股関節痛は、股関節そのものの病名ではなく、脚の付け根から臀部までに生じる痛みの総称だ。関節軟骨や骨、関節唇、腱、滑液包、腰から続く神経のどこが原因かで、検査と治療は変わる。
鼠径部、外側、臀部という分布は問診の手掛かりになる。ただし、痛む場所だけで変形性股関節症や関節唇損傷などと決めず、発症の速さ、外傷、発熱、荷重の可否、動作との関係を合わせて評価する。
先に確認する救急受診の兆候
股関節が熱を持って腫れ、発熱や悪寒、全身の不調を伴う場合は、感染性関節炎などを除外するため当日中の医療相談が要る。転倒や事故の後に強く痛む、脚へ体重をかけられない、しびれや感覚低下が生じた場合は救急外来へ向かうか119番へ連絡する。英国の公的医療サービスNHSは、熱く腫れた股関節と発熱を緊急相談の対象とし、外傷後の激痛、歩行・荷重不能、外傷後の感覚異常を救急受診の目安としている。
高齢者では、目立つ転倒がなくても脚の付け根が痛んだ後に急に立てなくなる場合がある。日本整形外科学会は、大腿骨頸部骨折では多くの場合に立位や歩行が難しくなり、高齢者が転倒後に立てなければX線で確認すると説明している。救急車を呼ぶか、今すぐ受診するか迷うときは、実施地域を確認したうえで救急安心センター「♯7119」へ相談すると、医師、看護師、救急救命士から受診時期や救急要請について助言を受けられる。
診察では、痛む場所に加えて、発症時期、外傷、荷重、動作との関係を確認する(イメージ)。
痛む場所は原因を絞る出発点
| 痛む場所 | 診察で候補になる病態 | 一緒に伝える情報 |
|---|---|---|
| 鼠径部・脚の付け根 | 変形性股関節症、股関節インピンジメント、関節唇損傷、大腿骨頭壊死症、骨折 | 立ち上がり、歩き始め、ひねり、深く曲げる動作、外傷との関係 |
| 股関節の外側 | 大転子部の滑液包炎、臀筋腱の障害、関節からの関連痛 | 患側を下にした横向き、階段、長い歩行で変わるか |
| 臀部・後面 | 腰椎や仙腸関節からの関連痛、神経の圧迫、炎症性疾患 | 腰痛、脚への放散、しびれ、朝のこわばり、安静と運動での変化 |
脚の付け根が立ち上がりや歩き始めに痛み、進行すると持続痛や夜間痛が現れる経過は、変形性股関節症でみられる。日本整形外科学会は、問診と可動域の診察、X線で診断し、必要に応じてCTやMRIを加えるとしている。夜間痛だけを根拠に重症度や原因を決めることは避ける。
若い人や運動習慣がある人の鼠径部痛では、大腿骨寛骨臼インピンジメント(Femoroacetabular Impingement、FAI)や関節唇損傷も候補になる。米国整形外科学会の患者向け資料は、FAIでは骨の形状による接触が関節唇や軟骨を傷める場合があり、ひねりや深くしゃがむ動作で鼠径部に鋭い痛みが出ることがあると説明している。運動をしている事実だけではFAIや損傷の診断にならない。
外側の骨の出っ張り付近が痛み、患側を下にした横向き、階段、長い歩行で悪化する場合は、大転子部の滑液包や臀筋腱が評価対象になる。米国整形外科学会は、大転子部滑液包炎では股関節外側から大腿外側に痛みが広がり、夜間の側臥位、椅子からの立ち上がり、長い歩行や階段で強まると示している。外側痛のすべてを「滑液包炎」と呼ぶのではなく、圧痛や筋力、腰の症状も診察する。
比較的急に股関節痛と跛行が始まり、ステロイド薬の使用歴や多量飲酒がある場合は、大腿骨頭壊死症を医師へ伝えるべき候補に含める。日本整形外科学会は、特発性大腿骨頭壊死症が飲酒やステロイド薬の服用と関連することがあり、初期のX線で変化が見えないため、疑われる場合はMRIを撮ると説明している。処方中のステロイド薬を自己判断で中止してはならない。
臀部痛や複数の関節の腫れがあり、安静時より体を動かした方が軽くなる経過では、炎症性疾患も鑑別に入る。日本整形外科学会は、強直性脊椎炎が若年者の仙腸関節痛、臀部痛、股関節などの痛みや腫れで始まり、安静時より運動時に軽くなる特徴を挙げている。この経過だけで病名は決まらず、整形外科やリウマチ科での診察と検査が要る。
受診先と画像検査──整形外科を起点にする
外傷、歩行時痛、可動域低下、動作に伴う鼠径部痛では、まず整形外科が起点になる。問診と理学診察で、股関節自体、周囲の軟部組織、腰からの関連痛を分け、必要な画像検査を選ぶ。複数の関節が腫れる、朝のこわばりが続く、炎症性疾患が疑われる場合はリウマチ科への紹介が選択肢になる。リハビリテーション科は、診断後の運動療法、動作や歩行の再構築、術後の機能回復を担う。
慢性痛の初期から全員にMRIを行うわけではない。変形性股関節症では問診、可動域の診察、X線を基本とし、必要に応じてCTやMRIを追加する。FAIではX線で骨の形を見て、MRIで関節唇や軟骨の損傷を調べる場合がある。日本で実際にどの検査から始めるかは、外傷の有無、年齢、診察所見、利用できる設備でも変わる。
X線やMRIは一律に選ばず、診察で疑う病態に合わせる(イメージ)。
治療は診断後に組み立てる
股関節痛に共通する単一の治療手順はない。変形性股関節症では、痛みを強める動作の調整、過体重がある場合の体重管理、杖などの補助具、運動療法、医師が選ぶ薬物療法を組み合わせる。日本整形外科学会は、運動療法を慎重に始めて徐々に強度を上げ、保存療法で症状が取れない場合に、病期に応じた骨切り術や人工股関節手術を検討するとしている。
FAIや関節唇損傷では、症状を誘発する動作の調整と理学療法を先に検討し、画像で関節損傷が確認され、非手術治療でも痛みが続く場合に手術が候補になる。大転子部の滑液包や腱の痛みも、活動調整と理学療法が基本になる。注射は病態、製剤、持病、常用薬で利益と不利益が変わるため、診断前の一律な選択肢にはならない。
痛みを我慢して同じ高負荷運動を続ける必要はない一方、長期間まったく動かさないと筋力と生活機能が落ちる。運動の種類と負荷は、痛みの原因、転倒リスク、現在の筋力に合わせて医師や理学療法士と決める。急に荷重できない、発熱や腫れがある段階では、運動より診察を優先する。
運動療法は診断と身体機能に合わせ、負荷を段階的に調整する(イメージ)。
小児、妊婦、持病や常用薬がある人
小児。 成長期には成人と異なる股関節疾患や骨折がある。NHSは、小児の急な股関節・大腿・膝の痛み、跛行、片脚へ体重をかけられない状態は急いで医療相談し、痛みの悪化や発熱があれば再評価を受けるよう示している。日本整形外科学会も、小児が足に体重をかけられない場合、歩けるから骨折ではないと自己判断せず整形外科を受診するよう求めている。
妊婦。 妊娠中は股関節周囲、恥骨、仙腸関節に妊娠関連骨盤帯痛が現れる場合があり、成人一般のストレッチや薬をそのまま使わない。Cambridge University Hospitalsの患者向け資料は、妊娠関連骨盤帯痛が股関節や仙腸関節を含む骨盤に生じ、歩行、片脚立ち、寝返りで痛む場合があると説明し、助産師から骨盤・産科理学療法へつなぐ対応を案内している。妊娠中の新しい痛みは、まず産科の担当者へ伝える。
持病や常用薬がある人。 ステロイド薬の使用歴、骨粗鬆症、関節リウマチ、がんの治療歴、糖尿病、抗凝固薬を含む常用薬は、診察時にすべて伝える。市販薬や注射の適否が変わるため、処方薬を自己判断で増減・中止せず、医師または薬剤師へ確認する。
よくある質問
鼠径部が痛ければ変形性股関節症なのか
鼠径部痛は変形性股関節症でみられるが、FAI、関節唇損傷、大腿骨頭壊死症、骨折でも起こる。年齢や場所だけではなく、発症の速さ、外傷、荷重、可動域、画像所見を合わせて診断する。
MRIを撮れば原因はすべて分かるのか
MRIは関節唇や腱などの軟部組織、早期の大腿骨頭壊死症の評価に役立つが、画像上の変化が痛みの原因とは限らない。慢性股関節痛では診察とX線を起点に、疑う病態に応じて追加する。
痛みがあっても運動した方がよいのか
診断と痛みの程度で変わる。発熱、腫れ、外傷後の強い痛み、荷重不能があれば運動を始めず受診する。救急兆候がなく、変形性股関節症などで運動療法を行う場合も、痛みを強めない負荷から段階的に進める。
夜に痛むと手術が必要なのか
夜間痛は進行した変形性股関節症でも起こるが、夜間痛だけで手術適応は決まらない。診断、画像所見、歩行や睡眠への影響、保存療法の経過、本人の希望を基に整形外科で判断する。
出典・参考資料
- Hip pain in adults(NHS)成人の股関節痛で緊急相談や救急受診を要する症状を示す公的医療情報
- 救急安心センター事業(♯7119)ってナニ?(総務省消防庁)救急車要請や直ちに受診すべきか迷う場合の電話相談と実施地域を案内する公式資料
- 「変形性股関節症」|症状・病気をしらべる(日本整形外科学会)症状、X線を基本とする診断、保存療法と手術療法を説明する一般向け資料
- 「特発性大腿骨頭壊死症」|症状・病気をしらべる(日本整形外科学会)症状、飲酒・ステロイドとの関連、早期診断でのMRI、治療法を示す一般向け資料
- 「大腿骨頚部骨折」|症状・病気をしらべる(日本整形外科学会)転倒後の脚の付け根の痛みと歩行不能、X線診断を説明する一般向け資料
- Femoroacetabular Impingement(OrthoInfo, American Academy of Orthopaedic Surgeons)FAIの構造、鼠径部痛、関節唇損傷との関連、画像検査と治療を説明する専門学会資料
- Hip Bursitis(OrthoInfo, American Academy of Orthopaedic Surgeons)大転子部滑液包炎の痛みの場所、誘発動作、診察と非手術治療を説明する専門学会資料
- 「強直性脊椎炎」|症状・病気をしらべる(日本整形外科学会)若年者の臀部痛や股関節痛、安静時と運動時の特徴、診断を説明する一般向け資料
- 「小児の骨折」|症状・病気をしらべる(日本整形外科学会)小児が脚に体重をかけられない場合に自己判断せず整形外科を受診するよう示す資料
- Hip pain in children (irritable hip)(NHS)小児の急な股関節痛、跛行、荷重不能、発熱を伴う場合の受診目安を示す公的医療情報
- Pelvic girdle pain (PGP) in pregnancy(Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust)妊娠関連骨盤帯痛が股関節周囲にも現れることと、助産師から理学療法へつなぐ対応を説明する資料