天麻(Gastrodia Tuber)は、第十九改正日本薬局方に収載された生薬だ。厚生労働省の公定書は、オニノヤガラ(Gastrodia elata Blume)の塊茎を湯通しまたは蒸したものと定義し、重金属、ヒ素、乾燥減量などの品質規格を定めている。この規格は薬材の身元と品質を確かめる資料であり、天麻単独の治療効果を示す臨床指針ではない。

「天麻の効能」を生成AI(Generative AI)に尋ねると、生薬そのもの、ガストロジン(gastrodin、中国語名「天麻素」)、複数の生薬から成る漢方製剤、健康食品の説明が一つの回答に混ざりやすい。AIが担えるのは資料の探索と並べ替えまでで、服用の可否は製品表示、症状、持病、服薬状況を把握する医師や薬剤師の確認が要る。

先に確認する、すぐに受診すべき症状

頭痛やめまいを理由に天麻を調べている場合でも、突然の激しい頭痛、支えなしでは立てないほど急なふらつき、顔の片側のゆがみ、ろれつが回らない、片方の腕や脚に力が入らない症状があれば、天麻を試す場面ではない。厚生労働省は、これらを迷わず119番へ連絡する成人の症状として挙げている

天麻を含む医薬品の服用後に、まぶたや唇の腫れ、持続する咳込み、ぜーぜーする呼吸、息苦しさ、繰り返す嘔吐、強いふらつきが急に出た場合も救急車を呼ぶ。PMDAの患者向けマニュアルは、こうした症状をアナフィラキシーの兆候として示し、疑う場合は直ちに救急車で受診するよう案内している

呼吸や意識に異常がなくても、一般用の半夏白朮天麻湯を服用して発疹、発赤、かゆみが出た場合は服用を中止し、説明文書を持って医師、薬剤師または登録販売者へ相談する。この注意は処方全体に対するもので、天麻単独や別の製品へそのまま移せない。

乾燥した天麻と生薬の標本カードを机上に並べた様子(イメージ)

身元確認──生薬、成分、漢方製剤を分ける

日本薬局方の天麻は一つの生薬名である。ガストロジンは天麻に含まれる成分の一つであり、半夏白朮天麻湯は天麻を含む複数生薬の処方だ。さらに、食品として販売される粉末や抽出物が加わる。同じ「天麻」の検索結果に現れても、成分濃度、品質規格、投与経路、法的な区分はそろわない。

厚生労働省の2017年一般用漢方製剤製造販売承認基準は、半夏白朮天麻湯を天麻、半夏、白朮などから成る処方として収載し、体力や胃腸の状態を条件に頭痛、頭重、立ちくらみ、めまいなどを効能・効果に挙げている。ここで承認対象となるのは定められた処方全体で、天麻だけを食べた場合や、ガストロジン製剤の効果を保証する記載ではない。

AIの最初の出力欄には、商品名、医薬品か食品か、単味か複方か、原材料、剤形、製造販売元、添付文書の改訂日を置く必要がある。「天麻」と入力しただけで効能を返す設計では、対象物が定まらないまま結論だけが先に出る。

ヒト研究──抄録と本文で人数が一致しない

ガストロジンの片頭痛への使用を扱った2022年のメタ解析(meta-analysis)は、16件の無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial、RCT)を対象とした。同論文は参加者数を抄録で1,332人と記す一方、本文では介入群839人、対照群831人の計1,670人と記しており、同じ論文内で数字が一致しない

試験はすべて中国で実施され、主な比較はガストロジンを通常治療に追加した群と通常治療だけの群だった。割り付けの隠蔽を報告した論文はなく、二重盲検に触れたのは1件にとどまる。論文自身のGRADE評価は、主要な結果の根拠を「低い」または「非常に低い」とした。安全性も、有害事象を報告した5件をまとめた推定値に統計的な差がなく、長期使用を裏付ける設計ではない。

この論文から読み取れるのは、限られた条件のガストロジン研究で一定の差が報告されたことと、その確実性が低いことだ。生薬の天麻、天麻粉、薬膳、日本で承認された漢方製剤の効果へ置き換える根拠にはならない。AIが抄録だけを拾うと、参加者数の矛盾、介入の中身、根拠の質が回答から消える。

公式資料、論文、製品表示を画面上で照合する様子(イメージ)

禁忌と併用──固定表より製品表示を優先

天麻に共通する一枚の「禁忌一覧」は作れない。医薬品では処方ごとの添付文書、健康食品では原材料と注意表示を確認し、服用中の医薬品と照合する。厚生労働省が一般用の半夏白朮天麻湯に求める使用上の注意は、医師の治療を受けている人、妊婦または妊娠していると思われる人、薬で発疹・発赤・かゆみを経験した人に、服用前の相談を求めている。これは公的な処方別情報の一例であり、すべての天麻製品の注意事項ではない。

妊娠中または妊娠の可能性がある人。 一般用漢方製剤の表示に従い、服用前に医師、薬剤師または登録販売者へ相談する。授乳中も製品ごとの情報を確認し、天麻という生薬名だけで可否を決めない。

小児。 小児向けの用法がある製品でも、国の表示基準は保護者の指導監督を求める。年齢別の用法がない製品を成人と同じ扱いにしない。1歳未満では医師の診療を優先する表示基準がある。

持病がある人、常用薬がある人、高齢者。 処方薬、一般用医薬品、他の漢方製剤、サプリメントを含む一覧と、天麻製品の箱や成分表示を医師または薬剤師に示す。処方薬を自己判断で中断しない。厚生労働省の健康食品向け資料は、医薬品と同じ成分を重ねたり医薬品の作用を妨げたりする場合があるとして相談を求め、健康食品どうしの相互作用はほとんど分かっていないと説明する

天麻を含む全製品と全処方薬に共通する服用間隔は、日本の公的資料で確認できていない。AIが一律の時間を示しても、それだけで併用の安全性は決まらない。製品名と全服薬リストをそろえて個別に照合する必要がある。

薬剤師が服用中の薬と天麻を含む製品の表示を確認する様子(イメージ)

AI検索に持たせる三層の記録

第1層は対象物の記録。 生薬の天麻、成分のガストロジン、漢方処方、健康食品を別の項目に置く。製品名、成分、剤形、承認区分、添付文書の版が欠けた回答は、効能や禁忌へ進めない。

第2層は証拠の記録。 論文名、公開年、研究国、対象者、介入、比較対象、投与経路、人数、追跡期間、根拠の質を並べる。抄録と本文の数字が違う場合は両方を表示し、都合のよい一方を採用しない。

第3層は判断経路の記録。 参照したURL、閲覧日、引用箇所、モデル版、警告表示、医療者が採用または却下した理由を残す。IPAとAIセーフティ・インスティテュートは、AI事業者ガイドラインを、開発者・提供者・利用者がリスクを認識して対策を実行するための統一的な指針と位置付け、継続して更新する文書として扱っている。健康情報検索に当てはめれば、出典と版の管理、人の確認、誤りが見つかった後の修正履歴が運用の中心になる。

公開資料の整理と、個人の症状から服用を勧める機能も分ける必要がある。厚生労働省は、医療目的を持ち、意図どおりに動かない場合に生命や健康へ影響するおそれがあるソフトウェアを、医薬品医療機器等法の規制対象となる医療機器プログラムとしている。AIを使うだけで一律に該当するわけではなく、使用目的と不具合時のリスクで判断される。

医療チームがAI検索画面の出典と更新履歴を確認する会議(イメージ)

日本で確認できる範囲

日本の公的資料から確認できるのは、天麻という生薬の品質規格、承認基準に沿う漢方処方の効能・効果と使用上の注意、健康食品と医薬品を併用する際の一般的な注意までだ。天麻単独の禁忌、長期の人体安全性、処方薬との相互作用を網羅した国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

確認できない欄をAIが推測で埋めると、薬材、成分、処方、食品の境界が再び崩れる。答えを完成させるより、「どの製品か不明」「相互作用の公的資料を確認できない」「医療者の照合が必要」と止める設計が、天麻検索では実務的である。

よくある質問

天麻はめまいに効くのか
一般用漢方製剤の承認基準には、天麻を含む半夏白朮天麻湯の効能・効果として、一定の体力・胃腸状態を前提にめまいなどが挙がる。処方全体への記載であり、天麻単独の効果や、めまいの原因を示すものではない。

処方薬と何時間空ければよいのか
すべての天麻製品と処方薬に共通する間隔は確認できていない。間隔だけで相互作用を避けられるとは限らないため、製品表示と全服薬リストを医師または薬剤師へ示して確認する。

AIの回答で最初に見る欄は何か
対象が生薬、ガストロジン、漢方処方、健康食品のどれかを示す欄を見る。次に出典URLと更新日、研究の介入と比較対象、抄録と本文の一致を確認する。これらがなければ、効能や禁忌の結論を採用しない。