米国大統領エイズ救済緊急計画(President's Emergency Plan for AIDS Relief、PEPFAR)は、2003年の発足から世界のHIV予防、検査、治療を支えてきた。米国の対外援助が2025年に急減した後、サービスを担う診療所や地域団体では閉鎖と事業縮小が相次いだ。2026年7月にブラジルのリオデジャネイロで開かれた第26回国際エイズ会議(AIDS 2026)は、科学の進展より先に、その成果を現場へ届ける資金の細りを問う会議となった。

主催する国際エイズ学会(International AIDS Society、IAS)の公式案内によると、会議は7月26〜31日にリオデジャネイロとオンラインで開かれ、テーマは「Rethink. Rebuild. Rise.」だった。IASは、2025年初めの米国援助停止がPEPFARを含む資金危機を引き起こしたと説明している

援助国のHIV資金、1年で25%減

資金の縮小は米国の一事業にとどまらない。米医療政策研究機関KFFと国連合同エイズ計画(Joint United Nations Programme on HIV/AIDS、UNAIDS)の共同集計では、援助国政府が低・中所得国のHIV対策へ拠出した金額は2024年の83億ドルから2025年の62億ドルへ減った。21億ドル、率にして25%の減少で、資金拡大が始まって以降では最大の年間減少だった。米国以外の援助国による拠出も2011年の32億ドルから2025年の16億ドルへ半減しており、一国の政策変更を他国がすぐ補える構造にはなっていない。

UNAIDSが会議に合わせて公表した特別報告では、2025年の新規HIV感染は120万人、エイズ関連死は57万人だった。世界でHIVとともに暮らす4100万人のうち、約900万人が治療を受けていなかった。死者数は2010年から減ったものの、新規感染が増えた地域と国もあり、資金減が予防や地域サービスをさらに弱める恐れがある。

1714拠点の閉鎖──実施団体調査が示す断絶

米エイズ研究財団amfARは、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院などとPEPFAR実施団体の調査を行った。対象は46カ国の166組織で、支払いの打ち切りや遅延後に、公共医療施設、移動診療所、立ち寄り型施設、HIV専門施設を含む少なくとも1714拠点が全面閉鎖した。回答組織のほぼすべてが失った資金を別の財源で埋められなかった。予防事業への支出は2024会計年度から2025会計年度に51%減り、実施団体の43%が少なくとも一つの予防活動を恒久的に停止した。

ただし、1714という数字は実施団体への調査から積み上げたもので、全世界の行政記録を合算した統計ではない。NPRの取材に対し、米国務省はamfARの報告を確認できず、調査方法に問題があると反論した。一方、同省は政権がPEPFARの戦略を明確にしたとの説明にとどめ、閉鎖数に代わる集計は示さなかった。閉鎖の規模を読む際には、調査対象の範囲と政府側の異議を併記する必要がある。

机上に置かれた医療器具と資金資料(イメージ)

ザンビア、薬を維持しても予防網に亀裂

資金停止後の混乱が具体的に表れた国の一つがザンビアだ。NPRは、北部の鉱業都市キトウェで米国際開発庁(USAID)の資金を受けていた診療所が2025年1月に閉鎖し、無料のHIV治療薬を受け取りに来た住民が無人の施設を訪れる状態になったと報じた。

76 Crimesが紹介した現地取材では、ザンビア保健省の推計として、2025年1月に治療を受けていた130万人のうち、混乱のなかで約10万人が服薬を中断し、約4万人が治療に戻っていなかったとされる。政府は治療薬の供給を優先し、2885の治療施設の大半を維持したが、感染者の接触者をたどる検査、地域での薬の配布、受診から離れた人への訪問といった予防・継続支援は縮小した。

ムポングウェの病院では、前年に月1〜2件だった進行したエイズの症例が2026年1月と2月に各28件報告されたと同じ取材は伝える。ただし、これは一地域の医療者が示した数字であり、全国的な増加率を示す統計ではない。検査自体が減れば、新規感染の全体像も見えにくくなる。

UNAIDS再編案、廃止と機能移管を検討

資金危機は、各国の事業を調整するUNAIDSの組織にも及んだ。国連改革「UN80」の2026年4月時点の資料は、UNAIDSを廃止し、その能力と専門知識を国連開発システムの関係機関へ移す移行計画を検討事項に掲げた。作業部会の最終案を10月にUNAIDS事業調整理事会が検討し、その結果を11月に国連経済社会理事会などへ送る工程である

これはUNAIDSの活動がすでに終了したことを意味しない。廃止後にどの機関が国別データの集約、政策調整、市民社会の参加を引き継ぐのかも決まっていない。HIV対策の資金が細る局面で調整機関まで組み替える案が進むことが、AIDS 2026で示されたもう一つの不確実性である。

数字から読めること、読めないこと

援助国の拠出額は、資金危機の大きさを示す。実施団体調査は、支払い停止が診療所や地域サービスにどう伝わったかを示す。ザンビアの取材は、治療薬の供給を守っても、検査や訪問支援が削られれば治療網に穴が開く過程を映す。三つは同じ現象を別の範囲から測った数字であり、対象も集計方法も異なる。

日本国内では、今回の米国資金縮小がHIV診療や検査体制へ及ぼした影響を示す公的統計を、本稿の執筆時点で確認できていない。低・中所得国の閉鎖拠点数を日本の医療体制へそのまま当てはめることもできない。会議後に問われるのは、閉鎖数の更新に加え、停止した検査や地域支援が各国の国内財源でどこまで再開したかである。

よくある質問

PEPFARとは何か
米国が2003年に始めた世界規模のHIV対策事業で、予防、検査、治療、ケアを各国の政府や実施団体を通じて支援してきた。2025年の米国対外援助停止後、支払いや事業内容に大きな変更が生じた。

世界で1714の診療所が閉鎖したのか
1714はamfARなどが46カ国のPEPFAR実施団体166組織を調べ、全面閉鎖を確認したHIVサービス拠点の合計だ。診療所のほか、移動診療所や立ち寄り型施設などを含む。全世界の行政統計ではなく、米国務省は調査方法に異議を示している。

UNAIDSの廃止は決まったのか
決まっていない。国連改革案はUNAIDSの廃止と機能移管に向けた計画を検討しているが、2026年11月に経済社会理事会などの判断を仰ぐ工程が残る。