も、通知の有無にかかわらず救急車を呼ぶ。同センターは、こうした脳卒中の典型症状が一つでも現れたら、可能な限り早く救急車を呼ぶよう案内している

二つの機能──PPG通知と1誘導心電図

背景で不規則な脈を探す機能は、光電式容積脈波(Photoplethysmography、PPG)を使う。時計の裏側から光を当て、皮膚の下を流れる血液量の変化から拍動間隔を推定する。利用者が静止している時間を中心に断続的に測るため、24時間の連続心電図ではない。

心電図(Electrocardiogram、ECG)アプリは別の機能だ。対応するApple Watchでは、裏面とDigital Crownの電極に左右の手を触れさせ、約30秒の電気信号を記録する。Appleの国内向け案内によると、得られるのは第I誘導に似た一つの波形で、医療機関の標準的な12誘導心電図は異なる角度から12の波形を記録する。PPG通知は疑いを拾う仕組み、1誘導心電図はその時点の波形を残す仕組みであり、役割を入れ替えられない。

スマートウォッチ背面の緑色LEDセンサーを示す手元(イメージ)

日本不整脈心電学会と日本循環器学会の2024年コンセンサスステートメントは、PPG機器の多くが体動時の検出を止めて偽陽性を抑える一方、連続監視にならず心房細動を少なく見積もる余地があると指摘する。体動、手首との接触、皮膚血流、入れ墨、周囲光も精度に影響し、心房細動の確定には医師が波形を確認する心電図が要るとしている

34%と84%──同じ研究が測った別の場面

2019年に発表されたApple Heart Studyは、米国の22歳以上のApple Watch利用者41万9297人を中央値117日追跡し、2161人(0.52%)に不規則な脈拍を通知した。解析可能な貼付型心電図を返送した450人では、34%に心房細動が記録された。貼付型心電図を着け始めたのは最初の通知から平均13日後だった。一方、装着中に追加通知が出た86人では72人の同時刻の心電図に心房細動があり、通知の陽性的中率は84%だった

指標分母と測定時点結果読めること
通知率参加者41万9297人、中央値117日0.52%研究期間中に通知を受けた割合
後続心電図の検出率解析可能な貼付型心電図を返した450人34%通知から平均13日後に始まった監視中に心房細動が記録された割合
通知の陽性的中率貼付型心電図の装着中に追加通知が出た86人84%追加通知と同時刻の心電図にも心房細動があった割合

最初の通知と貼付型心電図の間に平均13日空けば、発作性の心房細動は監視開始前に終わっている可能性がある。逆に、84%はすでに通知を受け、貼付型心電図まで返送した小集団の追加通知を見た値だ。陽性的中率は対象集団で心房細動がどれほど多いかにも左右される。二つの数字を現在の全機種や全年齢、日本の一般利用者にそのまま当てはめられない。

診察室で医師が心電図モニターの波形を確認する様子(イメージ)

67%の誤通知──小規模研究が示した原因

Pulsewatch研究では、脳卒中または一過性脳虚血発作の既往がある50歳以上85人が、Samsung製スマートウォッチと研究用アプリ、貼付型心電図を14日間使った。通知を受けた15人のうち10人では、同時期の貼付型心電図に心房細動がなく、研究上の誤通知は67%だった。35件の誤通知のうち19件はノイズを含む洞調律、11件は期外収縮や洞性不整脈、5件は心電図データの破損で原因を特定できなかった

誤通知を受けた人では、2週間後の自己評価で身体的健康感と慢性症状を管理する自信が低下し、通知回数が多いほど下げ幅も大きかった。ただし、観察された関連であり、通知が低下を引き起こしたと断定する研究設計ではない。対象は脳卒中リスクの高い少人数で、研究用アプリを使っている。67%は市販製品全体の誤通知率ではない。

研究チームは畳み込み型ノイズ除去オートエンコーダー(Convolutional Denoising Autoencoder、CDA)でPPGを再解析し、誤通知を受ける人を10人から2人に減らした。これは同じデータを使った事後的な再解析であり、新しい利用者を対象に診療上の効果を確かめた試験ではない。ノイズの除去で改善する余地と、別集団で再検証する必要性を同時に示す結果である。

日本の承認──通知、心電図、履歴は別の機能

医薬品医療機器総合機構(PMDA)の公開表は、Appleの心電図アプリケーションを承認番号30200BZI00020000、不規則な心拍の通知プログラムを30200BZI00021000として掲載する。Appleの心房細動履歴プログラムは別品目として並び、HUAWEI、Fitbit、Garminの心電図アプリも個別の承認品として掲載されている。一つの機能が承認されたからといって、その時計に表示される心拍関連の全機能が同じ目的で承認されたわけではない。

Appleの不規則な心拍の通知プログラムの電子添文は、心房細動の兆候検出を補助する機能で、医師の診断に代わらず、通知結果だけで医学的判断をしないよう定める。常時監視ではなく、通知がない場合も心房細動を否定しない。不整脈の診断歴がある人の経過観察には使わず、薬を自己判断で変更・中止しないこと、22歳未満の性能は評価されていないこと、ペースメーカーや植込み型除細動器との併用を避けることも記載する

国内の一般利用者を対象に、PMDAが掲載する現行の複数社製品を同じ条件で横断比較した公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。Apple Heart Studyの84%やPulsewatch研究の67%を、ブランド名だけで別の機種へ移す根拠はない。

通知後に医師へ渡す情報

診察室でスマートウォッチの記録を医師に見せる患者(イメージ)

救急の徴候がない場合も、通知を自己診断で終わらせず、専門の医師へ相談する。通知が出た日時、その時の動悸・息切れ・めまいの有無、症状が続いた時間を残す。対応機種で心電図を記録していれば、波形と機器の分類を保存する。Apple Watchでは、記録した波形、分類、入力した症状をPDFにして医師と共有できる。

診察では、通知画面の文言より心電図の波形が判断材料になる。12誘導心電図で捉えられない発作が疑われる場合は、症状の頻度に応じてホルター心電図、貼付型心電計、体外式ループ式心電計などを医師が選ぶ。スマートウォッチの表示だけを根拠に治療を始めたり、処方薬を増減・中止したりしない。

22歳未満、妊娠中、診断済み・植込み機器のある人

22歳未満では不規則な心拍通知の性能が評価されていないため、成人の研究値を当てはめない。妊娠中の利用者を分けて性能を示した国内の公的資料も、本稿の執筆時点で確認できていない。通知や動悸などの症状があれば、22歳未満は年齢に応じて保護者を交えたうえで医師に、妊娠中は産科の担当医または循環器の医師に相談する。

すでに心房細動や別の不整脈と診断された人は、未診断者向けの不規則な心拍通知で経過を判断しない。ペースメーカーや植込み型除細動器を使う人も、一般利用者向けの手順を当てはめず、機器を管理する医療機関に確認する。常用薬がある人は、通知や心電図アプリの分類を理由に用量や服用を変えない。

よくある質問

34%なら、通知の66%が誤りなのか
そうではない。34%は最初の通知から平均13日後に始まった貼付型心電図の監視中に心房細動が記録された割合だ。発作が監視開始前に終わった可能性があり、最初の通知時点を心電図で照合した数字ではない。

心電図アプリが「洞調律」なら受診しなくてよいのか
一回の記録で心房細動が映らなかったという意味に限られ、健康全体や別の時間帯の心拍を保証しない。不規則な心拍通知が出た場合や症状が続く場合は、保存した記録を医師に示す。強い胸痛や突然の片側麻痺などがあれば119番を優先する。

通知が一度もなければ心房細動はないのか
否定できない。PPG通知は静止時を中心とした断続的な測定で、発作の時間帯や体動によって拾えない場合がある。動悸、息切れ、めまい、失神などがあれば、通知の有無だけで受診の要否を決めない。