夜間のせきは、眠りを妨げる症状である一方、時間帯だけで原因を特定できない。かぜの後に残るせきのほか、喘息、鼻や副鼻腔から分泌物が喉へ流れる後鼻漏、胃食道逆流症、心不全、一部の薬の副作用が候補になる。
日本呼吸器学会は、夜間や早朝のせきについて、喘鳴を伴う喘息、乾いたせきが続く咳喘息、胸やけを伴う胃食道逆流症、仰向けで悪化する後鼻漏、横になった後に息苦しさが出る心不全を挙げている。まず呼吸と全身状態を確認し、救急の兆候がなければ原因に合った対応を選ぶ。
先に確認する救急の兆候
急な息切れや呼吸困難、胸の中央を締め付けられるような痛みが2〜3分続く、顔色が明らかに悪い、意識がはっきりしない場合は119番へ連絡する。厚生労働省の救急車利用案内は、急な息切れ・呼吸困難と、胸の中央の締め付けや圧迫が2〜3分続く状態を、迷わず救急車を呼ぶ目安に示している。
血の混じった痰、胸痛、息のしにくさ、急速に悪化する激しいせきは、通常の診療時間まで放置せず医療機関へ相談する。血の量が多い、血痰と呼吸困難や胸痛が重なる場合は119番を優先する。英国の国民保健サービス(NHS)は、血痰、胸痛、呼吸のしにくさ、急速に悪化するせきを早期の医療相談が必要な兆候に挙げ、せきが3週間を超えた場合も受診を求めている。
上体を起こす姿勢が対象になる場合
胸やけ、酸っぱいものが上がる感覚、食後や横になった後のせきがある成人では、胃食道逆流が関係する可能性がある。この場合は、上体が半ば起きる姿勢にするか、ベッドの頭側を持ち上げる方法を試す余地がある。頭だけを高くして腹部が折れ曲がる姿勢は避け、背中から上を支える。
英国のCambridge University Hospitalsは、成人の胃食道逆流症について、夜間症状を防ぐ方法として半座位で眠るか、ベッドの頭側を数インチ上げるよう案内している。夕食直後に横にならないことも同じ資料が示す。ただし、この姿勢調整は逆流に対する助言であり、夜間のせき全般への治療ではない。
横になるとせきと息苦しさが出て、起き上がると楽になる場合は、寝具の工夫だけで経過を見ない。足のむくみや短期間の体重増加を伴う場合も循環器の評価が要る。日本呼吸器学会は、こうした経過では心不全の可能性を挙げている。
救急の兆候がない時の自宅対応
水や温かい飲み物を少しずつ取り、たばこの煙や香りの強い噴霧剤など、せきを誘う刺激を避ける。
1歳以上では、蜂蜜を入れた温かい飲み物が選択肢になる。ただし、効果を示す根拠は限られ、原因を治すものではない。NHSは、せきの自宅対応として休息と十分な水分を案内し、温かいレモン蜂蜜飲料には症状を和らげる可能性があるものの、根拠は限定的だと明記している。
せきが3週間を超える、夜間や運動時に繰り返す、体重が理由なく減る、発熱や強い倦怠感が続く場合は受診する。日本呼吸器学会は、3週間以上続く乾いたせきの原因として感染症、喘息、咳喘息、胃食道逆流症、一部の降圧薬の副作用などを挙げ、長引いて心配な場合は呼吸器内科の受診を勧めている。
子ども、妊婦、持病や常用薬のある人
子ども。 呼吸が苦しそう、唇の色が悪い、息を吸う時に強い音がする、水分や唾液を飲み込めない場合は救急対応を急ぐ。NHSは、子どもが呼吸しにくい場合は直ちに救急部門へ向かうよう求め、6歳未満の市販せき・かぜ薬は医師または薬剤師の指示がない限り与えないよう案内している。日本で市販薬を使う場合は、年齢制限を含む添付文書を確認し、判断に迷えば小児科医または薬剤師へ相談する。
1歳未満の乳児には蜂蜜や蜂蜜入りの飲料・食品を与えない。厚生労働省は、蜂蜜に混入する可能性があるボツリヌス菌が乳児の腸内で増えて毒素を出すため、1歳未満には加熱した蜂蜜も与えないよう注意している。
乳児の寝具を傾けたり、枕やクッションで上体を固定したりしない。こども家庭庁は、1歳になるまではあおむけに寝かせ、柔らかいクッションや傾斜のあるマットレスを避け、硬く平坦な寝具を使うよう案内している。せきで眠れない乳児は、成人向けの姿勢を当てはめず小児科へ相談する。
妊婦、授乳中の人。 市販のせき止め、総合感冒薬、漢方薬を使う前に、妊娠週数や授乳の状況を医師または薬剤師へ伝える。処方薬も自己判断で中止しない。厚生労働省事業として設置された国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」は、妊娠中、妊娠希望、授乳中の薬に関する相談を受け付けている。
持病や常用薬のある人。 喘息、慢性の肺疾患、心臓病、免疫機能の低下がある人は、一般成人向けの自宅対応だけで経過を見ない。一部の降圧薬などは乾いたせきの原因になるが、薬を止める判断は処方した医師が行う。薬の開始時期とせきが始まった時期を記録し、お薬手帳とともに伝える。
妊婦、持病や常用薬のある人に共通して適用できる夜間のせきの対処をまとめた国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。症状、妊娠週数、病名、服用薬によって対応が変わるため、一律の手順は示せない。
よくある質問
夜のせきでは枕を増やせばよいのか
一律には勧められない。逆流が疑われる成人では、頭だけでなく背中から上を支えて半座位にするか、ベッドの頭側を上げる方法が候補になる。乳児には傾斜のある寝具やクッションを使わない。
どのような時に119番を呼ぶのか
急な息切れや呼吸困難、胸の中央を締め付ける痛みが続く、顔色が明らかに悪い、意識がはっきりしない場合だ。多量の血痰に呼吸困難や胸痛が重なる場合も119番を優先する。
せきが何日続けば受診するのか
日数だけで緊急性は決まらない。呼吸困難、胸痛、血痰、急速な悪化があれば期間を待たず相談し、警告サインがなくても3週間を超えたせきは原因を確認する。
蜂蜜は誰でも使えるのか
1歳未満の乳児には与えない。1歳以上でも症状を和らげる根拠は限定的で、喘息、肺炎、心不全などの評価や治療の代わりにはならない。
出典・参考資料
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)急な息切れ、呼吸困難、胸部の持続する圧迫痛など119番通報を急ぐ兆候
- Q3. 夜間や早朝に出るせき(日本呼吸器学会)夜間・早朝のせきと喘息、胃食道逆流症、後鼻漏、心不全との関係
- Q1. 3週間以上続くからせき(たんのないせき)(日本呼吸器学会)長引く乾性咳嗽の原因と一部の降圧薬による副作用
- Cough(NHS)水分補給、蜂蜜入り飲料の根拠の限界、3週間を超えるせきと早期相談の兆候
- Dietary and lifestyle advice for adults with gastro-oesophageal reflux disease(Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust)成人の夜間逆流症状に対する半座位またはベッド頭側の挙上
- Colds, coughs and ear infections in children(NHS)子どもの呼吸困難、1歳を超えた子どもの蜂蜜入り飲料、市販せき・かぜ薬の注意
- ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。(厚生労働省)1歳未満の乳児に蜂蜜を与えない理由と乳児ボツリヌス症
- 赤ちゃんが安全に眠れるように(こども家庭庁)1歳未満のあおむけ寝、硬く平坦な寝具、傾斜寝具を避ける案内
- 妊娠と薬情報センター(国立成育医療研究センター)妊娠中、妊娠希望、授乳中の薬に関する相談窓口