米国では2026年、原虫のサイクロスポラ(Cyclospora cayetanensis)による感染症で、複数の集団感染と感染源が確定していない症例が同時に報告されている。米国食品医薬品局(FDA)が8月20日に更新したメキシコ中部産アイスバーグレタス関連の集団感染は17州1万930人、入院454人、死亡2人である。

一方、米国疾病予防管理センター(CDC)が集計した米国内感染の検査確定例は1万5716人に上る。前者は特定のレタスに関連づけられた集団、後者はほかの集団感染と感染源未特定例を含む米国内感染の集計で、二つの数字は足し合わせられない。

レタスを特定した経路──聞き取りと流通追跡

調査の起点は、タコベル(Taco Bell)で食事をした患者への聞き取りだった。FDAの更新履歴によると、7月16日時点ではインディアナ、ケンタッキー、ミシガン、オハイオ、ウェストバージニアの5州で1644人が確認され、ミシガン州が食事内容を詳しく調べた190人の90%がアイスバーグレタスを食べていた。FDAは翌17日、流通追跡の結果が単一の供給元であるTaylor Farms de Mexicoを指したと発表した

Taylor Farms de Mexicoは7月17日、メキシコ中部から調達したアイスバーグレタスを米国市場から自主的に撤去し、回収を始めた。FDAは8月20日、対象品は市場からなくなったとの見方を示したうえで、メキシコ当局と栽培地の立ち入り検査と採取検査を続けている。確認済みの米国内の業務用流通先は31州で、さらに9州・地域へ渡った可能性がある。

感染源の判断には留保もある。FDAは7月19日、レタス検体の陽性結果を再検討して偽陽性と訂正し、同日時点で食品検体の確定陽性はないとした。現段階の関連づけを支える中心は患者の食事歴と供給網の追跡で、FDAの公開ページは汚染が生じた農場や工程を特定していない。

公衆衛生検査室で食品由来疾患の検体を確認する作業員(イメージ)
公衆衛生検査室で食品由来疾患の検体を確認する作業員(イメージ)。Photo by Logan Gutierrez on Unsplash

1万930人と1万5716人──集計範囲が違う

CDCは8月18日、5月1日から8月17日までに米国内で感染した検査確定患者を1万5716人、入院828人、死亡2人と公表した。報告地域は47州にワシントン特別区とプエルトリコを加えた範囲で、この中にレタス関連の1万930人が含まれる。CDCはこのほか、検査確定に至っていないか、米国内感染かどうか追加調査が要る症例を少なくとも1万1841例把握している。

FDAの数字は、加工済みアイスバーグレタスへの接触が報告され、特定の集団感染に組み入れられた症例に限られる。州の発表には疑い例が含まれる場合があり、更新時期もそろわない。FDAとCDCはこの集団について検査確定例だけを数えているため、州別の数字と一致しないことがある。

日本語の公的資料──最新値との時差

国立医薬品食品衛生研究所は8月19日発行の「食品安全情報」で、米CDCの8月5日更新を日本語で整理した。同資料が載せたレタス関連の集団感染は15州6358人、入院278人、死亡2人で、患者を集団感染に組み入れるまで最長6週間かかる場合があるとしている。FDAが翌20日に公表した1万930人は、それより新しい集計である。

厚生労働省は、米国の食品回収・集団感染情報の確認先としてFDA、CDC、米国食品安全検査局の公式サイトを案内している。今回のFDA資料が示す国外の販売先はメキシコである。対象レタスが日本国内に流通したことを示す公的資料は、本稿執筆時点で確認できていない。ただし、これは日本への流通がなかったことの証明ではない。

監視網の変更と人手不足は分けて見る

食品由来疾患能動的監視ネットワーク(FoodNet)はCDC、FDA、米農務省、10州の保健当局が共同で実施する監視事業で、米人口の約16%を対象とする。2025年7月1日以降、サルモネラと志賀毒素産生性大腸菌を除く病原体についてFoodNetへの報告は任意になり、サイクロスポラも対象に含まれる。一方、CDCはFoodNetが集団感染の検知を目的とする仕組みではなく、PulseNetなどを使う集団感染の検知・調査手順に変更はないと説明している。FoodNetの変更だけで今回の調査遅延を説明するのは適切でない。

現場の人員を巡る説明も一致していない。NPRの取材に対し、ウェストバージニア州の食品安全コンサルタント、ボブ・カスタード(Bob Custard)は、連邦資金の削減で患者への聞き取りと現場調査が追いつかないと述べた。元CDC幹部のダン・ジャーニガン(Dan Jernigan)は寄生虫研究部門で少なくとも3分の1の人員が欠けたと証言したが、米保健福祉省は今回の対応を支えるCDC研究所は人員削減の影響を受けていないと回答した。FDAの海外当局との調整担当者は復職したというのが同省の説明で、この報道だけでは人員減の影響を数量化できない。

焦点は検査結果と報告の遅れ

FDAは調査を継続中としている。今後の焦点は、メキシコの栽培地で採取した検体の結果、汚染が起きた場所と工程の特定、回収対象の流通追跡である。対象品の賞味期限はすでに過ぎ、FDAは市場に残っていないとみているが、患者が集団感染に組み入れられるまで時間がかかるため、報告数の増加が直ちに新たな流通や曝露を意味するわけではない。

よくある質問

感染源はアイスバーグレタスで確定したのか
FDAとCDCは疫学調査と流通追跡にもとづき、Taylor Farms de Mexicoのメキシコ中部産アイスバーグレタスに関連づけている。ただし、7月19日時点で食品検体の確定陽性はなく、汚染が生じた農場や工程の調査は終わっていない。

1万930人と1万5716人のどちらが米国の患者数なのか
1万930人はレタス関連の特定集団、1万5716人は米国内感染の検査確定例全体である。後者が前者を含むため、二つを合算しない。

回収対象のレタスは日本にも流通したのか
日本国内への流通を示す公的資料は、本稿執筆時点で確認できていない。FDAが国外販売先として公表しているのはメキシコだけだが、日本への流通がなかったと断定できる資料でもない。