米国の子ども向け予防接種は、連邦政府が示す勧告と、各州が定める就学時の接種要件が別に動く制度だ。ドナルド・トランプ大統領は2026年8月10日、全児童向けの対象を11疾患とする行政命令に署名し、麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチン(Measles, Mumps and Rubella vaccine、MMR)の分割方針を打ち出した。

行政命令は、MMRの単抗原製品が米国内で利用可能になった後に3種類を別々に接種し、可能な限り各ワクチンを別の受診日に投与する方針を明記した。米保健福祉省(Department of Health and Human Services、HHS)には90日以内の実施計画提出を求めた。単抗原製品が現在ないため、署名の日からMMRの扱いが直ちに変わるわけではない。

全児童向けは11疾患 勧告を3区分に整理

診察室で医師と患者が医療記録の図表を確認する様子(イメージ)

命令が全児童向けとしたのは、麻しん、流行性耳下腺炎、風しん、ジフテリア、破傷風、百日せき、ポリオ、インフルエンザ菌b型(Hib)感染症、肺炎球菌感染症、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症、水痘の11疾患である。A型・B型肝炎や髄膜炎菌感染症などは、高リスク集団向けと、医師と保護者が個別に判断する区分(shared clinical decision-making)に置かれた。RSウイルス(RSV)はワクチンではなく、モノクローナル抗体が高リスク集団向けに挙げられている。

ホワイトハウスは従来の対象を、17疾患にRSVモノクローナル抗体を加えた「18」と数え、そこから全児童向けを11疾患に絞ると説明している。「18」は注射の回数ではなく、政権が採用した予防対象の数え方である。

行政命令は、就学時の接種要件を各州が定めていると認めたうえで、州と準州に法令の見直しを促した。連邦勧告の変更だけで州法上の要件が一斉に変わる構造ではない。

MMR分割は即時実施ではない

米国では、麻しん、おたふくかぜ、風しんの単抗原製品は現在提供されていない。行政命令が定めた90日は製品化の期限ではなく、HHSが民間企業や外国との連携を含む計画を大統領へ示す期限だ。命令は同時に、従来の混合ワクチンを引き続き利用可能にするよう求めている。

世界保健機関(World Health Organization、WHO)のワクチン安全性諮問委員会は、MMRより麻しん、おたふくかぜ、風しんの単抗原製品を日常的に優先する根拠はなく、分割は必要な接種を完了しない危険を高めると評価している

AP通信は、米小児科学会のアンドリュー・ラシーン会長が従来の勧告を維持すべきだと表明し、医師でもある共和党のビル・カシディ上院議員が大統領には変更を判断する専門性がないと批判したと報じた。先行する連邦勧告の変更は裁判所に差し止められ、通常は米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)所長の承認を経るとも伝えた。今回の行政命令が既存訴訟と通常手続の間でどこまで実施されるかは定まっていない。

自閉症との因果関係は確認されず

トランプ氏は署名時、接種本数や時期が自閉症の増加に関係するとの見方を示し、MMR混合製剤の安全性にも疑義を呈した。AP通信の検証は、単抗原製品が米国で提供されておらず、MMR混合製剤の安全性と有効性は長年のデータで確認されているとした

WHOは2025年、2010年から25年8月までに公表された31件の一次研究を検討し、小児期のワクチンと自閉症スペクトラム症に因果関係はないとの結論を再確認した。この評価は複数国の研究を含み、MMRに限らないワクチン全般を対象としている。

デンマークの全国登録を使った2019年のコホート研究も、1999〜2010年生まれの子ども65万7461人を追跡し、MMR接種による自閉症リスクの上昇を認めなかった。家族歴などリスクが高い群でも、接種後に発症が集中する結果は得られなかった。

日本の経験──「3本化」と同じ条件ではない

厚生労働省の2026年6月の審議会議事録によると、日本では国産MMRが1989年から93年まで定期接種に使われ、無菌性髄膜炎の発生頻度が問題となって使用を中止した。その後はおたふくかぜ単味ワクチンが任意接種として残り、2026年5月には新たなMMRが薬事承認された

この経緯は、MMRの3成分を単抗原製品として別の受診日に移す米国の方針と同一ではない。日本では旧国産MMRの安全性問題で混合製剤を中止し、おたふくかぜだけが任意接種に外れた。日本の接種率低下を、分割という一つの要因だけで説明するのは難しい。

同じ厚労省議事録は、接種歴不明を考慮したおたふくかぜワクチンの1回以上接種率を10歳未満で約50%、10代で約20%とした。2015〜16年の耳鼻咽喉科医への調査では、回答率70%の段階で少なくとも356例のムンプス難聴が報告された。この数字は疾病負担を示すが、MMR中止と任意接種化の影響を切り分けた因果推定ではない。

厚労省は新たなMMRの承認後も定期接種化の検討を続けている。発売日と定期接種への組み入れを確定した公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

よくある質問

行政命令は米国の小児ワクチン勧告をどう変えたか
全児童向けを11疾患とし、ほかを高リスク集団向けか医師と保護者が個別に判断する区分に分けた。MMRは単抗原製品が米国内で利用可能になった後、3種類を別々に接種する方針を掲げた。

MMRはすぐに3種類へ分かれるのか
直ちには分かれない。米国では単抗原製品が現在提供されておらず、HHSに課された90日の期限も実施計画の提出期限である。命令は従来の混合製剤の継続提供を求めている。

ワクチンは自閉症の原因になるのか
WHOが2025年に公表した最新評価は、31件の一次研究を検討し、因果関係を認めなかった。65万7461人を対象にしたデンマークの研究でもMMR接種後のリスク上昇は確認されなかった。

日本の経験は米国のMMR分割と同じか
同じではない。日本は旧国産MMRの無菌性髄膜炎を理由に混合製剤を中止し、おたふくかぜ単味ワクチンが任意接種に残った。3成分を意図的に別日程へ移す米国の方針とは条件が異なる。