消費者庁は2026年5月14日、インターネット上の健康食品広告を対象とした同年1〜3月の監視結果を公表した。156事業者が販売する176商品に健康増進法第65条第1項違反のおそれがある文言などを確認し、事業者へ表示改善を指導した。対象には、ダイエット、脂肪燃焼、疾病予防、血糖値対策などをうたう表示が含まれた。

この数字は、違反が確定した商品数でも、市場全体に占める違反率でもない。キーワード検索後に目視した表示への改善指導件数である。広告にタレントが登場する場合も、知名度だけで適法性や責任は決まらない。広告主、制作会社、媒体、出演者の立場を一括りにせず、どの法律が誰のどの行為を対象とするかを分ける必要がある。

二つの表示規制──対象となる主体が異なる

景品表示法は、商品を供給する事業者が、自己の商品について一般消費者を誤認させる表示をすることを禁じる。消費者庁のQ&Aは、表示内容を自ら決めた場合、他者の説明を受けて決めた場合、他者へ決定を委ねた場合を「表示の決定に関与」に含め、表示規制の対象かを判断する段階では故意や過失を要しないと説明している。広告主は、制作会社や出演者へ台本作成を任せたという事情だけでは表示主体から外れない。

広告代理店、制作会社、新聞社、放送局、プラットフォームは、広告制作や掲載に関わっても、対象商品を供給していなければ景品表示法の表示規制から原則として外れる。ただし、販売事業者と共同で商品を供給し、共同で広告を行う場合は別である。

健康増進法は範囲が異なる。消費者庁の2024年Q&Aは、同法第65条第1項が「何人も」と定め、食品の製造・販売事業者に限定せず、広告を表示する者であれば、媒体事業者、広告代理店、広告仲介サービス事業者も規制対象となり得ると示す。もっとも、広告へ名前や顔が出た事実だけで出演者への措置が決まるわけではない。発言を誰が作り、本人がどこまで修正し、どの媒体で商品へ誘引したかという事実が要る。

役割日本の表示規制で確認する事実一律に使えない説明
広告主・製造販売事業者商品を供給した主体、宣伝文句の決定、外部への委託、根拠資料の確認をたどる。「制作会社に任せたので表示責任はない」
広告代理店・制作会社商品供給への関与、健康効果をうたう表示の企画・決定、明白な誇大表現を予見し得た事情をたどる。「受注制作なら全ての法律から外れる」
媒体・プラットフォーム掲載だけか、共同販売・共同広告か、表示内容の決定に関与したかを分ける。「掲載場所を提供しただけなら常に対象外だ」
タレント・投稿者発言の作成者、本人の実体験、広告関係、商品への購入導線、表示決定への関与を確認する。「台本を読んだだけで必ず免責される」
口頭説明、字幕、比較画像、人体図、数値、体験談、購入リンクを広告全体の審査へ集約する図

「個人の感想」は効果の裏付けにならない

健康食品の広告は、台本の一文だけで判断されない。商品名、口頭説明、字幕、画像、人体の図、体験談、数値、注記、購入リンクを合わせ、一般消費者が広告全体からどのような効果を期待するかが基準になる。疾病名を書かずに「血液サラサラ」「余分なものをすっきり」などと暗示しても、健康保持増進効果の表示から外れるとは限らない。

消費者庁の健康食品広告に関する冊子は、体験談の掲載自体を直ちに虚偽誇大表示とはしていない一方、都合のよい体験談だけを選ぶ表示や、誰でも同じ効果を得られるように見せる表示を問題例に挙げ、「個人の感想です」と添えても判断に影響しないとしている。出演者が実際に商品を使ったとしても、その経験から購入者全体の効果までは導けない。

広告主との関係を示す表示は、効果の根拠とは別の確認事項である。SNS投稿の広告表示はインフルエンサーのサプリ広告で確かめる3点、医師の肩書や試験、特許を使う表示は「医師推奨」「臨床試験」「特許成分」の根拠と限界で整理している。

表示と根拠の対応──知名度は証拠にならず

消費者庁は、効果や性能を支える合理的な根拠資料について、資料が客観的に実証された内容であることと、表示した効果が実証内容に適切に対応することを要件としている。商品の購入者から届いた感想は、効果を感じた人へ偏りやすく、それだけでは統計的な客観性を備えた資料にならない。

研究が存在しても、試験対象が一成分で、市販品の配合量や対象者が異なれば、商品全体の表示をそのまま支えない。出演者の個人的な変化、医師の推薦、特許番号、公的機関を連想させる名称も、製品と広告文の間にある根拠の空白を埋めるものではない。

広告で示す内容公開前に必要な照合
「飲んで数値が下がった」疾病の治療表現を外し、検査値に関する表現は制度上認められた表示と製品資料へ戻す。
「本人も毎日愛用」利用の事実、期間、報酬関係を確認し、個人の経験を一般的な効果へ広げない。
「研究で証明」最終製品か成分か、対象者、摂取条件、比較方法、評価項目、結果の限界を対応させる。
比較画像や人体の図画像、字幕、音声と前後の導線を含む全体が、実際以上の変化を示していないか確かめる。
健康食品広告の高リスクな効果表現と、成分量や食品表示など確認可能な情報を左右に並べた図

公開前の確認──最終版と根拠を同じ記録に残す

法令名を一覧にするだけでは、撮影後に加わる字幕や短尺版の変更を止められない。消費者庁の表示管理に関するQ&Aは、表示の根拠情報を関係部門で共有して複数の担当者が確認し、監督権限を持つ表示管理担当者を定め、事後に根拠を確認できる形で資料を保存するよう示している

  1. 一般食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品のどれかを確定し、表示可能な範囲を記録する。
  2. 口頭説明と字幕を一文ずつ分け、商品、成分量、対象者、研究結果のどの資料が支えるかを対応させる。
  3. 出演者の発言全文、利用経験、広告主との関係を確認し、事実確認の担当者を残す。
  4. 長尺版、短尺版、静止画、販売ページ、SNS投稿、ハッシュタグ、購入リンクを一つの広告として確認する。
  5. 最終版の承認者、承認日時、根拠資料、修正履歴を同じ案件番号で保存する。
  6. 公開後の差し替え権限、掲載停止の連絡先、誤認が判明した際の周知と再発防止の手順を決める。

制作途中の台本が適正でも、編集で強い字幕を加えたり、出演者が配信中に効果を言い足したりすれば、消費者が受ける印象は変わる。確認対象は脚本ではなく、実際に公開される版である。

公表資料から分かる範囲と残る空白

消費者庁の2026年1〜3月の監視結果は、健康食品を含む176商品の表示に改善指導があったことを示す。一方、著名人が出演した広告だけを抽出し、出演者、広告主、制作会社、媒体のどこに措置が及んだかを役割別に集計した国内の公的統計は、本稿の執筆時点で確認できていない。広告の出演者数から責任の傾向を数値化する資料にはならない。

個別案件を確認する際は、出演者名や報道の見出しから結論を出さず、行政機関の公表文、対象となった表示、表示主体、措置の根拠、後の取消訴訟や訂正の有無までたどる必要がある。景品表示法上の表示主体、健康増進法上の表示をする者、契約上の関係は、それぞれ別の問いである。

よくある質問

タレントが健康食品を紹介すれば違法になるのか
出演だけで違法とは決まらない。広告全体が誤認を招くか、商品を供給した事業者は誰か、本人が表示内容の決定や商品への誘引にどう関与したかを法ごとに確認する。

「個人の感想です」と表示すれば問題を避けられるのか
その注記だけでは避けられない。口頭説明、字幕、画像、体験談、数値、購入導線を合わせ、一般消費者が商品に効果があると受け取るかが判断される。

広告代理店は景品表示法の対象外なのか
商品を供給せず広告制作だけに関わる場合は原則として対象外である。販売事業者と共同で商品を供給する場合は扱いが変わる。健康増進法では、広告代理店や媒体も表示への関与などにより規制対象となり得る。

本人が本当に使っていれば効果の根拠になるのか
本人の利用経験が真実でも、全ての購入者に同じ効果が出る根拠にはならない。広告が客観的な効果を示すなら、製品、配合量、対象者、評価項目に対応した客観的資料が要る。