漢方AIの信頼性は、画面に示された回答や正解率だけでは測れない。問診記録から証を推定するソフト、処方候補を示すシステム、脈や舌の画像を解析する機器では、患者への影響も必要な検証も異なる。日本で導入前に確かめるべきなのは、規制上の位置づけ、知識とデータの出所、性能評価、診療情報の管理、電子カルテとの接続、誤りが生じた際の責任という六項目だ。

「漢方AI」という名称では規制区分は決まらない

最初の確認点は、製品が何を目的としているかだ。単なる記録や検索と、疾病の診断・治療を支援する出力は同じ扱いではない。厚生労働省の「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」は、使用目的と処理方法を整理し、不具合が起きた場合に人の生命・健康へ及ぶリスクから該当性を判断する手順を示す。患者向けの説明、診療記録の保存・表示、低リスクの処理などは規制対象外となる典型例に挙げる一方、複数機能の一つでも定義を満たせば製品全体が流通規制を受けるとしている

したがって、開発会社にまず求める資料は「AI搭載」という説明ではなく、使用目的、想定利用者、入力、出力、出力を誤った場合の影響を記した文書になる。診断や治療方針に関わると標ぼうしながら「参考情報にすぎない」と説明するだけでは、制度上の位置づけは決まらない。

医療従事者が画面上のAI判断記録を確認する様子(イメージ)

第一項目──承認・認証の対象と範囲

医療機器に当たるなら、次に見るのは販売名と承認・認証の範囲だ。ウェブサイトの宣伝文句と、公的に確認された使用目的が一致するとは限らない。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は承認されたプログラム医療機器の一覧を公開し、AI技術を用いた機能を持つ品目に印を付けている。ただし、有体物の医療機器に組み込まれたプログラムは掲載対象外となる場合があり、患者転帰の改善を意図しないAI機能も除くため、一覧はAI活用医療機器を網羅しない

一覧に名前が見当たらないことだけで、未承認製品とは断定できない。確認には販売名、製造販売業者、承認・認証番号、使用目的の照合が要る。漢方AIを独立した製品区分として扱う承認一覧や専用評価指針は、本稿の執筆時点で国内の公的資料から確認できていない。

第二項目──学習資料と臨床根拠の出所

漢方AIでは、古典、現代の診療録、論文、医薬品情報が一括して「学習データ」と説明されがちだ。しかし、古典の出典が明らかであることと、現在の患者に対する性能が検証されたことは別の話になる。原典名と版、現代語訳の作成者、医案の選定基準、重複除去、注釈を付けた専門家、更新履歴を分けて確認する必要がある。

臨床根拠を照合する国内の資料もある。日本東洋医学会の「漢方治療エビデンスレポート(EKAT)」は、1986年以後に報告され、現在販売されている漢方製剤と同等の品質の製剤を使ったランダム化比較試験とメタ解析を収集し、研究デザイン、参加者、介入、評価項目、安全性などを統一形式で整理している。品質が不明な煎じ薬は対象外だ。AIが典籍を何冊読んだかという量より、出力の根拠がこうした検証可能な資料までたどれるかが判断材料になる。

机の上に開かれた漢方の古典資料(イメージ)

第三項目──誰のデータで、何を測った性能か

精度の数字には、対象者、比較基準、データの分け方が付いていなければ意味がない。学習に使った患者と評価に使った患者が重なっていないか、別施設のデータでも性能が保たれたか、見逃しと過剰な検出を別々に示しているかを読む。問診文の続きを当てる試験、資格試験の問題、実際の診療を想定した前向き試験は、測っている能力が異なる。

運用後の変化も確認対象だ。モデルや参照資料を更新した日、更新前後の性能、誤出力の報告窓口、利用停止の基準が記録されなければ、導入時の試験結果と現在動いている版を結びつけられない。出力ごとにモデルの版、入力、参照資料、利用者の採否を監査記録として残せるかが、推論経路の追跡性を左右する。

審査担当者が性能評価資料と規制文書を照合する様子(イメージ)

第四項目──診療情報の利用目的と管理

問診、病歴、処方、検査結果を扱うなら、入力内容がどこへ送られ、何の目的で保存され、再学習に使われるかを確認する。個人情報保護委員会の医療・介護分野向けガイダンスは、診療録に記された病歴、診療や調剤の過程で得た身体状況、健康診断の結果などを要配慮個人情報の例に挙げる。取得と個人データの第三者提供には原則として本人同意が必要で、要配慮個人情報はオプトアウトによる第三者提供の対象にならない

氏名を外せば自由に学習へ回せるわけでもない。厚生労働省が2024年に周知した医療デジタルデータのAI研究開発向けガイドラインは、共同研究から製品開発へ進む場面を想定し、研究開発の段階ごとの法的根拠、仮名加工情報の作成手順、共同利用の運用を整理している。委託先、保存先の国・地域、保存期間、削除手順、再学習への利用、事故時の連絡経路までが確認事項になる。

第五項目──電子カルテとつながる範囲

「FHIR対応」という表示も、接続できる範囲を保証しない。FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)は医療情報を交換するための規格であり、製品が読み書きする項目、使うコード、版、接続試験の有無は実装ごとに異なる。厚生労働省は電子カルテ情報共有サービス向けに技術解説書とFHIR記述データの手本を公開し、診療情報提供書、健診結果、患者サマリーなどの実装資料を示している

一方、漢方固有の証、舌・脈の所見、処方を選んだ根拠が共通形式で交換されることを示す国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。製品側が「電子カルテ連携」と表示していても、患者基本情報の受け渡しに限るのか、処方や検査値を双方向で扱うのか、漢方固有の記録は自由記載のままかを切り分ける必要がある。

医療情報の交換項目をモニターで確認する担当者(イメージ)

第六項目──最終判断と事故対応の責任

日本の公的整理では、AIは診療の主体ではない。厚生労働省は2018年の通知で、診断・治療支援AIは医師が主体となる判断の一部で情報を示す支援ツールであり、AIを利用した場合も診断・治療の主体は医師で、最終判断の責任を負うとした。漢方を扱うシステムでも、AIの出力が医師の判断を置き換えるという説明はこの整理と整合しない。

ただし、この通知だけで開発会社や医療機関の責任分担がすべて決まるわけではない。誤出力、学習データの欠陥、システム障害、表示と承認範囲のずれ、情報漏えいでは原因も関係者も変わる。契約書には、監視を担う主体、更新を承認する手順、事故を報告する窓口、ログの保存期間、患者への説明、停止と復旧の決定権を具体的に置く必要がある。

法的責任を示す木づちと医療文書(イメージ)

六項目を一枚で照合

確認項目見る資料判断できること
規制上の位置づけ使用目的、承認・認証番号、添付文書公的に確認された機能の範囲
学習資料と根拠資料一覧、選定基準、注釈手順、引用先出力の根拠を追跡できるか
性能評価対象者、比較基準、施設外検証、版履歴数字が実際の利用場面を反映するか
診療情報の管理利用目的、同意、委託先、保存・削除手順患者データがどこで何に使われるか
相互運用性FHIRの版、交換項目、コード、接続試験どの記録をどこまで受け渡せるか
責任と事故対応監査ログ、契約、報告窓口、停止基準誤りを誰が検知し、誰が対応するか

六項目は、製品の価値を一つの点数に置き換えるための表ではない。規制への適合、臨床上の根拠、データの保護、運用責任は別々に確かめる必要がある。どれか一つの資料を、残りすべての証明として扱わないことが、漢方AIを評価する出発点になる。