紅麹(Red Yeast Rice)は、米をベニコウジカビで発酵させた食品素材だ。菌株や発酵条件によってモナコリンK(monacolin K)が生じ、この物質はコレステロール低下薬ロバスタチンと構造的に同じである。「食品」「天然」という分類だけでは、薬理作用や副作用の有無を判断できない。
安全性を考える際は、二つの問題を分ける必要がある。一つはモナコリンKそのものが持つスタチン様の作用と相互作用、もう一つは発酵・製造工程で生じる非意図的な汚染である。2024年の小林製薬事案で調べられたプベルル酸は後者にあたり、モナコリンKと同じ物質ではない。
受診を急ぐ症状──筋肉痛、脱力、赤褐色尿
紅麹サプリメントの摂取後に、原因のはっきりしない強い筋肉痛や脱力が現れ、尿が赤褐色になった場合は摂取を中止し、その日のうちに医療機関へ相談する。白目や皮膚が黄色い、尿の色が濃い、強いだるさや吐き気が続く場合も同様だ。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、スタチンを含む薬剤性筋障害では筋肉痛や脱力が起こり、重症時には茶色い尿を伴って急性腎不全に至る場合があると説明している。
小林製薬の回収命令対象3製品が手元にある場合は症状の有無にかかわらず摂取をやめる。厚生労働省は対象製品の名称と回収情報を掲載し、何らかの異常がある人に医療機関の受診または最寄りの保健所への相談を求めている。
モナコリンK──食品に含まれうるスタチン様成分
厚生労働省eJIMは、モナコリンKがロバスタチンと構造的に同じで、含有量の多い紅麹製品には筋肉、腎臓、肝臓への影響などスタチン系薬剤と同様の副作用がありうると説明している。薬との相互作用も同じ種類が想定される。処方された脂質低下薬へ紅麹サプリメントを自己判断で上乗せしたり、処方薬の代わりに使ったりする根拠にはならない。
含有量も一定ではない。eJIMが紹介する米国の2017年調査では、市販28ブランドのうち2ブランドでモナコリンKが検出されず、検出された26ブランドでは紅麹1200mg当たり0.09〜5.48mgと60倍を超える差があった。これは米国製品の調査であり、日本で販売される個々の製品の含有量を示す数字ではない。それでも、原料名や紅麹の重量だけからモナコリンK量を推定できないことは分かる。
小児・妊娠中・授乳中、持病や常用薬がある人
小児に成人向け紅麹サプリメントの情報を当てはめない。妊娠中と授乳中の安全性を調べた研究はなく、eJIMはこの期間の使用を勧めていない。肝臓や腎臓の病気、過去の筋障害がある人も、健康な成人と同じ条件では評価できない。
脂質低下薬を服用している人、ほかの紅麹製品を使っている人、常用薬がある人は、使用前に製品名と成分表示を医師か薬剤師へ示す。EU規則は、脂質低下薬の使用者と別の紅麹製品の使用者に摂取しないよう警告する表示を求めている。ただし、この表示要件はEU法上のもので、日本の製品に同じ規制文言が付くとは限らない。
小林製薬事案──プベルル酸は別の汚染問題
小林製薬事案を「紅麹に含まれるモナコリンKの副作用」だけで説明するのは正確でない。厚生労働省と国立医薬品食品衛生研究所の2024年9月資料は、大阪工場と和歌山工場で青カビPenicillium adametzioidesを確認し、培養段階での混入によってプベルル酸が生じたと推定している。ラットへの7日間反復投与では、プベルル酸で近位尿細管の変性・壊死がみられた。
同じ資料は、青カビの介在でモナコリンKが修飾されて生じた化合物YとZも報告した。資料公表時の単独投与試験では両化合物に腎毒性所見は認められなかった。プベルル酸は紅麹発酵で常に生じる成分ではなく、対象製品の製造工程で起きた非意図的な汚染として扱う必要がある。反対に、プベルル酸が検出されないことだけでモナコリンKの薬理リスクまで消えるわけでもない。
日本の表示制度──届出は国の個別審査ではない
日本で「機能性表示食品」と書かれていても、医薬品の承認や特定保健用食品の許可と同じ意味ではない。消費者庁によると、機能性表示食品は事業者が安全性と機能性の科学的根拠などを販売前に届け出る制度で、国が製品ごとに審査する特定保健用食品とは仕組みが異なる。届出番号は国による効果や安全性の保証書ではない。
小林製薬事案後、機能性表示食品では健康被害情報の提供が義務化され、天然抽出物を原材料とする錠剤・カプセル剤などには適正製造規範(GMP)に沿った管理も段階的に求められるようになった。制度の強化は健康被害の把握と製造管理を改善するが、個々の利用者の持病や併用薬まで販売前に判定する仕組みではない。
EUの3mg規制と、なお残った安全量の空白
EU規則2022/860は、紅麹由来モナコリンを製品の1日分当たり3mg未満とし、妊娠・授乳中、18歳未満、70歳超、脂質低下薬の使用者などへの警告表示を定めた。これはEU域内の販売条件であり、日本の法的上限ではない。
「3mg未満なら安全が確認された」という意味でもない。欧州食品安全機関(EFSA)は2025年に追加データを再評価し、1日3mgという低い摂取量でも筋骨格系と肝臓の重篤な有害事象が起こりうるとの懸念を維持し、3mg未満を含めて安全上の懸念がない1日量を設定できないと結論づけた。有効性を主目的にした短期・小規模試験では、まれな重篤有害事象を検出する人数と期間が不足することも指摘している。
日本国内の紅麹サプリメントすべてに共通するモナコリンK上限値を示す公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。EUの数値を日本の基準に読み替えず、製品の届出情報、含有成分、摂取中の薬、持病を分けて確認する必要がある。
よくある質問
紅麹は天然素材なので、スタチン系薬剤より安全なのか
天然という由来だけでは判断できない。モナコリンKはロバスタチンと構造的に同じで、含有量が多い製品にはスタチン系薬剤と同様の筋肉、肝臓、腎臓への影響と薬物相互作用がありうる。
小林製薬事案はモナコリンKが原因だったのか
厚生労働省の原因究明では、培養工程に混入した青カビが産生したプベルル酸で腎毒性が確認された。これはモナコリンKそのものとは別の汚染問題である。
機能性表示食品の届出番号があれば国の審査済みなのか
国が製品ごとに安全性と機能性を審査したという意味ではない。事業者が根拠資料などを届け出て表示する制度であり、公開された届出内容を確認する仕組みだ。
血液検査のLDLコレステロールが高ければ紅麹を始めてよいか
検査値だけで自己判断しない。脂質低下薬との重複、持病、ほかの薬との相互作用を確認する必要があるため、健診結果と使用中の薬を医師か薬剤師に示す。
EUの基準より少ない量なら安全なのか
安全が証明された量ではない。EFSAは2025年の再評価でも、3mg未満を含め、安全上の懸念を生じない摂取量を特定できなかった。
出典・参考資料
- 紅麹[サプリメント・ビタミン・ミネラル](厚生労働省eJIM)モナコリンKとロバスタチンの構造的同一性、スタチン系薬剤と同様の副作用・相互作用、妊娠・授乳中の情報
- 紅麹を含む健康食品関係(厚生労働省)小林製薬の回収対象3製品、喫食中止と受診案内、原因究明資料をまとめた公式ページ
- 小林製薬社製の紅麹を含む食品の事案に係る取組について(厚生労働省・国立医薬品食品衛生研究所)青カビ混入、プベルル酸と化合物Y・Zの生成、ラット7日間反復投与試験の腎病理所見
- 機能性表示食品について(消費者庁)機能性表示食品は事業者責任の届出制度で、特定保健用食品と異なり国が個別審査しないことの説明
- Scientific Opinion on additional scientific data related to the safety of monacolins from red yeast rice(EFSA Journal)2025年の追加データ評価。3mg未満を含め安全上の懸念がない摂取量を設定できないとの結論
- Commission Regulation (EU) 2022/860(Official Journal of the European Union)紅麹由来モナコリンを1日分当たり3mg未満とし、妊娠・授乳中、18歳未満、70歳超、脂質低下薬使用者などへの警告表示を定めたEU規則
- 医薬品による筋障害に関するゲノム研究について(医薬品医療機器総合機構)スタチンを含む薬剤性筋障害でみられる筋肉痛、脱力、茶色い尿と急性腎不全のリスク