診断支援AI(Artificial Intelligence)は、CTや内視鏡などの医用画像を解析し、病変の候補や診断の参考情報を医師に示すプログラム医療機器である。日本では薬事承認を得た後も、公的医療保険でどう評価するかは別の手続きになる。高い感度や特異度を示したという理由だけで、製品固有の加算が付く仕組みではない。

薬事承認と保険適用は別の審査

薬事承認は、医療機器として掲げる使用目的や性能、安全性を審査する。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は承認されたプログラム医療機器の一覧を公表しているが、有体物の医療機器の構成品として承認されたプログラムは含まず、掲載まで時間を要し、AI活用製品を網羅する一覧でもないと説明している

承認後、保険診療の中で製品をどう扱うかを決めるのが保険適用手続きだ。厚生労働省は、新たな医療機器や体外診断用医薬品を保険診療で使うには、別途、保険適用手続きが必要だと明記している。既存の検査料や手術料に費用が含まれる場合もあれば、関連技術料への加算、機器自体の材料価格、新しい技術料として評価される場合もある。承認品目数と、独立した診療報酬が付いた品目数は一致しない。

手術室のモニターに表示された血圧と生体情報(イメージ)

2026年度基準──精度より臨床上の上積み

厚生労働省が2026年3月にまとめた保険医療材料制度改革は、既存の検査、治療計画、手術を支援するプログラムについて、支援対象となる技術の臨床上の有効性が明らかに向上する場合、関連技術料への加算として評価するとした。ここで問われるのは、AI単体のテスト成績ではなく、AIを組み込んだ診療が従来の診療より患者にどのような結果をもたらしたかである。

同じ資料は省力化の扱いにも線を引いた。医療従事者の労働時間が短くなるという結果だけでは、原則として加算しない。既存技術の施設基準が一定数の職員や専門医の配置を求めている場合、AIの使用によって少ない人数でも実施できる、または専門医以外が担当しても同等の有効性になると示せれば、施設基準の緩和が検討対象になる。省力化は無価値なのではなく、報酬を上乗せする根拠と人員要件を見直す根拠が分けられている。

画面に並ぶ複数の脳CT断面画像(イメージ)

頭蓋内出血の検出AIなら何を比べるのか

CT画像から頭蓋内出血の疑いを拾い上げるAIを想定すると、感度、特異度、判定不能率は性能の出発点になる。保険上の加算を検討する段階では、AIを使わない読影と比べて、治療や搬送の判断までの時間が短くなったか、見逃しや不要な呼び出しがどう変わったか、患者の転帰に差が出たかという比較が要る。医師の読影時間が減っても、誤警報の確認に別の負担が生じれば、業務全体の削減にはならない。

臨床的な意味がまだ固まっていない一部の診断支援プログラムには、市販後の臨床試験やリアルワールドデータで根拠を積み上げる二段階承認の道がある。ただし適用範囲は限定される。厚生労働省の通知は、検査・診断結果が救急医療の初期対応方針など医学的判断に大きく影響するプログラムを、二段階承認の考え方から原則として除外している。頭蓋内出血検出AIも、承認された使用目的と医療現場で担う役割によって、求められる臨床評価の水準が変わる。

机上に広げられた医療費と評価資料(イメージ)

保険適用は増加、評価方法は一様でない

厚生労働省の集計では、2024年4月1日から2025年9月30日までに保険適用されたプログラム医療機器は9品目だった。大腸内視鏡の病変検出支援、手術中の尿管・膀胱の候補領域表示、長時間心電図の解析、治療補助アプリなど、目的と使い方は幅広い。支援対象の技術、患者が操作するかどうか、機器制御に使うかどうかによって評価経路が分かれるため、「医療AI」という一つの区分に共通価格を付ける制度ではない。

CT画像から頭蓋内出血を検出するAIについて、日本で製品固有の加算が設けられたことを示す公的資料は、執筆時点で確認できていない。これは国内に承認品や導入例がないという意味ではない。PMDAの公開一覧には対象範囲と掲載時期の限界があり、保険適用も既存技術料に含める形なら製品名から追いにくい。公開情報から確認できる範囲を超えて、不存在までは断定できない。

政策評価資料と時計が置かれた会議机(イメージ)

費用対効果評価は全製品への一律審査ではない

保険適用の議論で使われる「費用対効果評価」は、すべての医療AIに同じ形で課される事前試験ではない。厚生労働省の取扱通知では、一定の算定方式や有用性加算などに該当し、ピーク時予測売上高が100億円以上の品目をH1、50億円以上100億円未満の候補品目をH2とするなど、対象を指定する基準を置いている。指定後は企業分析を公的分析班が検証し、必要なら再分析する。

そのため、診断支援AIの保険評価で最初に問われる臨床上の有用性と、指定品目に対して行う制度上の費用対効果評価は同じではない。前者は加算や施設基準を判断する根拠になり、後者は一定の条件を満たす品目の価格調整に使われる。導入費、保守費、読影時間、誤警報への対応、患者の転帰を同じ表に並べる作業は有用だが、どの数字を正式な評価に使うかは申請区分によって変わる。

医師が診察室の画面でAIの診断支援結果を確認する様子(イメージ)

よくある質問

AI医療機器が承認されれば、病院は追加の診療報酬を請求できるのか
一律には請求できない。薬事承認と保険適用は別の手続きで、保険上は既存技術料への包括、加算、施設基準の緩和、特定保険医療材料など、製品の役割に応じた評価になる。

診断精度が医師より高ければ加算の対象になるのか
単体の精度比較だけでは決まらない。2026年度基準は、支援対象となる既存技術の臨床上の有効性が明らかに向上した場合に加算を検討する。患者の転帰や診療の流れを含む比較が焦点になる。

医師の読影時間を短縮すれば評価されるのか
労働時間の短縮だけでは、原則として加算しない。一方、少ない人数で同等の質を保てるなどの結果が示され、既存技術に人員配置の施設基準がある場合は、その緩和が検討される。

費用対効果評価では医師の時間や誤診の費用を必ず算入するのか
すべてのAI医療機器が費用対効果評価の対象になるわけではなく、対象品目は売上高や算定方式などの基準で指定される。指定後の分析枠組みは比較対照技術や臨床試験を含めて個別に決まり、生産性損失などは価格調整に直接使わない扱いもある。