成人用三種混合ワクチン(Tdap)は、破傷風、ジフテリア、百日咳の抗原を組み合わせた青年・成人向け製剤だ。JIHSの2026年資料は、Tdapは国内で製造販売承認されておらず、国内では三種混合ワクチン(DPT/DTaP)を使うと説明している

このため、日本の成人が確認する「10年」は、Tdapを一律に接種する周期ではない。国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security、JIHS)の2026年6月1日版成人向け一覧は、DPT、ジフテリア・破傷風混合トキソイド(DT)、破傷風トキソイドを任意接種に位置づけている。目的、基礎免疫、最終接種日、妊娠、外傷の有無を分けて判断する必要がある。

接種歴を調べる出発点は、母子健康手帳、予防接種済証、学校・勤務先・医療機関に残る記録だ。年齢別の制度全体は成人の定期接種と任意接種を整理した記事で確認できる。

接種後30分の呼吸困難と、傷の後の開口障害は救急

ワクチン接種後、特に30分以内に、全身の強いかゆみやじんましん、まぶた・唇の腫れ、持続するせき、ぜーぜーする呼吸、息苦しさ、繰り返す嘔吐、顔色不良、強いふらつき、呼びかけへの反応低下が急に出た場合は、アナフィラキシー(Anaphylaxis)が疑われる。接種会場では直ちに職員へ伝え、帰宅後に呼吸症状や反応低下が出た場合は119番へ連絡する。医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、PMDA)の2026年改定マニュアルは、注射薬による症状は概ね30分以内に現れ、医療機関外で息苦しさやショック症状が出た場合は救急車を呼ぶとしている

けがの後に口が開きにくい、物を飲み込みにくい、首や体がこわばる、痛みを伴う筋けいれんが出た場合は、直ちに救急診療を受ける。呼吸が苦しい場合は119番へ連絡する。JIHSは破傷風の潜伏期間を3〜21日、平均10日とし、開口障害や嚥下困難から呼吸困難へ進む場合があると説明している。傷が閉じたように見えることは、これらの症状を待ってよい理由にならない。

成人が診察室で上腕にワクチン接種を受ける様子(イメージ)

破傷風は「さび」ではなく傷と接種歴で判断

JIHSは、破傷風菌が芽胞の状態で土壌などに広く存在し、傷から入って酸素の少ない環境で増えると説明している。金属のさび自体が病原体ではない。さびていない農具による深い刺し傷や、土で汚れた傷にも危険があり、さびた物による浅い傷も汚染、深さ、異物、組織損傷を確認する。

JIHSは、土壌で汚染された傷、壊死組織がある傷、凍傷、熱傷、挫滅創、剝離創を破傷風リスクの高い創傷としている日本感染症学会の2026年資料も、汚染創、挫滅創、熱傷、咬傷を危険の高い傷として分けている。深い刺し傷や、洗っても異物が残る傷は家庭で長く観察せず、医療機関へ傷の状態と接種歴を伝える。

成人の追加──基礎免疫後は10年ごとの任意接種

日本感染症学会が2026年に更新した災害時の感染症資料は、破傷風の基礎免疫がある成人に10年ごとの追加接種を任意接種として推奨している。この10年は破傷風成分の追加目安であり、「Tdapを10年ごと」と同じ意味ではない。

基礎免疫を終えた記録がなければ、最後の1回から何年たったかだけでは決まらない。JIHSは、破傷風を含むワクチンの定期接種が1968年に始まり、1968年より前に生まれた未接種者に患者が多いと説明している。接種歴が不明な人は、接種済みとみなさず、年代と残っている記録を医師へ示す。

受傷後の追加──清潔な傷は10年、汚染創は5年

基礎免疫3回を終えた人では、清潔で小さな傷なら最終接種から10年未満は外傷を理由とする追加は不要で、10年以上なら破傷風トキソイドを1回追加する。土で汚れた傷、深い傷、壊死・挫滅・熱傷など危険の高い傷では境界が5年に短くなり、5年以上なら1回追加する。JIHSの創傷処置は、清潔な小創では10年、危険の高い創傷では5年を接種歴確認の境界に置いている

JIHSの外傷後処置では、未接種、3回未満、接種歴不明の人は基礎免疫の接種対象となり、危険の高い傷では抗破傷風人免疫グロブリン(Tetanus Immune Globulin、TIG)も検討対象となる。重い免疫不全がある人は接種歴にかかわらず別の判断が要る。

受傷直後は出血を圧迫し、清潔な流水で泥や異物を洗い流して清潔に覆う。ワクチンの相談は洗浄や創傷処置の代わりにならない。深い傷、異物が残る傷、咬み傷、止まらない出血は、小さな切り傷の止血・洗浄手順と受診を急ぐ兆候にある家庭処置の範囲から外れる。

妊婦の百日咳対策──Tdapではなく国内のDPT

妊婦への百日咳含有ワクチンは、母体で作られた抗体を胎盤から胎児へ移す母子免疫を目的とする。日本小児科学会の現行スケジュールは、DPTを妊娠27週または28週から36週までに妊娠ごと1回としている。27週は米国のTdap推奨時期、28週は国内の妊婦DPT臨床研究が始めた時期を根拠とする。

日本小児科学会は、妊娠後期のDPT接種で胎児への抗体移行を確認した一方、乳児の百日咳重症化を防ぐ効果はまだ証明されていないと明記している。抗体が移ることと、乳児の入院や重症化が減ることは同じ評価項目ではない。

JIHSの2026年整理は、妊婦へのDPTを任意接種として実施されつつある対策に含めている。妊娠週数だけから接種可否を決めず、過去の接種後反応、アレルギー、持病、治療内容、出産予定を産科と接種医へ伝える。国内未承認のTdapに関する海外勧告を、国内DPTの効果や安全性へ読み替えない。

妊婦または新生児と暮らす成人がワクチン接種を受ける様子(イメージ)

乳児を守る──家族の「包囲」だけで終えない

厚生労働省は、成人の百日咳ではせきが長期間続き、鼻咽頭や気道の分泌物による飛沫感染と接触感染で広がると説明している。軽いせきに見えても、乳児や妊婦の近くではマスク、せきエチケット、手洗いを続け、せきが長引けば医療機関を受診する。

JIHSは、乳児の百日咳対策では生後2カ月から定期接種できる5種混合ワクチンを最優先とし、乳幼児や妊婦の周囲では基本的な感染対策と、せきが続く青年・成人の受診を求めている。妊婦や家族の接種は、乳児本人の定期接種開始を遅らせる理由にならない。

JIHSの2026年整理では、妊婦の家族への追加接種は乳児重症化予防をめぐる六つの検討案の一つに残り、導入済みまたは任意実施中とされた対策には含まれていない。父親、祖父母、同居家族の全員へ一定間隔でDPTを接種する全国共通の公的スケジュールは、本稿の執筆時点で確認できていない。家族の接種歴、乳児との接触、医療・保育などの仕事、地域の流行状況を接種医へ伝え、個別に判断を受ける。

小児、妊婦、持病・常用薬がある人

小児。成人の10年追加を当てはめない。乳児は生後2カ月から5種混合ワクチンの定期接種を始め、年齢に応じた回数を小児科と自治体の案内で確認する。家族が接種したことを理由に、乳児の定期接種を省かない。

妊婦。DPTは妊娠27または28〜36週が学会スケジュールの目安だが、週数だけで自己判断しない。産科へ接種歴、過去の副反応、アレルギー、持病と常用薬を伝える。妊娠ごと1回という目安は、同じ妊娠中に繰り返し接種する意味ではない。

免疫不全や常用薬がある人。重い免疫不全では、危険の高い傷に対するTIGの要否が接種歴だけでは決まらない。抗凝固薬など注射部位の出血に関わる薬も含め、お薬手帳を接種医へ示す。接種のために処方薬を自己判断で中断しない。

よくある質問

成人はTdapを10年ごとに接種するのか
日本ではTdapは未承認で、成人全員を対象とする定期接種ではない。基礎免疫がある成人には、破傷風成分を10年ごとに追加する任意接種が推奨されている。実際の製剤は接種歴と目的から医師が選ぶ。

さびていない物で負った傷なら破傷風の心配はないのか
さびの有無では決まらない。土で汚れた深い刺し傷、壊死や挫滅を伴う傷、熱傷、凍傷は危険が高い。流水で洗い、接種記録を持って医療機関へ相談する。

受傷してから破傷風の接種を思い出しても遅いのか
遅いと自己判断しない。傷の洗浄と診察を受け、基礎免疫の回数、最終接種日、傷の汚染度から追加接種とTIGの要否を医師が判断する。

妊婦は妊娠ごとにDPTを接種するのか
日本小児科学会のスケジュールは妊娠27または28〜36週に妊娠ごと1回としている。ただし、乳児の重症化予防効果は国内で未証明であり、妊娠週数、接種歴、持病を産科で確認する。

新生児を迎える家族は全員DPTを接種するのか
家族全員に一律の接種間隔を示す全国共通の公的スケジュールは確認できていない。生後2カ月からの乳児定期接種、妊婦の母子免疫の相談、家族のせき対策を先に確実にし、接触状況と接種歴を医師へ伝える。