肺炎球菌感染症(Pneumococcal disease)は、肺炎球菌という細菌が気管支炎、肺炎、敗血症などを起こす感染症だ。厚生労働省は、肺炎球菌が気道や血流へ侵入すると重い合併症につながる場合があると説明している。
日本の高齢者向け定期接種は2026年4月、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(23-valent Pneumococcal Polysaccharide Vaccine、PPSV23)から、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(20-valent Pneumococcal Conjugate Vaccine、PCV20)へ切り替わった。「13価か23価か」という従来の比較ではなく、年齢、過去の接種区分、市町村の案内を先に確かめる制度となった。
接種後30分の息苦しさや意識消失は119番
接種後に全身のかゆみ、じんましん、喉のかゆみ、ふらつき、動悸、息苦しさが急に重なった場合は、アナフィラキシー(Anaphylaxis)が疑われる。接種会場では直ちに職員へ伝える。医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、PMDA)の患者向けガイドは、アナフィラキシーは接種後30分以内に起こることが多いため、施設で待機するか、直ちに医師へ連絡できる状態を保つよう示している。
帰宅後に急な息切れや呼吸困難、意識消失、強いけいれんが現れた場合は119番を要請する。厚生労働省の救急案内も、高齢者の急な息切れ・呼吸困難、意識障害、けいれんを、直ちに救急車を呼ぶ症状としている。高熱、止まりにくい出血、急に増えるあざなどが出た場合も、速やかに接種医療機関へ連絡する。
2026年度からPCV20を1回筋肉注射
厚生労働省は2026年4月1日、高齢者肺炎球菌の定期接種に使う製剤をPPSV23からPCV20へ変更し、PCV20を1回筋肉内へ接種すると定めた。PPSV23、15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15)、21価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV21)は、2026年4月以降の高齢者定期接種には使えない。
制度の対象は65歳の人と、60〜64歳で心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり身の回りの生活が極度に制限される人、またはヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、HIV)による免疫機能障害で日常生活がほとんど不可能な人である。「65歳以上の全員」ではない。厚生労働省は、2026年度の制度変更に伴う年齢の経過措置を設けていない。
病気による長期療養のため対象年齢中に接種できなかった人は、医学的に特例へ該当すれば、接種が可能となった日から1年以内に定期接種を受けられる場合がある。判断には医療機関と住民票のある市町村への確認が要る。
定期接種でも無料とは限らない
高齢者肺炎球菌はB類疾病の定期接種で、実施主体は市町村である。厚生労働省は、B類疾病の予防接種には費用の一部を公費で負担する場合があると説明しており、定期接種が全国一律の無料接種を意味するわけではない。自己負担額、実施期間、指定医療機関、予約方法は、市町村から届く通知か公式サイトで確認する。
2026年度の全市区町村について、自己負担額、実施期間、指定医療機関を一括で照合できる国の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。65歳の期間を過ぎる前に通知を確認し、届いていない場合は市町村の予防接種担当窓口へ問い合わせる。
「13価か23価か」を現在の制度へ当てはめない
13価、20価、23価という数字は、ワクチンが抗原として含む肺炎球菌の血清型数を示す。PCV13とPCV20は莢膜の糖鎖をキャリアタンパクに結合した結合型、PPSV23は莢膜ポリサッカライドを抗原とする多糖体型で、免疫を得る仕組みが異なる。
厚生労働省は、2024年の成人の侵襲性肺炎球菌感染症でPCV20とPPSV23が含む血清型の割合はおおむね同程度だった一方、含有血清型にはPCVのほうが高い有効性を期待できることを、PCV20へ変更した理由に挙げている。価数が多いほど一律に優れるという比較ではない。2026年度の定期接種ではPCV20のみを使うため、PCV13とPPSV23から自己判断で一つを選ぶ制度でもない。
過去の接種が定期接種の可否を変える
接種記録では、製剤名、接種日、定期接種か任意接種かを分けて確認する。厚生労働省は、PPSV23を高齢者肺炎球菌の定期接種として過去に受けた人について、65歳時のPCV20定期接種は原則として認められないとしている。制度がPCV20へ変わったことだけを理由に、全員が定期接種をもう一度受ける仕組みではない。
過去にPPSV23やPCV20などを任意接種した人は、65歳時にPCV20が不要と認められれば定期接種の対象から外れるが、不要と判断する具体的な期間基準は示されておらず、医師と相談した後に自治体が最終判断する。PCV13、PCV15、PCV20、PCV21、PPSV23のいずれかを受けた記録がある人は、接種済証や診療記録を医療機関と市町村へ示す。
20価でもすべての肺炎を防ぐわけではない
肺炎球菌には100種類を超える血清型があり、PCV20が対象とするのは20種類である。厚生労働省は、この20血清型が成人の侵襲性肺炎球菌感染症の原因の約5〜6割を占め、血清型を問わない同感染症全体への予防効果は3〜4割程度とする研究結果を示している。侵襲性感染症は、本来は菌がいない血液、髄液、関節液などから肺炎球菌が検出される状態を指す。
PMDAの患者向けガイドは、PCV20に含まれない血清型による感染症と、肺炎球菌以外の病原体による感染症は予防しないと明記している。1回接種は定期接種の回数を表すもので、「1回で肺炎を完全に防ぐ」という意味ではない。
接種部位の痛みは59.6% 持病と常用薬を予診で確認
国内外の臨床試験を合算した厚生労働省の集計では、接種部位の疼痛・圧痛が59.6%、筋肉痛が38.2%、疲労が30.3%、頭痛が21.7%、関節痛が11.6%にみられた。頻度不明の重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、けいれん、血小板減少性紫斑病が挙げられている。
明らかな発熱がある人、重い急性疾患にかかっている人、ワクチン成分やジフテリアトキソイド含有ワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある人は、その時点では接種を受けられない。心臓、腎臓、肝臓、血液の病気、免疫不全、けいれん歴、過去の接種後アレルギーがある人は、予診で接種医へ伝える。
小児・妊娠中・持病・常用薬は別に確認
PMDAは、慢性の心臓・肺・肝臓・腎臓疾患、糖尿病、免疫不全、無脾症、人工内耳、慢性髄液漏などを、肺炎球菌感染症の危険が高い状態として挙げている。ただし、承認上の接種対象と、予防接種法による高齢者定期接種の対象は同じ範囲ではない。持病があることだけで自動的に定期接種となるわけではなく、年齢と障害の程度を市町村へ確認する。
PCV20は筋肉注射である。血小板減少症、凝固障害、抗凝固療法中の人は、出血の危険と注射方法を接種前に医師へ伝える。接種のために抗凝固薬や免疫抑制薬などの常用薬を自己判断で中断しない。
妊娠中、妊娠の可能性がある人、授乳中の人は、接種の適否を医師が健康状態と必要性から判断する。小児の肺炎球菌定期接種には年齢別の回数と間隔があり、高齢者向けの「PCV20を1回」という日程を当てはめない。
よくある質問
65歳以上なら全員が定期接種の対象か
全員ではない。国の年齢要件は65歳で、66歳以上への経過措置は2026年度に設けられていない。60〜64歳では、心臓・腎臓・呼吸器またはHIVによる免疫機能に所定の重い障害がある人が対象となる。
2026年度はPCV20とPCV21のどちらを選ぶのか
高齢者肺炎球菌の定期接種に使えるのはPCV20のみである。PCV21は定期接種に含まれない。任意接種を含む個別の選択は、年齢、持病、接種歴を示して医師と確認する。
以前にPPSV23を受けていてもPCV20を定期接種できるか
一律には決まらない。PPSV23を過去に定期接種として受けた人は、PCV20の定期接種が原則として認められない。任意接種だった場合は不要と判断する明確な期間基準がなく、医師への相談後に自治体が最終判断する。
「20価」は肺炎を20種類防ぐという意味か
肺炎の種類ではなく、抗原として含む肺炎球菌の血清型が20種類という意味である。対象外の血清型や、肺炎球菌以外の病原体による肺炎は予防しない。
定期接種なら無料か
無料とは限らない。高齢者肺炎球菌はB類疾病で、公費負担と自己負担額、実施期間、指定医療機関は市町村ごとに異なる。居住地の通知か公式サイトで確認する。
出典・参考資料
- 高齢者の肺炎球菌ワクチン(厚生労働省)2026年度の定期接種対象、PCV20への変更、接種方法、効果の限界、副反応、接種前の注意
- 主なご質問への回答(高齢者に対する肺炎球菌ワクチン)(厚生労働省)2026年度に経過措置を設けない方針、過去の定期・任意接種歴がある人の扱い、PCV21の位置づけ
- 沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン ワクチン接種を受ける人へのガイド(医薬品医療機器総合機構)対象となる血清型、効果の範囲、接種前に確認する状態、接種後30分の注意、重大な副反応
- 予防接種・ワクチン情報 よくある質問(厚生労働省)B類定期接種の公費負担、接種前後の確認、副反応が疑われる場合の相談
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)高齢者の急な息切れ、呼吸困難、意識障害、けいれんがある場合の救急要請