広島は8月6日、米軍による原爆投下から81年となる「原爆の日」を迎えた。平和記念公園では午前8時15分、平和の鐘に合わせて参列者が黙とうした。AP通信は、式典に約5万人が参列し、米国やイランを含む約120の国・地域から代表が参加したと報じた。
高市早苗首相は、首相として初めて広島の式典に出席した。核兵器不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons、NPT)の枠内で、核兵器が使われない世界に向けた「現実的な取り組み」を進める考えを示した。ただし、非核三原則については日本が現在維持しているとの説明にとどまり、将来も貫くとは明言しなかった。年内に予定される国家安全保障戦略など安保3文書の改定で、「持ち込ませず」の扱いが変わるかが焦点となる。
非核三原則──法律ではなく政府の政策方針
非核三原則は、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする日本政府の方針だ。外務省の公式資料は、佐藤栄作首相が1967年12月11日の衆院予算委員会で三原則を示した答弁と、1971年の国会決議を掲載している。法律で定めた義務ではないため、政府が「堅持」と述べることと、将来の政策変更を法的に封じることは同じではない。
安保3文書の改定作業では、非核三原則も議論の対象になった。防衛相は6月9日の記者会見で、有識者会議では非核三原則が追加的に議論されたと説明し、政府は三原則を「政策上の方針として堅持」していると述べた。一方、AP通信は、高市氏が三原則のうち核兵器を「持ち込ませず」とする部分の見直しを過去に唱え、今回も将来の維持を約束しなかったと伝えている。式典での表現より、改定後の文書に何が明記されるかが政策判断の基準となる。
広島市長、核抑止への依存を批判
松井一實市長は平和宣言で、核兵器の保有を抑止力として正当化する考えを批判した。武力で自国の繁栄を追求する姿勢を受け入れれば、暴力的な報復が連鎖し、再び広島や長崎の惨禍を招きかねないと訴えた。
核軍縮を巡る国際協議は停滞している。広島市によると、2026年の第11回NPT再検討会議は核軍縮の具体策で一致できず、成果文書を採択しないまま閉会した。米国とイランを含む複数の対立を解けず、2015年、2022年に続いて3回連続で最終文書への合意に失敗した。
次の節目は、11月にニューヨークの国連本部で開かれる核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons、TPNW)の第1回再検討会議だ。広島市議会は6月26日、日本政府にオブザーバー参加を求める意見書を可決した。意見書は、日本が条約を締結しておらず、国際的な議論への関与が十分ではないと指摘している。NPTを核軍縮・不拡散の中核と位置づける政府と、TPNWへの参加を求める被爆地の隔たりは残る。
被爆者9万1105人、平均86.66歳
厚生労働省の2026年3月末統計では、被爆者健康手帳の所持者は全国で9万1105人、平均年齢は86.66歳となった。この数字は広島と長崎の被爆者を合わせたもので、被爆体験を本人の言葉で伝える機会は年々限られている。
81年目の式典が示したのは、追悼と政策の間に残る距離だ。政府は非核三原則を現在の方針として維持すると説明する一方、その将来像は安保3文書の改定後まで確定しない。TPNW再検討会議への参加方針と合わせ、年内の政府決定が問われる。
よくある質問
非核三原則とは何か
日本が核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする政府の政策方針だ。佐藤栄作首相が1967年の国会答弁で示し、1971年の衆院決議で確認された。
高市首相は式典で三原則の堅持を約束したのか
日本が三原則を維持していると述べたが、将来も維持するとまでは明言しなかった。政府は年内に安保3文書を改定する予定で、最終的な記載はまだ決まっていない。
NPTと核兵器禁止条約は何が違うのか
NPTは核兵器国から非核兵器国への核拡散を防ぎ、核軍縮と原子力の平和利用を扱う。TPNWは核兵器の開発、保有、使用などを包括的に禁じる条約で、日本は締結していない。
被爆者は現在何人いるのか
厚生労働省が集計した被爆者健康手帳の所持者は、2026年3月末で9万1105人だ。平均年齢は86.66歳となっている。
出典・参考資料
- Hiroshima marks 81st atomic bomb anniversary as mayor deplores the pursuit of nuclear weapons(AP通信)式典の参列規模、松井市長と高市首相の発言、非核三原則を巡る政治的な焦点を伝えた当日報道
- 令和8年(2026年)平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)(広島市)式典の日時、会場、午前8時15分の黙とう・平和の鐘を記載した主催者資料
- 非核三原則(外務省)三原則の内容と1967年12月11日の佐藤栄作首相答弁を掲載した公式資料
- 防衛大臣記者会見(令和8年6月9日)(防衛省)安保3文書改定に向けた議論と、政府が非核三原則を政策上の方針として堅持しているとの説明
- 被爆者数(被爆種別・都道府県市別)・平均年齢(厚生労働省)2026年3月末現在の被爆者健康手帳所持者数9万1105人と平均年齢86.66歳
- 第11回NPT再検討会議の結果に対する市長コメント(広島市)2026年NPT再検討会議が成果文書を採択せず閉会したことと、11月の核兵器禁止条約再検討会議への言及
- 2026 NPT Review Conference Stymied by Disputes(Arms Control Association)米国とイランを含む対立、成果文書の不採択、3回連続の合意失敗を整理した会議報告
- 核兵器廃絶及び世界恒久平和に向けた主な意見書・決議文の一覧(広島市議会)核兵器禁止条約第1回再検討会議への日本政府のオブザーバー参加を求める2026年6月26日の意見書