米移民・税関捜査局(U.S. Immigration and Customs Enforcement、ICE)の拘束を原則として避ける対象には、妊娠中や出産後の人と並び、授乳中の人が含まれる。テネシー州ナッシュビルで2026年5月19日に拘束されたグアテマラ出身の女性について、代理人はこの内部指令に反すると主張し、国土安全保障省(Department of Homeland Security、DHS)は別の容疑を挙げている。

授乳中の拘束を原則回避、二つの留保

WSMVが確認したICE指令11032.4は2021年7月1日に発効し、妊娠中、出産後、授乳中と把握した人を移民法上の行政違反で逮捕、拘束することを原則として避けるよう定めている。ただし、法律が釈放を禁じる場合か「例外事情」がある場合は対象外となる。

指令が示す例外事情には、国家安全保障上の懸念や、誰かの死亡、暴力、身体への危害が差し迫る危険が含まれる。対象者を逮捕する場合は、原則として現地事務所責任者らの事前承認も求めている。指令は移民手続の開始そのものを禁じた文書ではなく、拘束するかどうかを別に判断する枠組みだ。

乳児を抱く母親(イメージ)
ICEの内部指令は、授乳中と把握した人の拘束を原則として避ける一方、法律上の釈放禁止と例外事情を留保している。(イメージ/Photo by Kristina Paukshtite on Pexels)

子どもを車に乗せる際に拘束、説明は対立

女性は身元保護のため「マリア・ペレス」の仮名で報じられている。代理人によると、ペレスさんは子どもを診察へ連れて行くため車に乗せていたところを拘束され、テネシー州からルイジアナ州のベイシル拘置センターへ移送された

逮捕状をめぐる説明は一致しない。代理人は、捜査員が夫に対する行政令状を執行するため自宅を訪れ、ペレスさん本人を拘束する令状や相当な理由はなかったと主張する。DHSは、ICEが自宅で連邦令状を執行中にペレスさんを拘束したと説明したが、その令状が誰を対象とし、本人の拘束とどう結びつくのかは明らかにしていない。

乳児と障害のある幼児、近隣住民が養育

代理人の説明では、ペレスさんには授乳中の生後10カ月の娘と、ダウン症候群と心臓疾患がある2歳の息子がいる。拘束を目撃した近隣住民が2人を引き取り、州の保護や公的機関への措置には移っていないという。DHSは、拘束時に子どもを自宅にいた別の成人へ預けたとの見解を示した。

DHSは、ICEに収容される妊娠中や授乳中の女性は極めて少なく、該当者には健康診断、必要な診療、心理面と栄養面の支援を提供すると説明した。ただし、ペレスさん本人が受けた支援の内容や、授乳中の被収容者数は公表していない。

DHSは別の容疑を提示、令状の詳細は非公開

DHSはNewsChannel 9に対し、ペレスさんが2022年5月18日に南部国境から入国し、米税関・国境警備局に拘束された後に米国内へ入ったと説明した。さらに、米国市民だと偽った過去の容疑があるとしたが、捜査中を理由に連邦令状の内容を明らかにしなかった

代理人は、ペレスさんに刑事上の前科はなく、グアテマラで受けた家庭内暴力を理由に庇護を申請していると反論する。DHSがいう「過去の容疑」が指令上の例外事情に当たるかは、公表された説明だけでは判断できない。容疑の存在は有罪判決を意味せず、令状本文も裁判所の判断も示されていないためだ。

木製の法づちと開かれた法律文書(イメージ)
女性側は人身保護請求で拘束の適法性を争い、庇護申請なども並行して進めている。(イメージ/Photo by Sasun Bughdaryan on Unsplash)

人身保護請求と庇護手続は別の経路

代理人は拘束からの釈放を求める人身保護請求を連邦裁判所へ申し立てたほか、庇護申請と複数の人道上の仮釈放申請を進め、DHSの公民権・自由権部門へ行政上の苦情を提出した。人身保護請求は当初テネシー州で出された後、本人が収容されているルイジアナ州へ移された。

NewsChannel 9は、次の期日が8月下旬に予定され、代理人が庇護申請を示すと報じた。この期日が人身保護請求の判断日だとは報じられていない。ICE指令に照らした拘束の適否、人身保護請求の結論、庇護申請の成否はいずれも確定していない。

本件を個別に扱った日本政府の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。事件の経緯は米地方局の取材、指令の内容は同局が確認したICE文書を基に整理した。裁判所の命令や令状が公開されれば、当事者双方の説明を検証する材料になる。

よくある質問

ICE指令11032.4は授乳中の人の拘束を全面的に禁じているのか
全面禁止ではない。移民法上の行政違反を理由とする逮捕や拘束を原則として避ける政策だが、法律上釈放できない場合と例外事情がある場合を留保している。

ペレスさんを拘束する令状はあったのか
確認できていない。代理人は本人を対象とする令状がなかったと主張し、DHSは自宅で連邦令状を執行中だったと説明した。令状の対象と内容は公開されていない。

子ども2人は公的機関の保護下にあるのか
代理人によると、公的機関の保護下にはなく、近隣住民が養育している。DHSは拘束時に別の成人へ預けたと説明しており、その後の正式な養育計画は確認できない。

8月下旬に釈放の可否が決まるのか
そのようには確認できない。報道が8月下旬の期日について明示したのは庇護申請であり、人身保護請求の判断時期は報じられていない。