北アイルランドの元DUP党首ジェフリー・ドナルドソンが性犯罪18件で有罪評決を受けた後、二つの政党、議会、公務員組織が別々の検証を進めている。犯罪被害者委員は、調査の重複と被害者が同じ経験を繰り返し説明する負担を避けるため、英国政府が単一の独立調査を設けるよう求めた。

公式発表は「前月に書簡」、8月19日時点で未回答

北アイルランドの犯罪被害者担当コミッショナー(Commissioner Designate for Victims of Crime)を務めるジェラルディン・ハンナ(Geraldine Hanna)は、政党や公的機関を横断する検証を求めている。8月19日付の公式発表によると、ハンナは前月に北アイルランド相(Secretary of State for Northern Ireland)へ書簡を送ったが、同日時点で返答も対応もなく、単一で調整された独立調査を改めて要請し、英国下院議員時代のウェストミンスターでの行為も適切に検証すべきだとした

調査で確かめるべき対象として挙げたのは、ドナルドソンの行為について誰が何を把握していたか、政治・行政機関が懸念をどう扱ったか、被害者保護と再発防止へ何を改めるかの3点だ。手法はトラウマに配慮したもの(trauma-informed)とし、対象を絞ったうえで、短くても現実的な期間を設定するよう求めた。

北アイルランド省(Northern Ireland Office)はPA通信に、複数の独立した検証がすでに進んでおり、北アイルランド相が政府を代表して書簡へ正式回答すると説明した。ただし、一本化を受け入れるかは明らかにしていない。

四つの手続き、対象と実施主体は別々

民主統一党(Democratic Unionist Party、DUP)は、INEQE Safeguarding Groupにセーフガーディング(虐待防止・保護)を検証する独立調査を委託した。付託事項は、党内の誰がいつ、どのような情報を得て何をしたか、セーフガーディングと通報の仕組みが機能したかを対象とし、刑事犯罪の捜査は警察などの法定機関に委ねると定める。調査手法や報告書作成はINEQEが管理する一方、結果をどこまで公表するかはDUPが決める。

ドナルドソンが2003年まで所属したアルスター統一党(Ulster Unionist Party、UUP)は、党内の初期確認では正式・非正式の苦情や懸念を見つけなかったとした。UUPはその後、在籍中の情報や懸念を秘密を保って外部機関へ伝える手続きと、党のセーフガーディング体制の検証を設ける方針を示した

北アイルランド議会の検証は、ドナルドソンが議員だった2003~2010年と、英国下院議員として議事堂を訪れた期間の虐待や不適切な行為を対象とする。議会関係者らからの情報を8月21日まで受け付け、議会サービス局長(Director of Parliamentary Services)が8月28日までに事務総長(Clerk/Chief Executive)へ報告する。警察などへの照会が必要な事案や、議会の規程に及ぼす影響も確認する。

北アイルランド公務員組織(Northern Ireland Civil Service、NICS)の対象範囲確認(scoping exercise)は、ドナルドソンが旧首席大臣・副首席大臣府(Office of the First Minister and deputy First Minister、OFMdFM)のジュニア相(Junior Minister)を務めた2008年2月から2009年7月までに対象を限る。現職と元職員から情報を受け付け、上級人事・法務担当者が9月末までの終了を見込んでいる。

ストーモントの議事堂内にあるグレートホール

一本化の焦点は機関をまたぐ情報

ハンナは、管轄と責任者が異なる手続きが並ぶと、作業の重複や混乱が生じ、機関をまたぐ問題が抜け落ちる恐れがあると指摘した。被害を申告した人が同じ経験を複数の手続きで繰り返し説明すれば、追加の負担にもなる。単一調査の要請は、各機関内の対応を個別に見る現在の枠を越え、政治と行政を通じた情報の流れを一つの視野に収める狙いである。

一方、8月19日の公式発表は、調査の法的根拠、資料提出を求める権限、責任者、報告書の公開方法を示していない。UUPは7月7日、警察、治安・情報機関、政府機関、政党が持つ資料を調べる権限を備えた全面的な独立調査を首相と北アイルランド相に求めた。ハンナの要請と対象が重なる部分はあるが、同じ制度設計を指すとの政府説明はない。

クリス・ブライアント(Chris Bryant)は7月20日に英国政府の北アイルランド相へ就任し、北アイルランド省の閣僚業務全体に加え、自治政府との関係、政治的安定、国家安全保障などを担当する。北アイルランド自治政府の閣僚とは別の英国政府の役職であり、今回の要請はこの国務相に向けられている。

有罪評決への上訴書類を提出

ニューリー刑事法院(Newry Crown Court)の陪審は6月22日、1985~2008年に当時子どもだった女性2人に対する、強姦1件を含む性犯罪計18件でドナルドソンに有罪の評決を下した。同氏は勾留され、9月25日に量刑前の手続きが予定されている。

ドナルドソンの弁護士は7月17日、控訴院(Court of Appeal)の担当部署へ上訴書類を提出したと明らかにした。上訴審が開かれるか、評決が維持されるかは決まっていない。制度対応を調べる四つの手続きと、刑事事件の上訴・量刑は別の過程である。

よくある質問

単一の独立調査は実施が決まったのか
決まっていない。ハンナが英国政府に設置を要請し、北アイルランド省は正式回答を予告した段階だ。実施主体、権限、日程、公開方法は公表されていない。

四つの手続きは何を調べるのか
DUPとUUPはそれぞれ党内の情報とセーフガーディング、北アイルランド議会は議事堂内での行為、NICSはドナルドソンがジュニア相だった2008年2月から2009年7月までの職員への行為を調べる。対象期間と情報提供先は共通していない。

有罪評決は上訴されたのか
弁護士は上訴書類を提出したと説明している。上訴が認められるかの判断と審理結果は出ておらず、量刑前の手続きは9月25日に予定されている。

なぜ英国政府の北アイルランド相が要請先なのか
北アイルランド相は英国政府の閣僚として、北アイルランド省、自治政府との関係、政治的安定、国家安全保障を所管する。政党や自治議会、公務員組織の個別手続きとは異なる立場にある。