米メディケア・メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare & Medicaid Services、CMS)は、若年層への性別肯定医療(gender-affirming care)の給付を制限する最終規則を8月13日付の連邦官報に掲載した。最終規則は2026年10月13日に施行され、メディケイドでは18歳未満、児童医療保険プログラム(Children's Health Insurance Program、CHIP)では19歳未満への対象処置を給付から外す

メディケイドは低所得者らを対象に連邦政府と州が共同で財源を負担し、州が運営する制度だ。CHIPは、メディケイドの所得基準を上回る低所得世帯の子どもを主な対象とする。今回の規則は医療行為を全米で一律に禁止する法律ではない。連邦負担を伴う両制度の給付範囲を狭め、各州に制度文書の変更を求める規則である。

対象年齢はメディケイドとCHIPで異なる

CMSが規則中で「性別を否定する処置」(sex-rejecting procedures)と呼ぶ対象には、性別移行を目的とする思春期抑制薬、交差性ホルモン療法、外科的処置が含まれる。政権側が採用したこの名称は、性別肯定医療を支持する医療団体や権利擁護団体が用いる表現とは異なる。

年齢の線引きは制度ごとに違う。メディケイドでは18歳未満への支払いが禁じられ、CHIPでは19歳未満が対象となる。このため、18歳の加入者はメディケイドなら今回の給付制限の対象外だが、CHIPでは対象に入る。

規則は薬剤や手術の種類だけで給付を切る設計ではなく、処置の目的を基準とする。医学的に確認された性分化疾患の治療、性別移行以外を目的とする処置、対象処置によって生じた合併症の治療は除外される。心理療法やカウンセリングなどの精神保健サービスも、引き続き連邦負担の対象となる。

医療文書と診療記録の用紙(イメージ)

6カ月の移行措置は交差性ホルモン療法だけ

施行日の10月13日に交差性ホルモン療法を受けているメディケイドまたはCHIPの加入者について、州はその薬剤への連邦負担を最長6カ月請求できる。最長の場合でも期限は2027年4月となる。提案段階にはなかった措置で、治療の急な中断を懸念する意見を受けて最終規則に加えられた。

この移行措置は思春期抑制薬には適用されない。最終規則は、6カ月という期間は臨床上の手順を定める指針ではないと明記している。給付上の期限と、個々の患者に対する医療上の判断は別の問題である。

州は、連邦負担付きのメディケイドやCHIPの外で州独自財源を充てられる。民間保険や自己負担による支払いも規則の禁止対象ではない。したがって、施行後の受療可能性は州法と州予算、加入する保険によって変わる。

反対意見は9割超 医学界とも評価が対立

CMSには提案規則に対して約1万1000件の意見が寄せられた。最終規則によると、賛成は10%未満、反対は90%超だった。反対意見には、治療の継続性、医師と患者の関係、低所得世帯への偏った影響、連邦政府の法的権限をめぐる懸念が含まれた。

CMSは、未成年への薬物・外科的介入は長期的な有効性を示すデータが足りず、潜在的な害があるとの判断を示した。これに対し、米国医師会(AMA)は2026年6月、性別肯定医療には社会的、内科的、外科的な医療が含まれ、医師、患者、必要な場合は法定代理人が共同で意思決定するとの方針を採択し、研究資金の拡充と復元を求めた。同じ医療をめぐって、行政機関と主要医療団体の評価は一致していない。

AP通信によると、GLBTQ Legal Advocates & Defendersの法務責任者は親が子どもの医療を決める際の障壁になると批判し、法廷で争われるとの見通しを示した。Human Rights Campaignも、トランスジェンダーの若者と家族を威圧する政策だと反発した

3550万人は「影響を受ける人数」ではない

CMSは、メディケイドとCHIPが合わせて全米の子ども3550万人を保障すると説明している。この数字は両制度に入る子どもの総数であり、性別肯定医療を受けている加入者や、今回の規則で給付を失う加入者の数ではない。

最終規則は、2017〜2021年に6〜17歳の12万人超が性別違和(gender dysphoria)と診断され、4700人超が思春期抑制薬、1万4000人超がホルモン療法を始めたとする過去の分析を引用した。ただし、これは現在のメディケイドとCHIPの加入者に限った人数ではない。CMSの影響分析は2023年の保険請求額を基に支出減を推計したが、直接影響を受ける加入者の実人数は示していない。

既存訴訟と最終規則は別

トランプ政権による若年層の性別肯定医療への制限は、すでに複数の裁判で争われている。ワシントン州の連邦地裁は、医療提供を理由に連邦資金を停止する大統領令の一部を差し止めた。オレゴン州の連邦地裁は2026年4月、対象処置が専門的な医療基準を満たさないとした保健福祉長官の声明を無効とした。

CMSは、今回の最終規則は別の法的権限に基づくため、これらの裁判所命令には抵触しないとの立場だ。最終規則そのものを対象とした訴状の公的資料は、8月13日時点で確認できていない。先行訴訟を、そのまま今回の規則への提訴と扱うのは正確ではない。今後の新たな訴訟や差止めにより、10月13日の施行範囲が変わる余地は残る。

日本の制度に直接の変更なし

今回の規則が対象とするのは米国のメディケイドとCHIPで、日本の公的医療保険には直接適用されない。日本の制度も米国と同じだと読み替えることはできない。日本精神神経学会は「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」第5版を公表し、性別適合手術は2018年から保険適用が認められる一方、ホルモン療法は保険適用外だと説明している。18歳未満でホルモン療法を開始する場合は、所定の報告書を同学会へ提出する手続きも定める

日本政府が米国の最終規則を受けて国内制度を変更すると公表した資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。日本への影響を論じる際は、米国の州・連邦共同負担の仕組みと、日本の診療報酬や学会指針を分けて見る必要がある。

よくある質問

最終規則はいつ、誰に適用されるのか
2026年10月13日に施行される。対象年齢はメディケイドが18歳未満、CHIPが19歳未満である。

性別肯定医療そのものが全米で禁止されるのか
この規則が直接制限するのは、メディケイドとCHIPによる対象処置への支払いと連邦負担である。州独自財源、民間保険、自己負担による支払いまで一律に禁じる内容ではない。

継続中の治療には一律6カ月の猶予があるのか
一律ではない。施行日に交差性ホルモン療法を受けている加入者について、連邦負担を最長6カ月続ける措置である。思春期抑制薬は対象に含まれない。