オーストラリアとフィジーは2026年7月6日、フィジーの首都スバで相互防衛条約「平和の海同盟」(Ocean of Peace Alliance、フィジー語名Veitacini Treaty)に署名した。両国は同日、経済、安全保障、人的交流を幅広く扱う「ブバレ連合」(Vuvale Union)にも署名した。豪首相府は、アンソニー・アルバニージー首相とシティベニ・ランブカ首相が2条約に署名し、「平和の海同盟」がフィジー初、オーストラリアにとって4番目の同盟になると発表した

署名は同盟の成立へ向けた節目だが、条約はまだ自動的な共同参戦を意味しない。武力攻撃への対応には各国の国内手続きが入り、条約自体も両国の批准を経て発効する。ニュージーランドは参加の可能性を協議する意向を示したものの、加盟国は現段階でオーストラリアとフィジーに限られる。

相互防衛条項──対応は国内手続きに従う

豪外務貿易省が公開した条約第6条は、太平洋で一方の締約国が武力攻撃を受ければ、互いの平和と安全、太平洋の安全に対する危険と認識し、各国の国内手続きに従って共通の危険に対処すると定めている。安全保障上の事態が主権、平和、安定を脅かす場合は、いずれかの要請で協議する規定も置いた。

条文は、攻撃が起きれば一定の軍事行動へ直ちに移るとは定めていない。国内手続きを経て共通の危険に対処する義務であり、派兵の有無や規模はその時点の判断に左右される。北大西洋条約機構(NATO)と同じ仕組みが南太平洋にできたとみなすのは早い。

発効にも手続きが残る。第12条は署名国による批准を必要とし、第14条は2番目の批准文書が寄託された日に発効すると定める。本稿の執筆時点では、両国の批准文書がそろい、条約が発効したことを示す公表は確認できていない。

海に面した太平洋島嶼国の港湾都市(イメージ)
2条約の署名式はフィジーの首都スバで開かれた。(イメージ/Photo by Donovan Kelly on Pexels)

経済と文化を扱う「ブバレ連合」

もう一つの「ブバレ連合」は、防衛条項を中心とする「平和の海同盟」と役割が異なる。ブバレはフィジー語で「家族」を意味する。条約本文は、繁栄と強靱性、文化・人的な結びつき、気候安全保障、平和の文化を協力の柱に据え、経済と人の往来をさらに統合する方針を示した

実施を担う高官協議の名称には、オーストラリア先住民ヨルングの言葉で「みんな」を意味する「Bukmak」が使われた。協議には伝統的指導者、宗教界、地域社会、企業の代表を招ける。先住民文化は装飾的な表現ではなく、条約を運用する協議制度にも組み込まれている。

屋外で開かれる先住民文化の集会(イメージ)
「ブバレ連合」は、文化と人的な結びつきを協力分野として明記した。(イメージ/Photo by Simon Maisch on Unsplash)

第三国の参加には全会一致

「平和の海同盟」は将来の拡大を排除していない。第12条によると、既存締約国は条約の目的と太平洋の安全に寄与する立場にある太平洋諸国を、全会一致で招請できる。参加希望国が一方的に加入する制度ではなく、既存締約国による招請と受諾、加入文書の寄託が必要だ。

Radio Free Asiaは、ニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相がフィジー、オーストラリア両政府と参加の可能性を協議するとの声明を出したと報じた。同記事で識者は、条約の柔軟な拡大規定が地域の安全保障枠組みを広げうる一方、NATO型の大規模な防衛機構とみるべきではないと説明している。ニュージーランドは参加を決定した段階ではない。

中国との関係も条文と評価を分けて見る必要がある。条約は中国を含む特定国を対象に挙げていない。Radio Free Asiaによると、中国外務省は太平洋島嶼国の独立性を尊重するよう求め、中国は地政学的競争を行わないとの立場を示した。中国の地域的影響力を意識した動きだとの見方はあるが、条約上の対象国として断定する根拠はない。

日本の対フィジー協力との違い

日本もフィジーとの安全保障協力を進めているが、今回の同盟とは別枠だ。外務省は2026年3月30日、政府安全保障能力強化支援(OSA)としてフィジー国防軍に救急車などの緊急医療用機材を供与する4億円の書簡を交換したと発表した。目的は災害を含む緊急時の医療能力の強化であり、相互防衛義務を定める条約ではない。

日本政府の公開資料では、日本が「平和の海同盟」への参加を検討しているとの発表や、OSAを同盟の枠内で実施するとの説明は、本稿の執筆時点で確認できていない。太平洋島嶼国との安全保障協力という方向は重なるが、日本の支援と豪・フィジー間の相互防衛義務は区別する必要がある。

よくある質問

「平和の海同盟」はすでに発効したのか
両首相は2026年7月6日に署名した。条約は両国の批准を必要とし、2番目の批准文書が寄託された日に発効する。発効を示す公表は本稿の執筆時点で確認できていない。

一方が攻撃されたら、もう一方は自動的に参戦するのか
条文は、各国の国内手続きに従って共通の危険に対処すると定める。自動参戦や特定の軍事行動を明記した規定ではない。

ニュージーランドの加入は決まったのか
決まっていない。ラクソン首相がフィジー、オーストラリアと参加の可能性を協議する意向を示した段階だ。

日本のOSAは同盟参加を意味するのか
意味しない。日本のOSAはフィジー国防軍への緊急医療用機材の供与であり、「平和の海同盟」とは別の二国間支援である。