パキスタンの実効支配下にあるカシミールでは、携帯電話のデータ通信と固定回線のインターネットが6月5日から広い範囲で止められた。7月27日に始まった地方議会選挙をめぐって抗議者と治安部隊が衝突したが、通信遮断と現地への立ち入り制限により、死傷者数を含む状況の独立検証は難しい。

アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)は、選挙初日のラワラコットで治安部隊が抗議者へ致死的な力を使ったとの報告について、迅速で独立した透明性のある調査を求めた。当局には通信の回復と、報道機関や独立監視員の現地入りも要求した。

死者数は一致せず 遮断が検証を阻む

衝突の規模をめぐる説明には隔たりがある。ジャンム・カシミール統合人民行動委員会(Jammu and Kashmir Joint Awami Action Committee、JAAC)は、7月27日に治安部隊の発砲で19人が死亡し、数十人が負傷したと主張した。一方、警察が公表したのは警官2人の負傷だった。アムネスティは、選挙前の一連の衝突でも抗議者34人と警察・準軍事組織の6人が死亡したとの報道を紹介しているが、独自の確定値とは位置づけていない。

JAACは6月5日、現地の反テロ法に基づく禁止組織に指定された。アルジャジーラの現地報告では、同じ日から携帯データ通信と固定回線のインターネットが止まり、銀行やATM、送金、学校の試験、商店の受発注に支障が広がった。道路封鎖も物資の移動と住民の域外移動を難しくした。

スマートフォンに圏外表示が出た通信遮断の場面(イメージ)

記者2人の所在不明 警察は拘束を認めず

記者保護委員会(Committee to Protect Journalists、CPJ)によると、独立系記者ラジ・タヒル氏とムハンマド・サイフ氏は8月1日、イスラマバードの事務所から警察官の制服を着た男らに連れ去られた。この経緯は同僚と匿名の記者の証言に基づく。イスラマバード警察は2人の拘束を認めず、CPJが5日に公表した時点で所在は分かっていなかった。

2人はJAACの抗議とカシミール情勢を発信していた。CPJは当局に対し、所在と法的根拠を明らかにし、適正手続きを保障するよう求めた。連れ去りに公的機関が関与したかは確定しておらず、「警察による強制失踪」と断定できる段階ではない。

別の独立系記者サイード・ファルハド・アリ・シャー氏は、ラワラコットの抗議を取材した後、6月20日にバーグ地区で拘束された。CPJによると、捜査開始に必要な事件登録も裁判所への出廷もないまま拘束が続き、7月28日にハンガーストライキを始めた。健康状態について、その後の公表情報は確認されていない。

アルジャジーラへの接続制限 命令の有無は不明

CPJは、カシミール情勢を報じたアルジャジーラのウェブサイトへの接続がパキスタン国内で制限されたと報告した。パキスタン情報省は同社の選挙報道を「扇情的な報道」と批判したが、同サイトを対象にした正式な遮断命令や技術的な実施主体は、公表資料から判然としない。

通信網の停止、現地入りの許可制、記者の拘束が同時に進めば、当局と抗議側の主張を第三者が突き合わせる手段は細る。日本政府が一連の衝突、通信遮断、記者拘束について個別の見解を示した公表資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

よくある質問

通信遮断はいつ始まったのか
携帯データ通信と固定回線のインターネットは6月5日から広い範囲で停止した。アムネスティと現地報道は、選挙後も遮断が続いたと報告している。

選挙をめぐる衝突で何人が死亡したのか
確定していない。JAACは7月27日に19人が死亡したと主張したが、警察の発表は警官2人の負傷にとどまり、報道機関が伝える累計にも幅がある。

所在不明の記者2人は当局に拘束されたのか
CPJは警察官の制服を着た男らが連れ去ったとの証言を報告したが、イスラマバード警察は拘束を認めていない。公的機関の関与は確定していない。